第9話 偽りの友人

「数は多いだろうが、少人数ならば問題なく入れるな」


 タイパンは、研究施設へと続く地中道トンネルの出入口がある村の1つに潜入していた。

 兵士の数が多いお陰で、タイパン以下4人の蛇が紛れても全くバレない。

 様々な種族が書き集められているお陰で、タイパンの様な大男がいても目立たないのが有難い。


「問題は、に入れるかだな……」


 施設への潜入は万が一を考え、タイパンの単独で行うことにしている。

 他はの蛇には、現在掴んでいる3つの村以外に、同様の村が存在するのか、存在するならば何処にあるのか、それを徹底的に調べされている。

 最低でも、あと2ヶ所は存在するとタイパンは睨んでいる。

 そして、恐らくその箇所は王国外、魔王軍残党の支配下だろう。

 補給線の王国内だけに限定するのは、蒼狼にとってはリスクでしかない筈だからだ。

 魔王軍残党と繋がりを持っているのであれば尚更だ。


「しかし、それを特定するメリットはあるのかね?」


 タイパンはポツリと漏らした。


「貴様!何か言ったか!?」

「いえ!何も!」

「よーし、ならば腕立て50回追加だ!!」


 周りからは悲痛な溜息が洩れた。

 タイパンは今、蒼狼の私兵の訓練兵として潜入している。

 同期は300人前後。

 あまり目立たない様に振舞っているが、如何せんその長身とガタイの良さで、教官からは目を付けられてしまった。

 タイパンが思考を巡らせている時に限って、教官はタイパンにいちゃもんを付け、腕立て伏せや腹筋を課す。

 タイパンにとっては何の問題もなくこなせるモノだが、他の同期はそうもいかない。

 1日が終わる頃には、立ち上がれない者ばかりだ。


「コイツ等、こんなに軟弱で兵隊のが務まるのかね……」


 敵でありながら、逆に心配になるタイパン。


「ほら、さっさと起きないとまた教官殿からどやされるぞ、ピーク」


 日も陰り始め、1日の訓練が終わる。

 タイパンはそう言って、近くにいた同期の鉱矮人ドワーフ、ピークを引き起こそうとした。


「誰のせいでこうなってると思ってんだ!もう動けねーよ!」


 他の連中も同じような状態だ。

 立っているのはほんの数人。


「無理だぜ、。コイツ等、農民程度の体力もねーんだから」


 タイパンに近付いてきたのは同期の黒醜人オーク、名はバルグと言う。

 ちなみに、ここではタイパンはダイルと名乗っている。


「軟弱にも程があるぜ、全く」

「うるせぇ!お前等が異常なんだ!」

「こんな訓練、王国軍の兵卒訓練ブートキャンプみたいもんだ。軽くこなせないなら、戦闘なんて出来んぞ」

「元兵士だからなダイルは。俺達は、善良な一般市民だったんだぞ?戦うなんて出来る訳がねー……」

「馬鹿、んな事言ってたら、教官に聞かれるぞ?」

「やってられるか!勝手に連れてこられて、いきなり訓練だと!?意味が分かんねーよ!」

「お前、拉致られて来たのか」

「稼ぎのいい仕事があるって言われてな。気が付いたらここだった」

「バルグは?お前は志願したのか?」

「いんや。俺は元々、魔王軍の残存部隊にいた。急に配置換えが言い渡されてな。ここに送られてきた」

「お前等も大変だな」

「そういうダイルは志願なのか?」

「俺も拉致られた類だ」

「お前を拉致るなんて、どんな方法だよ……」

「睡眠薬を飲まされたんだ。抵抗する暇などなかった」

「いくらダイルでも、薬には勝てんか」

「ほら、そろそろ飯の時間だ。起きろよピーク」

「分かった、分かったから……」


 タイパンはピークを起こし、バルグと連れ立って食堂に向かった。

 訓練兵は75人ずつ、4つの班に分けられている。

 24時間、隙間なく警備する、訓練兵だけでなく、警備も4つの班に分けられ、8時間事に交代する形で、余った1班は休息となる。

 それだけ聞けば、規律のしっかりした軍隊の様だが、ここは所詮、ヤクザの私兵団。

 村の中は無法地帯そのものだ。

 賭博、リンチ、売春、喧嘩、果ては殺しまで、何でもござれだ。

 ある程度の権限を与えられた奴は、下の奴等から様々な手段で金を巻き上げ、女を連れ込み、麻薬を使用し、売買する。

 兵隊のていを辛うじて保っているのが奇跡に思える。


「飯はどうにかならんのか……?ゲロとゲリを混ぜたみたいな、クソ不味いシチューはもう飽きたぞ……」

「文句言っても変わんねーよ、ピーク。いいモン食いたいなら、金を積むが狩りにでも行けよ」

「俺に狩りが出来ると思うのか、バルグ?」

「ピークの方が虎の夕食になるのがオチだぜ」

「違いねー」


 タイパンはバルグと一緒に大笑いした。

 訓練兵としての生活を楽しんでいる様に見えるが、色々と分かってきたこともある。

 まず、集められている訓練兵の殆どが、西部の貧民窟スラムに住んでいた奴等だ。

 しかも、全員が男。

 そして、兵隊に向かないと判断される様な、体力に問題のある奴は、いつの間にか消えている事。

 バルグの様に魔王軍の残存部隊出身者も多い事。

 そして、ここにいるほとんどの連中が、研究施設の地中道がこの村に存在する事を知らされていない。

 恐らく、知っているのはこの村を管理している上層の数人だけだろう。

 ここから地下施設への補給が定期的に行われている筈なのだが、なかなかその実態を掴めない。


「何とかして、上に取り入るしかないか……」

「ん?飯の質をよくしろって直談判でもするのか、ダイル?」

「それで改善するなら苦労しないだろうが、やってもいいだろ?」

「確かにな。頼むぜ、ダイル」

「俺も力を貸すぞ、ダイル。多少なりとコネがある」

「ホントか?」


 どうやら、タイパンが飯の質の改善を訴えようとしていると2人は勘違いしたようだ。

 まぁ、バルグがコネを持っているのであれば、それを使って色々と調べられるかもしれない。

 タイパンは色々と考えを巡らせていた。

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