第18話 刀工と剣士
その部族は、自分達の事を『ヴシ』と呼んでいる。
数百年前に200名弱が一遍にこの世界へ落ちてきたと言われている。
今では2万くらいに増え、独自の文化で生活していた。
5000人規模の集落を5つ程形成し、王国の西に位置する無主地域の密林に住み着いている。
刀を使うこの『ヴシ族』は、比較的話の分かる部族としても知られ、義理堅い性格である反面、敵対すれば徹底的に叩き潰す冷酷さも持ち合わせているらしい。
侵略する者に対しては冷酷だが、友好的な者には手厚く尽くす。
敵にはしたくない部族の1つだ。
「そのヴシ族だけど、そこでゲンシンの情報は手に入るの?」
「正直分からん。空振りの可能性もある」
「賭けな訳ね……。まぁ、気長に行きましょう。所で、5つの集落の内、どの集落に向かってるの?」
「彼等が『モトマチ』と呼んでいる集落だ。人口も一番多く、ヴシ族の中枢となってる」
「言わば、彼等の首都ね」
「そういう事。そろそろ着くぞ」
密林の道を進むと、大きく開けた場所に出た。
目の前には巨大な城壁。
しかも、王国で主流の石造りではない。
木の柱の間に、白い土の塗壁、土台は形がバラバラな石を綺麗に組んでいる。
今まで見た事のない種類の城壁だ。
王国の物とは違った美しさがある。
「止まれ、旅の者。何用だ?」
木製の城門の上に立つ兵士が、俺達に弓を引きながら言った。
城門の上には4人の兵士。
全員が
「ここはヴシ族のモトマチか?」
「そうだが?」
「俺達は、
「刀の修理?」
「戦闘で折れてしまってな。モトマチなら、腕のいい刀鍛冶がいるんじゃないかと思って訊ねてきた。入れてもらえないか?」
「しばし待て」
そう言って、1人が姿を消す。
許可を取りに行ったのだろう。
敵対的ではないと分かってくれたのか、残った兵士達は警戒を解き、矢を矢筒に戻した。
「受入てくれるのかしら……?」
「さぁな。族長の判断次第だな」
そう言って、城門の小さな扉が開く。
「旅の方々、よく参られた。許しは出ました故、中へどうぞ」
先程姿を消した兵士がニッコリと笑顔で出迎えてくれたのだった。
†
「これはかなりの業物じゃな。お主、これを何処で手に入れた?」
俺とエルウィンはモトマチでも一番と言われる
族長との謁見の際に、折れたソハヤの話をした。
同じ刀を使う者として、俺達は痛く気に入られた様で、二つ返事で刀の修理の為の滞在を許可してくれたのだった。
そして、折れたソハヤを鍛冶屋のじいさんに見てもらっている。
「ゲンシンという刀鍛冶から貰ったものだ」
「うむ、身幅が広く豪壮なこの作り……。間違いなく『ミーケ』の『テンタ』であろう。銘からしても、間違いない」
爺さんがブツブツと呟く。
「『ミーケ』の『テンタ』?」
エルウィンは初耳のようで、全く意味が分かっていないようだ。
かく言う俺も、昔ゲンシンが言っていた事をうろ覚えなのだが。
「『ミーケ』ってのは聞いた事がある。ゲンシンもそこから来たとか言ってたな」
「この刀を作ったのもいわゆる
爺さんは酷く感心していた。
それだけ良い刀だったという事か。
まぁ、使っていた俺がそれを一番よく理解している。
折れず、曲がらず、恐ろしく切れ味が鋭い。
刀身はまるで生きているかの様に思う事さえあった。
「『ミーケ』と言うのは、儂等の先祖が元々いた世界の国の名前じゃ。そこでも名刀を作る流派がいくつか存在していてな。その1つで、ミーケ派やテンタ派と呼ばれておった」
「ふ~ん、有名だったんだな」
「しかし、これの修理は叶わんぞ」
ある意味、期待通りの言葉だった。
これだけの代物を、さも簡単に作れるとは俺も思ってはいない。
しかし、淡い期待を持っていたのも事実である。
「無理って事か?」
「そうじゃ。折れた刀身の先はない。それに、この鋼は普通の鋼ではない」
「どういう事だ?」
「微量ではあるが、ヒヒイロカネを混ぜた合金になっておる。儂等人間の刀工では再現できん代物じゃ。誠にそのゲンシンとか言う『テンタ』派の刀工の作か……?」
ヒヒイロカネ、つまり
緋緋色金の加工が出来るのは世界でも数人の
微量だろうと、緋緋色金を混ぜた合金の加工など、
「しかし、作りはその『テンタ』って流派のものなんだろ?」
「だから首を傾げておるのだ。この様な刀、今までに見た事がない……」
そう言って、爺さんはまたソハヤを眺めながらブツブツと独り言を言い始めた。
「やっぱり無理か……」
「所で、鍛冶屋のお爺さん」
「何じゃ?」
「そのゲンシンって人の名前に聞き覚えはない?」
「ゲンシンのぉ……。その辺りは『タケヒサ』様に聞いてくれんかの。タケヒサ様なら、儂等の様なヴシ族に近い時空放浪者の情報を持っておられるやもしれん」
「タケヒサ様?」
「ヴシ族の現族長。さっき会ったオッサンだ」
「あの人ね。じゃあ、お話しに行きましょう」
「そうだな」
「この刀はどうするんじゃ?」
「爺さんにやるよ」
「ほほ、太っ腹じゃのぉ。ならば、代わりにここにある好きな刀を持って行け。お主にやろう」
「いいのか?」
「二言はない。手入れの仕方も分かっておるようだし、お主なら刀も喜ぶ」
「じゃあ、遠慮なく」
そう言って、鍛冶屋に飾られた30本程の刀を品定めし始める俺だった。
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