第22話 成熟する脅威

「お前が蒼狼ツァンランか」


 1匹の黒醜人オークが俺を見ながら言った。

 ここに集まったのは、この黒醜人を初め、食人鬼オーガ巨人トロル単眼鬼サイクロプス石翼鬼ガーゴイル矮鬼ゴブリン狗鬼コボルド小鬼インプの魔王軍残党指揮官達だ。

 現在、軍として統制の取れた動きをしているのは、コイツ等が指揮する部隊。

 逆に言えば、その他は意思疎通もなく勝手に動いているいわゆる野良だ。


「矮小な人間ヒューム如きが、我々を呼び出して何とする?」

「お前は私の名前を知っているのだろ?だったら名乗ってはどうだ?失礼であろう?」


 黒醜人は他種族を見下す。

 まぁ、それは暗黒種族全体の傾向ではあるが、鼻に付くのには変わりない。

 俺は黒醜人語で言い返した。

 黒醜人語を喋れないと高を括って暴言を吐いている可能性もある。


「何様だ、お前は」

「それはこっちの台詞だ、豚鼻ぶたばな

「何だと!?」


 豚鼻とは黒醜人に対する差別的な呼び名で、いわゆる蔑称だ。

 豚鼻と言われ、鼻をブヒブヒと鳴らしながら怒りを露わにする黒醜人の姿は、まさに豚である。


「ブーブー五月蠅いと言っているのが分からんのか。しばらく黙っていろ」

「貴様!」

「まぁ落ち着け、バルド。痴話喧嘩をする為に呼び寄せたのではないのだろう、蒼狼」


 割って入ったのは食人鬼の男。

 コイツはなかなか頭が良さそうな食人鬼だ。

 でないと困るのだが。


「お前の名は?」

「ズールだ」

「ズール、ここにいるのは現魔王軍、各種族の最高指揮官なんだな?」

「その通りだ。私は食人鬼のズール、コイツは黒醜人のバルド、単眼鬼のキュロイ、石翼鬼のガエル、狗鬼のジルソ、矮鬼のガープ、小鬼のナンプだ。現時点で最高指揮官であり、それぞれの種族の長とも言える」

「随分とみな若いな」

「戦争で先に年寄りが死んだからな。それだけ種族全体の数も少なくなっている。そんな事より、本題を話してくれないか?」


 こちらの思い通りに話を進めてくれる食人鬼だ。

 コイツはなかなか役に立ちそうだ。


「なに、さほど真新しい話でもない。もうすぐ、魔王が復活する。それに合わせ、お前達には王都への進攻を頼みたい」

「魔王様が、復活!?」

「それは本当か?」


 俄かに全員が浮足立つのを感じだ。

 何とも単純な奴等だ。


「具体的に、いつだ?100年後や200年後などというオチではなかろうな?」

「正確な日時までは分からん。しかし、半年以内。半年以内には復活させられるだろう」

「それは真実か!?」

「まずは、これを見てくれ」


 そう言って、俺はこの間成功した人工魔術師ストライゴンを出した。


「何だ、コイツ等は?」

「妙な魔素オドを宿しておるな……」

「魔術の心得がある者には分かるだろうが、コイツ等は純然たる魔術師ではない。我々が人工的に作り出した魔術師だ」

「人工的に!?」

「そんな事が出来るのか!?」

「神を冒涜している!」

「ご意見は様々あるだろうが、現に出来上がっている。ズール、試験的に運用してみないか?」

「何処まで使えるかの耐久試験か?」

「そんなところだ。どうだ?」

「……、まぁ面白そうではあるな。分かった、預かろう」

「これより、貴殿等魔王軍は我々九龍会と一蓮托生となってもらう。見返りは、魔王の復活」

「それは、今までの協力関係ではなく、一体となって動けという事か?」

「いかにも。以降は私の指揮の元に動いてもらう」

「何故貴様が指揮を執る!?」

ていのいい隷属ではないか!!」

「いかにも。貴殿等は九龍会の下部組織という形になる。文句は言わせん」

「何だと!?」

「横暴にも程がある!!」

「現時点で、我々九龍会よりも資金も人員も多い組織は、貴殿等の中にあるか?王国軍相手に無駄な消耗戦ばかりで、兵数もまともに集められないのではないか?」


 私のその一言で、全員が押し黙った。

 どの部隊もジリ貧の苦しい状況なのだ。

 そんな事はコイツ等に聞かなくても分かっている。

 だからこそ、私が吸収してやろうと言っているのだ。

 コイツ等に断る理由などない。


「九龍会の下に付けば、人員も資金も補充してやる。私の部下になれ。共に王国を、いや世界を手にしよう!」

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