第16話 不意の再会

 俺達が拠点とする街に戻ったのは、作戦から丸1日過ぎた頃だった。

 兵士達には報酬と休暇を与える事にした。


パオ蒼狼ツァンラン側の監視は強化しておけ」

「御意に」


 豹は頷くと一礼の後に部屋を出た。


イン、引き続き兵士を鍛えろ」

「御意に。して、俺の鍛えた兵士達はどうでした、フェイ様」

「良い仕上がりだ。王国軍にも引けを取らない練度だ」

「あのレベルの精鋭は、歩兵や騎兵、弓兵全部合わせてもまだ1万もいません。1ヶ月以内に最低でも、各兵種1万ずつは鍛え上げます」

「1万ずつか……。工兵はいるか?」

「いえ、そこまで手が回っていません」

「タイパン!」


 俺が呼ぶと、タイパンが部屋に入ってきた。


「呼んだかい、主殿」

「工兵部隊を作りたい。1ヶ月で5000鍛えられるか?」

「工兵か……。蛇の中で爆発物が得意な奴もいるから、ソイツを教官に据えよう。5000は難しいが、2000はいけるだろう」

「2000でも構わん。とりあえず、工兵と名乗れるだけの技術を持たせろ」

「承知。人員の選抜は訓練受けてる奴等から引き抜く形でいいか?」

「その辺りは任せる。訓練状況は全て寅に報告しろ」

「承知した。んじゃ、早速取り掛かる」


 そう言ってタイパンは去って行った。


彼奴アヤツも蛇ですか、吠様」


 どうやら、寅はタイパンを初めて見たらしい。


「あぁ、しかも現場を統括してる。豹に次ぐ実力者だぞ」

「普通の兵士としても使えそうですな!」

「今回の地下施設襲撃は、アイツが訓練兵として村に潜入して、下調べから何からやったお陰だ」

「今回の勝利の立役者ですな!」

「違うぞ、寅」

「と、言いますと?」

「立役者は全員だ。タイパン達の潜入によって基礎が出来、お前達の兵力で事が成った。どちらが欠けても上手くはいかない」

「有難いお言葉です」

「寅、戦いってのは武力だけでは勝てないし、諜報だけも然りだ。その両方が上手く回る事で勝利に近付ける。お前達兄弟、両方の力が必要なんだよ」


 そう言って寅の方を見ると、何故か涙を流していた。


「寅!?どうした!?」

「吠様、俺は嬉しいんです」


 寅はオンオンと泣き始めた。

 見ているこっちが恥ずかしくなる。


「寅、泣くな。蒼狼さえ倒せばいくらでも泣いていいから」

「吠様ぁ!」

「吠様」


 泣いている寅は置いておいて、豹が慌てた様子で戻ってきた。


「どうした、豹?」

「それが……、吠様に来客でして……」


 何とも困った顔の豹。

 俺に来客と言うのもおかしな話だ。

 俺がここにいる事を知っているのは、俺が戻ってきた事を知っている数名。

 ソイツ等の事を来客などとは呼ばない筈だ。

 では、誰が?


「非常にご立腹のご様子ですので、お急ぎください……」


 豹の言葉に、俺はハッと気が付き、それと同時に頭を抱えた。

 とにかく階段を降りて外に出る。


「ガル!」


 怒号の様な声と共に、必要以上の助走をつけた拳が俺を出迎えた。

 俺はその拳を左手で掴む。

 無駄に上乗せされた勢いのお陰で、俺の左手はビリビリと電気が走った。


「やっと見付けたわよ、ガル!!」

「……、巻き込まない様にわざわざ死体まで用意したってのに……。何してんだよ、


 尖った耳の先まで真っ赤にして怒ってるエルウィンがそこにいた。


「何してんだじゃないわよ!勝手に出て行って!何処の誰とも知らない死体の埋葬までさせて!ふざけんじゃないわよ!」

「分かった、分かったから。とりあえず、中で話そう」


 作戦の成功で浮かれた兵士達がウロウロしている真っ只中である事を忘れないで欲しい。

 行き交う兵士達は、俺達2人を見てニヤニヤと笑いながら去って行くのだ。

 これでは威厳と言うモノが保てない。


「だいたいね!私から逃げようってのが間違いなのよ!」

「分かったって、とりあえず中に入れ!」


 掴んた拳をそのまま引っ張って建物の中へ入った。


「吠様、私はこれで」


 入れ替わる様に、豹が寅を連れて部屋を出て行った。

 気を遣わせた様だ。

 とにかく、エルウィンを椅子に座らせる。


「なんで追ってきた、エルウィン。が分からなかった訳じゃないだろ」

「はぁ、ガル1人じゃ心配だからよ」

「俺は1人じゃない。グローはともかく、スゥの面倒を見る奴が残らないとダメだろ」

「スゥなら大将のとこで元気にやってるわ。私を必要としないくらいに。それに、ガルがいないなら、あの街は私の街じゃないもの」

「エルウィン……」

「私は根無し草タンブルウィードなの。貴方が根っこになってくれないとね」

「はぁ……、分かった。その代わり、俺の傍から離れるなよ」

「もとより、離れるつもりなんてないわ」


 そう言ってエルウィンは抱き付いてきた。

 ニッコリと笑うエルウィンを見ながら、相変わらず美人だなと思う。

 なんだか言いくるめられた気がしてならない。

 しかし、相手がエルウィンだと嫌な気がしないのも事実だ。

 俺は後ろ手にドアの鍵を閉めながら、ゆっくりと唇を重ねるのであった。





『 研究施設殲滅』————Quest Accomplished

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