遺作捜索編

第17話 外つ国へ

「ところでさー、フェイ。結局、時空放浪者ベイグラントって何なの?」


 酒場で食事を摂りながら、エルウィンが訊ねてくる。

 あの作戦から4日が経ち、その成果が段々と見えてきていた。

 蒼狼ツァンラン屍喰鬼グール量産計画は完全に頓挫したようで、貧民窟スラムでの行方不明者の数も通常通りに戻りそうだ。

 タイパンからの情報によれば、新たな研究施設を稼働させるために蒼狼は奔走しているらしいのだが、あれだけ大規模な施設は二度と作れないだろうとの事。

 とはいえ、最初期と第2ロットの屍喰鬼は既に現場支給ロールアウト済みだったらしく、数をハッキリ把握出来てはいないが、隠の後釜となる組織は出来上がる可能性が高い。

 全く持って不謹慎としか言えないが、タイパンはそれが楽しみらしい。

 ちなみに、パオはその組織をどう迎え撃つかで頭を悩ませている所だ。


「あ?知らないのか?」


 あの日以来、エルウィンは何処に行くにも俺に付いてくるようになった。

 インからは「あねさん」と呼ばれている。

 俺の呼び名もガルから吠に代わった。

 まぁ、こっちが本当の名前なのだが、エルウィンから呼ばれると何ともむずがゆい気がする。

 例の作戦以降、蒼狼側との緊張は日増しに高くなっている。

 寅は兵士の訓練に明け暮れ、豹も諜報に余念がない。

 それに比べ、俺は特にやる事もない。

 作戦参謀ならシロもいるので、この期間にゲンシンの遺作を探す事にしたのだった。


「知らないわ、聞いたこともない」

「まず、俺達が生きてるこの世界とは、全く異なった世界が存在するらしい。それは理解出来るか?」


 古い言い伝えには、互いに干渉が出来ない状態で3つの世界が存在すると言われているらしい。

 元は1つの世界だったのが、神々の力で3つに裂けたの何のと言う、いわゆる御伽噺フェアリーテイルだ。

 そして稀に、ある世界から別の世界に者がいる。

 その人物の事を、この世界では時空放浪者と呼んでいる。


「世界が3つ?私は小さい時に『世界は2つある』って教わったわ」

「2つだなんて聞いた事ないぞ」

「えー、でもお父様が寝る前にしてくれるお話では2つだったわ」

「ふーん、まぁ世界が2つだろうが3つだろうがどうでもいい。他の世界からやって来た奴が時空放浪者だ。同じ人間ヒュームだろうと、文明水準も全く異なっているから、会話すら出来ない」

「で、吠が探しているゲンシンって人は、時空放浪者だったのね?」

「そうそう、時空放浪者の鍛冶屋ブラックスミスだ。しかも、王国で主流の長剣ロングソード直槍スピアなんかは作れなかった。作るのはもっぱらカタナ。その内の一振りがこれだった訳だ」


 そう言って俺は、折れたソハヤをテーブルの上に置いた。


「刀は長剣なんかとは作り方が全く違う。ゲンシンの鉄の鍛え方を見た鉱矮人ドワーフは、『鉄の精錬技術は高くないが、その中でも高純度の鉄を作る為にとんでもない作り方を編み出している』って言ってたなー」

「ふーん、よく分かんないけど、凄かったのね」

「柔らかくて粘りのある鋼を芯にして、周りを硬い鋼で覆ってるらしい。それによって、曲がりにくくて折れにくい刀身になるんだと」

「ふ~ん。とりあえず、その人の刀じゃないとダメなのね、ガルは」

「刀を使う部族が、王国外にいる。とりあえずそこに行ってみようかと思ってる」

「王国の外かー、楽しみだなー」

「ホントに付いてくるのか?」

「吠1人じゃ心配だからね」

「まぁいいけど……」


 食事の代金を払い、俺達は外に出た。

 ここは王国の西の端、国境の町だ。

 ここから王国の外に出れる。

 まずは刀を使う部族がいる地域を目指す。

 多少なりとも何かしらの手掛かりが手に入るだろう。


「で、その部族って何処にいるの?」

「ここから南西に3日くらいだ」

「結構遠いのね……」

「前も言ったが、西は部族間での戦闘が延々と続いている。常に移動し続けている部族もいれば、定住している部族もいる。お陰で、いつ何処で戦闘が起きるか分からん」

「で、刀の部族は?」

「定住型だ。攻め込まれない限り戦闘はしない」

「比較的安全な部族って事ね」

「まぁ……、そうとも言えないがな」

「どういう事?」

「よそ者を極端に嫌う。どうも、この部族の先祖自体が時空放浪者の集団だって話だ」

「え?集団って、そういう事あるの?」

「俺に聞かれても分からん。ただの噂かもしれんしな」

「ふ~ん」


 そんな話をしながら、俺とエルウィンは荷馬車に乗る。

 この荷馬車はファンに用意してもらったものだ。

 確定した到達点ゴールがない、宛てのない旅が始まった。

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