第12話 暮夜の襲撃

フェイ様、準備は整いました」


 パオが馬に跨った俺に報告する。


「後はタイパンからの合図を待つ」

「私は部下10名と、先にタイパンと合流します」

「蛇の指揮はお前に一任する。兵隊は俺に任せろ」

「御意に。では」

「豹」

「はい」

「蛇を死なすなよ」

「……、御意に」


 豹が夜闇に消えていく。


「吠様」

インか」

「豹は行きましたか」

「ああ。ビビッてないだろうな?」

「何を仰るか。やっとですぞ、やっと蒼狼ツァンランと戦える……。今までの恨み、1つも忘れておらんのですから……」


 弟の豹は基本的に冷静沈着だが、兄の寅は激情型だ。

 その寅を抑えるのに、ファンは今まで苦労したのだろう。

 まさに、得物を目の前に舌なめずりをする虎の様だ。


「寅、くれぐれも飛ばし過ぎるなよ。お前は既に兵卒じゃない、将だ。その意味は分かるな?」

「そりゃ、吠様にも言える事ですぜ?」

「ハハハ、お互い、歳を取ったって事だ」

「また吠様と轡を並べられて、俺は幸せです」

「俺もだ、寅。お前程、安心して背中を任せられる奴はそういない」

「有難いお言葉」

「寅、分かっているとは思うが、俺は施設内を目指す。お前達は、施設への兵の流入を防いでくれ」

「御意に、この命に代えても!」

「馬鹿、さっきも言っただろ。まだ命を捨てるとこじゃねーよ。その時が来るまで、絶対に死ぬな」

「御意に」

「さて、そろそろかな……」


 俺は村の方向を見た。



「あちらの準備は完了したぞ、タイパン」


 豹がタイパンと接触していた。


「んじゃ、始めますか、御当主殿」

「私は逃げ回ればいいんだな?」

「御当主との追っかけっこなんざ、こういう時くらいしか出来ないですからね」

「遊びじゃないんだぞ……」

「なーに、楽しまなきゃ損ですよ」


 そう言って、タイパンは大きく息を吸い込んだ。


「侵入者だぁ!!全員起きろぉー!!」


 その声を合図に、豹は村の中を縦横無尽に走り始めた。

 作戦としては簡単なものだ。

 豹が侵入者という事で、村の中を走り回る。

 先に潜入していたタイパンの部下と豹の部下が兵士になりすまして、それを掻き回すのだ。

 隊列を組む暇を与えずに、俺と寅が率いる5000の兵が村に攻め込む。

 他の村に連絡が届くまでに3時間、そこから増援が到着するまでには6時間は掛かる。

 9時間以内に全てを終えて撤退する必要がある。

 9時間と聞けば、大分時間がある様に思えるが、巨大な地下施設の破壊工作となると全く足りない。


「侵入者は1人か!?」

「分かりません!」

「とにかく照明弾を上げろ!」


 すぐに照明弾が村の上空に上げられ、煌々と村を照らす。


「合図だ、行くぞ」


 先行して夜闇に紛れて村に近付かせていた1000を先に動かす。

 残りの兵も順次突入出来るように準備させる、

 突入箇所は事前に3ヶ所と決めていた。

 第一は正面の門。

 ここは豹がどさくさ紛れて開放する。

 その他、村を囲む柵の一部を破壊する。

 これは中に潜んだ蛇にやらせる予定だ。


「さて、そろそろか」


 門からの突入を担当する400人全員が抜刀状態で待機していた。

 400の内、騎兵が100、残り歩兵。

 他の2ヶ所も騎兵は100ずつ、残りが歩兵だ。

 門がゆっくりと開いた。


「吠様!」

「進め!」


 俺の号令でまず、100の騎兵が村に雪崩れ込んだ。

 隊を20ずつの5つに分け、俺が率いる隊は一目散に施設へ繋がる地中道トンネルの入口を目指す。

 他の4隊は村の各所に散らばり、敵兵を蹴散らす。


「寅!頼むぞ!」

「御意に!お前等!好きなだけ暴れろ!!」


 寅は馬を走らせながら、大刀ダイトウを振り回し、敵兵を撫で斬りにしていく。

 大刀とは大陸西部で発達した長柄武器ポールウェポンだ。

 長い棒の先に、分厚い刀身を持った槍の一種で、穂先の形状は様々。

 寅が使うのは、三日月型の大きな刀身の『偃月刀』と呼ばれる大刀だ。

 重さは30kgを超えるが、寅は軽々とそれを振り回し、敵を蹂躙していく。

 その姿を確認し、俺は馬の脚を更に早めた。


「主殿、ここだ!」


 タイパンが松明を振っている。

 そこにはぽっかりと口を開けた地中道の入口があった。

 直径5メートル程の半円状。

 これなら、小さな荷馬車も通れるだろう。


「このまま突き進む!タイパンも続け!村の蛇は豹が指揮する!」

「承知!」


 俺を先頭に20騎の騎兵がそのままのスピードで2列縦隊で地中道へ飛び込む。

 タイパンも馬に跨り、隊の後ろに着く。


「地中道はほぼ直線!警備もいない!そのまま進んでくれ、主殿!」


 タイパンの声が響く。

 荷馬車を通す為、床は石畳で舗装されていて走りやすい。

 これは予定よりも早く施設内に進入できそうだ。

 どれだけ早く、施設を破壊できるか。

 ここからは完全に時間との勝負だ。

 やがて、施設の入口と思われる扉が現れた。


「俺が開ける!」


 タイパンが馬に鞭を入れ、隊の先頭に出る。


「何だ!?」


 入口の警備をしていた敵兵2人が逃げようと後ろを向く。

 タイパンは馬の背から飛び、その2人を一瞬で片付けた。

 手早く扉を開く。

 俺達は速度を落とす事なく入口を通過した。

 タイパンも再び馬に跨る。

 絶対に迷う事がないように、施設の地図は全員が完璧に頭に入れている。

 俺の率いる騎兵20は、施設の中核となる部分の破壊を担当する。

 左右の柵から侵入した騎兵の一部も順次施設に侵入し、他の部分の破壊に当たる。

 まずは俺達の破壊目標となる区画まで走らなくてはならない。

 そこに辿り着くまで、敵兵と遭遇しない事を祈るだけだ。

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