第24話 本格的な始動

「定刻となりましたので、始めさせていただきます」


 私は元老会メンバーとの定期会合を取り仕切っていた。

 この会合に出席するのは、蒼狼ツァンラン側のメンバーを除いた6名と、私、そして兵の指揮官に任命したインと蛇の指揮官であるパオ

 今回は豹がフェイの元へ行ったので、代わりにシロが出席している。


ファン、まずは聞きたい事がある」


 私が議題を出す前に口を開いたのはポォ殿だった。

 何が言いたいのかは予想が付く。


「何でしょうか、破様」

「蒼狼が魔王軍残党を手駒としたと言うのはまことか?」

「……、流石は破様。お耳が早い」

「という事は、誤報ではないのだな」

「これに関しては、シロの方から説明を」

「はい。まずは、皆様に資料をお配り致します」


 そう言って、シロは羊皮紙を1枚ずつ全員に配った。

 そこに記載されていたのは、蒼狼配下になった魔王軍の残党部隊の全兵力についての詳細。


「ご覧いただいているのは、現時点で判明している魔王軍残存部隊の全兵力です」


 一瞬にしてその場が凍り付いた。

 総兵力、50万。

 その圧倒的な数に、誰も息を飲んだのだ。


「これだけの数が……」

「先程も申し上げた通り、の数です。つまり、最低限の数であり、この数を下る事はあり得ません」

「……」


 シロの奴、脅し過ぎだ。


「シロ、もういい」

「はっ」

「お歴々にもお分かり頂けたとは思うが、圧倒的に不利だ。それに加え、蒼狼は既に10万の兵士を鍛え終わっている」

「合わせて、最低でも60万と戦うのか……?」

「勝てる見込みなど、万に、いや億に一つもないではないか……」

「まぁ、落ち着け。何の策もなくこの様な不安材料を提示した訳ではないのだろ?黄」


 絶望するお歴々を諫めたのは、やはり破殿だった。

 個の方が味方である事は、何よりも心強い。


「いかにも。これで手をこまねいていては、到底蒼狼を倒せません」

「ほほぉ、自信があると?」

「そうではございませんよ、破様。どれだけ出来るかは分かりませんが、この数を減らす事は不可能ではありません」

「どうやるつもりだ?」

「魔王軍残存部隊が合流してまだ日が浅い。ならば、内部から瓦解させる事も出来るかと」

「うむ……」


 破殿の目の奥が光る。

 同じ事をお考えであったのだろう。


「それは思い付く策だ。問題は、その手段。間違えれば団結を促す事になるぞ」

「それも承知しております。しかし、やらなければ、60万を超える兵に蹂躙されるのみです」

「分かっているなら良い。して、その仔細は?」

「それに関してはシロから説明を」

「はい」


 シロは再び立ち上がり、蛇の諜報能力を前面に押し出した策の説明を始めた。



 俺とエルウィンがヴシ族の街へ帰ると、そこに豹が待っていた。


「吠様!」

「おー!豹じゃないか、どうした?」

「すぐにお伝えしたい事がありまして」


 そう言って、豹は俺の全身を舐めるように見る。


「それより……、大丈夫ですか……?」


 俺の身体はあちこち怪我をしていた。

 全てが軽傷なのだが、その数の多さで豹が心配しているのだろう。


「あぁ、これか?」

「吠ったら、代用の刀だって言うのに無理するからよ。ここに来て、もう3本も折ったのよ」

「3本!?」

「やっぱ、ソハヤじゃないと耐えれないみたいでな」

「どういう使い方をしているんですか……」

「調子に乗って、瞬間的に魔力で威力を上げるのよ。前のソハヤなら、微量であっても緋緋色金オリハルコンが含まれてたから何とか耐えてたけど、普通の刀なら1回で折れるわ」

「魔力で……、威力を上げる……?」

「あー、豹には言ってなかったか?俺、どうも魔術の素養があるらしくてな。攻撃魔術なんかは使えないが、瞬間的に自分の肉体を強化する事は出来るんだよ。それを応用して剣速を上げたり出来る」

「……はい?」

「その話は置いておきましょう。豹は何か用があったんじゃないの?」


 世間話をしていた豹は、ハッと思い出したかのように居直り、話し始めた。


「まず、吠様にご報告が。蒼狼が魔王軍の残存部隊を全て配下に入れました。これで、あちら側の兵力は60万程に」

「ついにそうなったか……。てことは、蒼狼の魔王化は、既に実現できるレベルに達したって事だな」

「恐らく」

「で、蛇はどう動くつもりだ?」

「蒼狼と残存部隊の間の不和を増長させます。こちらの兵力は?」

「多く見積もっても10万」

「ハハハ、勝機なんてあったもんじゃないな」

「笑い事じゃないでしょ……」

「むしろ笑うしかないだろ。多勢に無勢。って事は俺達がやる事は1つだ」

「急襲から、神速で大将首を取る」

「その通りだ、豹。蒼狼にやられた事を、今度は俺達がやる」

「奴等もそれは理解している筈。上手くいくのでしょうか……?」

「やるしかないだろ。出来なきゃ、全滅だ」


 豹が押し黙る。

 脅し過ぎただろうか。

 とは言っても、間違いではない。


「気負うな、豹。死ぬ時はみんな一緒だ。ただ、ダメだった時の為に、上将軍には知らせておけ。蒼狼が魔王化したら、止められるのは王国軍だけだ」

「御意に……」


 実際、王国軍に止められるのだろうか。

 恐らく、散在していた残存部隊を集めるのだろう。

 そうなれば、今の王国軍でも止めるのは難しいかもしれない。

 まぁ、あの上将軍だ。

 そこは何とかしてしまいそうな気もする。


「ちょっと、吠。豹の戦意を喪失させてどうするのよ?」

「そんなつもりじゃなかったんだがな……」

「それより、少し早いけど夕食にしましょう?豹も一緒にどう?」

「え?しかし、私はすぐにでも黄様の元に戻らないと……」

「黄にはシロが付いてる、問題ないだろ。たまには付き合え、豹」

「そう言えば、吠様にお伝えすべき事が他にもございまして……」

「だったら飯を食いながらだ」


 俺は無理矢理豹と肩を組み、ヴシ族の歓楽街へと向かうのだった。

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