第23話 暗躍する者達

ファン様、今し方報告が上がって参りました」


 シロが珍しく神妙な面持ちで言った。

 常に表情の変化が乏しいシロだが、それでも付き合いが長くなれば分かって来る。

 何か、重大な報告が上がって来たのだろう。


「なんだ?何かあったか?」

「ブンガルスからの報告です。蒼狼ツァンランが魔王軍残存部隊の全てを配下に入れたそうです……」

「残存部隊全てだと……?」

「予想はしていましたが、ここまで早くまとまるとは……」

「施設を破壊したのが発端だろう、本格的な武力戦になるのを見越しての事だ。仕方あるまい、どちらにせよこうなると分かっていた」

「蛇達には欺瞞工作と情報収集に専念させます。ここまでの大きさになれば、綻びも出やすいかと」

「それは我々も同じだ。急激に大きくなった組織が内から瓦解するのが常。私は組織維持に専念する。インには引き続き兵力の増強を。シロ、目ぼしい奴がいたら蛇に引き抜け」

「よろしいのですか?」

「蛇の数も有限だ。敵の規模が大きくなれば人手も足りなくなるだろう」

「承知しました。では教官にはブンガルスを指名します。前線ではなく、各拠点の連絡役などの後方へ投入します。手練れは全て現場へ」

「頼むぞ」


 ここからが戦争だ。

 魔王軍の残党と言えど、全てが集まればかなりの数になる筈。

 これで我々が数的優位に立つことは万に一つもなくなった。

 情報と作戦さえしっかりしていれば、何とかやり合えるという事が先の作戦で証明された。

 全てはこの勝利から始まっている。

 しかし、それも完全な不意打ち、しかも相手は我々が武力行使に出るとは思っていなかったからこその勝利だ。

 今後はそれもなくなる。

 相手も備えてくる。

 そうなった場合、モノを言うのは兵の質ではない、数だ。

 正攻法では勝機など皆無。

 だからこその欺瞞工作。

 魔王軍残党が正式に蒼狼の配下になったばかりの今、それが最も有効だ。

 不和の種を撒き、攪乱する。

 元々蒼狼側の陣営は、暗黒種族を下等だと蔑んでいる。

 一方、魔王軍残党は人間の配下になる事に不満がある。

 その歪みを増長させれば、いつか亀裂にまで成長する。

 それがいつになるかは分からない。

 しかし、やっておくだけの価値はある筈だ。

 とにかく、それはシロ達、蛇に任せよう。

 私は、同じような事が私の陣営内で起きないように努める必要がある。

 元老会メンバーとは定期的に会合を開き、情報を共有している。

 共有しているとは言っても、こちらが一方的に情報を与えているだけなのだが。

 正直、この様な状態はあまりよろしくない。

 一方的に情報を与えるだけだと、疑念を抱かせる可能性がある。

 それはフェイから釘を刺された。

 真偽を疑う余裕もなく、情報を与え続ければ、疑心暗鬼を生じるかもしれないと。

 人と言うのは、与えられた情報よりも、自らが苦労して入手した情報を信じたがるモノらしい。

 それが間違った情報だったとしてもだ。

 その事もしっかりと覚えておけと言われた。

 正直、そんな事まで考えながらやっていけない。

 なので、その辺りはシロに丸投げした。

 今、私の側についている元老会メンバーが裏切る事のないよう、監視と与える情報の精査をやらせている。

 情報に関しては、彼女等以上に長けた者はいないからだ。

 私など、出る幕もない。

 結局のところ、問題となるのは兵力差。

 これまで以上に慎重に事を運ばなくては……。



「お忙しいところ申し訳ございません、上将軍閣下」


 私は何度目か分からない謁見に王都を訪れていた。


「そろそろ来る頃だと思っておったぞ、ピュート」

「流石は閣下。つまり、は既にお耳に?」

「あぁ、昨日一報が入った。九龍会が秘密裏に造った地下施設が襲撃にあったらしいな」

「はい。恐らく、ファンの陣営が潰したと思われます。屍喰鬼グールの量産を行っていたのがその施設であった様です。申し訳ございません、場所を突き止める前に潰されてしましました」

「何、気にするでない。なくなったのであれば懸念材料が1つ減ったという事だ。喜ばしい」


 そうは言うが、閣下は全く嬉しそうではない。

 恐らく、の報告も受けたと見える。


「閣下、魔王軍残党が九龍会配下になった事もご存知でしょうか」

「……、お前が言うのだから、間違いないのだな……。誤報であって欲しかった……」

「申し訳ございません。世間一般には全く知られていませんが、確かです」

「はぁ……、問題が1つ減ったと思ったらまた増える……。繰り返しだな」

「全くです」


 本気で戦争のていを成してきている。

 閣下も、今後どう動くかを悩んでいるのだろう。

 表立って軍を動かせば王国内の情勢が不安定になる。

 問題が起きているのは西部のみ、他の地域から兵士を集めれば情勢不安から治安が悪化する箇所が出てくるだろう。

 国同士の戦争ではないが故に、割ける人員も限られてくる。


「して、ピュート。お主はそんな世間話をする為に来た訳ではないのだろ?」


 閣下がニヤリと笑う。

 やはり、この御仁には勝てない。


「はい。施設は破壊されましたが、その場所を割り出す為に色々と調べていたのですが、面白い事が分かりまして……」

「面白い事……?」

「閣下、西しに行きませんか?」


 この時の私はどれだけをしていたのだろう。

 私のこの言葉に、閣下も何かを察してくれたらしく、同じくニヤリと笑った。

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