第28話 疑惑と罠
「
私は、破様の事務所を訪れた。
目的は、ゲンシン殿の弟子の家族に、
「
「失礼いたします」
破様の事務所は、いつも綺麗に整理されている。
整理されていると言うか、あまり物がないと言った方が正しいかもしれない。
スタッフの数自体が少なく、書類で溢れている所など見た事がない。
「何か用か、豹」
「はい。破様はゲンシン殿の弟子の身内を匿っておられますね?」
前置きなど要らない。
破様はそういう性格だ、吠様に似ている。
「あぁ、そうだな」
「
「その通りだ。本当ならば、弟子を保護したかったのだが間に合わなくてな。弟子の家族数人を保護するので精一杯だった」
「なるほど……。1つ、お願いがあるのですが……」
「構わん」
「え?」
私はまだ何も言っていないにも関わらず、破様はニッコリと了承して下さる。
これは、私がここへ来た目的を既に理解していらっしゃるという事か。
「吠がその弟子の家族に会いたいと言っているのだろ?」
「何故、それを……?」
「吠の刀が折れたと聞いたからな」
「な!?」
吠様の刀が折れた件は、緘口令を敷いている。
知っているのは、あの作戦に参加した中でもごく一部。
それを知っているという事は、誰かが故意に漏らしたか、あるいは……。
「なかなかの影をお持ちのようで……」
「何、蛇程ではない。数も少ないしな。全員で5人程度しかおらん」
「しかし、吠様の刀が折れた件は、緘口令を敷いています。それを既にご存じとは……」
「ハハハ、隠されると知りたくなるもんだろ?それに、私は味方だ。だからこそ、弟子の家族に会う許可を出したのだ。吠には刀が必要だ」
「ありがとうございます……」
自分から味方だと言われるのも、何とも言えない違和感を感じる。
吠様の言う通り、破様は警戒しておいた方がいい。
蒼狼と繋がっているかどうか以上に、この方自身が組織を牛耳ろうとしてもおかしくないからだ。
ドッズの弟の件もそうだ。
武器を作らせているとしたら、破様が関わってる筈。
ドッズの弟が罠だとして、仕掛けるのは破様以外に考えられない。
「破様」
「なんだ?」
「最後まで吠様や黄様をお支え頂けると確信しております。では」
「待て、豹」
私が振り返ると、破様が呼び止めた。
「なんでしょう」
「まるで私が裏切るかのような言い方だな、豹」
「お気に触られたのならご容赦ください。しかし、破様は最も敵に回したくないタイプですので」
「正直なのはいいが、そこまで正直だと笑えるな、豹。安心しろ、蒼狼を消したいと思っているのは黄や吠だけじゃない」
「それを聞いて安心しました」
「ところで豹、お前に頼みがあるんだが」
「なんでしょう?」
「私が使っている隠密5人も、お前の配下に加えて欲しい。なんなら、鍛えてもらえると助かる」
「それは……、諜報分野を統一する、という事でしょうか?」
「その通りだ。一元化した方がリソースも無駄にならない」
「助かります。では、そのように」
そう言って私は破様の事務所を後にした。
配下に加えろと言うのはどういう事か。
あまり信用してはならない気がする。
とにかく、破様の手駒だった5人はタイパンの指揮下に入れる事にした。
奴なら大丈夫だろう。
タイパンの事を信頼し始めている自分自身にすこし笑いが込み上げてきた。
†
「破様からの許可は得たそうですが、くれぐれもお気を付けください」
「ありがとな、ジムグリ」
俺は王国へ戻ってきていた。
ゲンシン殿の弟子・ドッズの弟に会うためだ。
ちょうど王国に帰国した所を、連絡担当のジムグリが迎えてくれ、破のオッサンからドッズの弟に会う許可が出た事を聞いた。
このジムグリは『蛇増強計画』の最初期補充人員で、今は連絡役として王国中を走り回されている。
幼さの残る
いまいち緊張感に欠ける笑顔が印象的だ。
「ジムグリ、この後暇か?」
「え?特にこの後も命令は、まだ頂いていません」
「ならちょうどいい、お前も来い」
「え?私もですか?」
「暇なら付き合え」
「いいんでしょうか……?」
そう言って、ジムグリはエルウィンの顔を覗き見る。
どうやら、俺とエルウィンの邪魔になると思っているのだろう。
まぁ、俺達の関係は組織内に既に知れ渡っている。
「気にするな、来い」
「承知しました!」
ジムグリは嬉しそうに俺達の後を付いてくる。
「吠、どういうつもり?」
「どうもこうも、相手は破のオッサン。黄陣営で最も警戒すべき相手だ。豹が言う通り何かの罠だった場合、ジムグリを走らせる。悪いがエルウィン、お前は俺と一蓮托生だ」
「……、今更な事を言うのね。望む所よ」
物珍しそうにキョロキョロと辺りを見回すジムグリを連れ、俺達は破のオッサンの
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