第26話 遺作と罠の匂い

 ゲンシンは初め、王国政府が制定している『時空放浪者ベイグラント保護制度』を利用しようとしたらしい。

 世界中でこの様な制度を作っているのは王国だけだ。

 だからこそ、世界中から時空放浪者が集まって来る。

 ゲンシンもその1人だったのだろう。

 しかし、認可が下りた時には既に姿を消していたらしい。

 恐らく、申請した後から認可が下りるまでの1週間程の間に、先代の呑龍トゥンロンに引き取られたのだろう。

 となると、消えたのは王国内。

 呑龍が拾った事を鑑みれば、西部の街にいたと考えるのが妥当か。


「それで、俺に伝える事ってなんだ?」

「まずは、ゲンシン殿が時空放浪者保護制度を利用しようとした後の足取りに関してです」

「何か分かったか?」

「やはり、先代と接触し、そのまま九龍会のお抱えになったようで」

「だろうな」

「そして、最初に居を構えたのはこの街。先代の縄張りではなく、ポォ様が仕切る街だった様です。ここで約1年、主に大刀ダイトウを作られていたとか」

「刀ではなかったのか」

「はい。その時に1人、弟子入りしたようです。人間ヒュームのドッズ」

「あの眼つきの悪いドッズか」

「吠様もご存知でしょう。一番弟子にして、最もゲンシン殿の技術を受け継いだと言われる人物です」

「しかし、ドッズは死んだだろ。蒼狼ツァンランのせいでな。ドッズだけじゃない、爺さんの弟子は全員殺されてる」

「いかにも。しかし、調べてみたのですが、弟子達の身内が数名、辛うじて難を逃れて生きていました」

「本当か!?居場所は分かるか?ゲンシンの遺作に関して、何か知っているかもしれん!」

「それが……」


 急に豹の言葉が詰まる。


「なんだ?何か問題でも?」

「弟子達の身内で生きているのは、ドッズの弟、ナナキの息子夫婦、そしてラウトの妻の4名ですが、その全員が殿

「……、破殿か」

「破殿の許可を得られなければ、彼等には会えないかと……」

「だろうな……」


 試されている気がしてならない。

 とは言っても、ゲンシンの遺作はどうしても欲しい。

 今後、蒼狼と事を構えるにあたって、戦闘中に何本も刀を携帯したまま戦えない。

 信頼できる1振りが欲しい。

 そうなると、ゲンシンの作った刀しかない。


「豹、破殿に会うぞ。段取りを頼みたい。それと、この事はファンにも伝えておいてくれ」

「承知しました」


 重要な話はそれくらいで終わり、俺達はヴシ族の料理を楽しんだ。

 元が時空放浪者の民族だ、出てくる料理も珍しいものばかり。

 魚を甘辛く煮たものや、褐色のスープ、酒も独特な匂いの蒸留酒だ。


「豹、ちゃんと食え」

「頂いていますよ、吠様」

「それにしても見た事ない料理ばっかり!どれも美味しいわね」

「脂が少ない料理ですね、身体に良さそうです」


 何だかんだ豹も食べる方なので、テーブルには溢れんばかりの料理が並べられている。

 それにしても美味い。

 ヴシ族はパンの代わりに、コメと言う穀物を主食にしているらしい。

 このコメ、侮れない。

 どの料理とも相性がいい。


「少数民族って聞いたから、料理には期待してなかったけど、これは凄いわね」


 エルウィンも満足しているようで良かった。

 ヴシ族の集落に来て初めてヴシ族の料理を食べたのだ。

 それまでは用意していた携帯食を先に消費したくて食べていた。

 もっと早く食べるべきだったと少々後悔している。


「それで、黄の様子はどうだ?」

「お変わりありません。シロが補佐に就いてからは、ご負担も軽減されたようで。それと、蛇の増員が決まりました」

「遂にか。まぁ、今後を考えると増やした方がいい。元老会の他のメンバーとの連携は?」

「つつがなく。破殿がまとめて下さっております」

「破殿には気を付けろよ。あの御方は読めない」

「もとより、承知しております」

「ちょっと、そういう話は食事の時以外にしてよー」

「ハハハ、確かにな。まぁ、問題が起きていないならいい」

「……、吠様」


 豹が手を止め、改まって言って。


「なんだ?」

「こちらを」


 そう言って取り出したのは一枚の羊皮紙。

 それは地図だった。


「私は一応、破殿に吠様が弟子家族とお会いになる許可を頂きますが、是非に関係なくここを訪ねて下さい」

「これは?」

「一番弟子、ドッズの弟の居場所です。刀を作っているという噂も」

「噂?」


 妙な事を言う。

 蛇の当主である豹が、何とも曖昧な言い方だ。

 それはつまり、確証がないという事。

 罠の可能性がある。


「罠を疑っているんだな?」

「はい。その町で、ドッズの弟は鍛冶屋ブラックスミスをしています。農具や包丁、ハサミなどを作っているようです。しかし、町では武器を作っているとも言われているようですが」

「その痕跡がない。武器を作っているならば、何処かへ出荷してる筈だが、そんな痕跡がないと」

「その通りです」

「……、行ってみる価値はある」

「しかし、もしも罠であったら……」

「心配するな。俺は斥候スカウト、エルウィンは野伏レンジャーだぞ。そうそう罠には掛からん」

「全く持ってその通り、私達の実力を甘く見ないでよね、豹」

「それは重々承知しております。しかし……、吠様に何かあれば、全てが瓦解してしまいます……」


 既に蒼狼とは戦争に突入した。

 ここで俺に何かあれば、なし崩しに全てが崩壊するのだ。

 しかし、そんな事はさせない。


「大丈夫だ。奴の首を取るまで死ねねーよ」


 俺はそう笑って、酒を一口飲んだ。

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