第10話 禁忌の向こう側
「
僕は、施設の見学に来ていたボスに直接お願いした。
「スペリオ!そのような事は私に言え!
ボスの隣に控えていたフィアットさんが激昂した。
この人には拾ってもらった恩義があるが、正直邪魔だと思う。
何かにつけて報告しろ、勝手に動くな、予算を抑えろなどなど、僕等の研究を妨げる様な事しか言わない。
大事なパイプ役だからと、ルーヴから何度も諫められている。
「良い、フィアット。魔術師を3人程だな、分かった。しかし、何に使うつもりだ?」
「例の実験で必要になるので。ただ、余裕をもって20~30人くらいはストックが欲しいですね」
「フフフ、相変わらずだな、スペリオ。いいだろう、まずは3人用意しよう。ストックに関してはまた後からでもいいか?」
「はい。手探りの状態なので、どれくらい使い潰すか分かりませんが……」
「分かった。足りなくなったら言え。すぐに準備してやる」
「ありがとうございます!」
「蒼狼様がスペリオに甘過ぎます……」
「良いではないか、ちゃんと結果を出しておるし」
「では、私はこれで。施設内の説明はルーヴにお聞きください。僕よりも説明が上手いので」
「あぁ、そうしよう。研究ばかりで、身体を壊さんようにな、スペリオ」
「はい、ありがとうございます」
僕はそのまま頭を下げてその場を後にした。
入れ替わりでルーヴがボスを案内し始める。
「さて、簡易的な実験はやりたいんだよな……」
本格的にやる前に、やはり何度か簡単な実験をして、理論の補強が出来ないだろうか。
本番は高次元な施術になるだろうから、出来れば低次元での成功例が欲しい。
でなければ、僕の理論が正しいと証明出来ない。
「低次元での施術……。何かいい実験材料がないかな……」
真理に触れ、その中から欲しいモノを取り出せる。
まずはこれを証明したい。
これが立証されない限り、それ以降のプロセスに移行できない。
「あ、そうか」
僕は思い付いた。
取り出すのは何でもいい。
僕の理論が正しければ、魔法も魔術も扱う才能のない者を、訓練も何もすることなく
「ボス、まだいるかな?」
僕は走り出した。
ボス達一行はすぐに見付かった。
「ボス!」
「何だ、スペリオ」
フィアットが僕の前に立ちはだかった。
「用があるなら私に言えと……」
「ボス!人工魔術師が作れるかもしれない!」
「はぁ?」
その場にいた全員がポカンとしている中、ルーヴだけが目を輝かせた。
「そうか!そういう事か、スペリオ!魔術師を人工的に作れるよ!」
「ボス、魔術や魔法の才能が全くない個体、どんな種族でも、何人でもいいので集められますか!?」
「待て待て、話が見えないが……」
「ボス、スペリオの理論が正しければ、人工的に魔術師を量産できる筈です!その実験をやりたい!」
「流石、ルーヴ!最初に用意してもらう魔術師3人を使って、魔術師を何人も作り出せる可能性があるって事です!」
魔術師は強力な戦力になる。
ボスにとっても美味しい話の筈だ。
「とりあえず落ち着け、2人とも。とにかく、魔術師を3人と魔力特性を持たない奴を集めればいいんだな?」
「はい!すぐにでも実験に移れるように用意しておきます!」
そう言って、僕とルーヴは研究室へ戻った。
「技術の革新とは、この様に始まるのかもしれんな……」
「全く、アイツ等は……」
「多目に見てやれ、フィアット。あの2人は世界の軍事状況を一変させる可能性を秘めているかもしれん……」
「確かに、それだけの進歩をもたらす可能性はありますが、同時に破滅へと加速している気もするのです……」
「ハハハ、破滅への加速か、上手い事を言う」
「笑っている場合ですか!?
「その内、属神龍すら量産しだすかもな」
「そうなれば世界は終わります……」
「心配し過ぎだ、フィアット。あの2人は、俺に従っている」
「今の所は、です。自分達の研究の邪魔だと判断すれば、すぐにでもモルモットにされますぞ……」
「だったら、私よりの先に、お前がそうなるぞ?」
「私はどうなっても構いません。蒼狼様がご無事であれば、命など惜しくはない」
「縁起でもない事を言うな、フィアット。大丈夫だ、たかが研究者2人、殺そうと思えばいつでも出来る」
「蒼狼様、くれぐれもあの2人に気を許されぬよう……」
「分かった分かった」
研究室へ急いでいた僕ら2人は、ボス達がそんな話をしていたなどと夢にも思わず、ただ目の前の新たな可能性が楽しみで仕方なかった。
それから2週間後、ボスが用意してくれた素材を使い、恐らく世界初となる人造魔術師の製造に成功する。
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