第3章 カッコいい生き方なんて出来ないな

研究施設殲滅編

第1話 蒸発の雲路

蒼狼ツァンラン、いいか?」


 俺は蒼狼の事務所を訪れた。

 既に多くのインが死んだ。

 俺と蒼狼の連絡役も現場に出している。

 フィアットは屍喰鬼グールの量産施設関連で忙しい。

 お陰で、見たくもないコイツの顔を頻繁に拝む羽目になった。


「どうした、ルイン」

「例のガルについてだ」

「何か分かったか?」

「それが恐ろしい程に、何も出ない。西部から逃げおおせて以降、全く姿を現さない」

「もう1ヶ月は経つぞ?」

「相棒の女耳長人エルフは1週間程後には街へ戻ったみたいだが、1人で帰って来た様でな。街の連中が女に聞いても、行方を知らないらしい」

「別行動を取っているという事か?」

「いや、言い方からして行方をくらませたと考えるのが妥当だろう。元々が貧民窟スラム出身で、戸籍も冒険者登録の時に作ったものだからな。別人に成り代わるなんて簡単だろう」

「……、やはり一番警戒すべきは、そのガルだろう。徹底的に探せ」

「そうしたいのは山々だが、人手不足でな。蛇からの攻撃も続いている現状、ガルの詳細を調べ上げれるだけの時間もない」

「クソ……」


 蒼狼は悪態を吐く。

 苛立つのも仕方ない。

 今まで蒼狼の計画を妨害していたのは、他でもないこのガルなのだ。

 一刻でも早く始末して、九龍会を掌握したいのだろう。

 そして、この蒼狼には1があるのだ。

 直接その事を聞いた訳ではないが、コイツが研究者にやらせている研究内容を見ると、何となくだが何がしたいのか分かる。

 コイツは馬鹿かもしれんが、現実になれば馬鹿とも言えなくなる。

 そちらの研究がどれだけ進んでいるかは知らんが、まぁ俺には興味がない。

 成功したら少しは恩恵に与りたい程度の期待だ。


「それよりもルイン、屍喰鬼の育成はどうだ?」

「うむ、順調とは言い難いが進んではいる。時間があるなら1年程費やして育てたいところだが、そうもいかん。一定水準以上になった奴から現場に出すが、それいいか?」

「そこは門外漢の私に聞くな。ただ、隠が壊滅する前に出せるのか?」

「……、ギリギリだろうな。ある程度の質を保つにはあと3ヶ月は欲しい」

「隠はどれだけ持つ?」

「……、3ヶ月」

「ギリギリか……」


 そうギリギリなのだ、謀ったかのように。

 いや、実際にそこはパオから調整されているのだろう。

 相変わらずの才能だ。

 早く潰してしまえば、蒼狼の本隊が動く懸念がある。

 しかし、遅くなれば隠と屍喰鬼の混成部隊が出来上がり、厄介だ。

 それを見越して、調整しながら隠を潰しているのだ。

 蒼狼もそれに気づいているのだろう。

 それでも蒼狼が動かないのには理由がある。

 反乱分子を完全に根絶やしにしたいのだ。

 九龍会の会長の座を奪った際は、それに失敗している。

 だからこそ、ファンパオが生き残ってしまったのだ。

 次は失敗しない。

 その為に、出来るだけ黄には大きくなってもらわなくてはならない。

 反蒼狼の感情を少しでも持っている者が、全て黄の元に集まった所で、徹底的に潰す。

 1人残さずだ。

 それが蒼狼の第一の目的なのだ。

 だから、未だ発展途上である黄の勢力を放置している。

 もっと大きなってもらわないと困るのだ。


「早く元老会を呑み込め、黄……」


 蒼狼はボソリと呟いた。



 ガル殿が消えて1ヶ月近く過ぎようとしていた。

 恐らく九龍会、と言うよりもファン殿と合流したと考えるのが妥当だ。

 軍と蛇との協力関係は続いているので、パオ殿に訊ねてみたが、明確な答えは返ってこなかった。

 いや、むしろそれが何よりの答えなのではないだろうか。

 ガル殿は、死ぬ気なのかもしれない。


「サリィン少尉、何をしている?」


 自分の席に着いたままボーッとしていた私に、オクト大尉が話し掛けた。


「オクト大尉……」

「仕事は終わっていないぞ」

「申し訳ありません……」

「はぁ……、お前の上司は私であり、閣下だ。ガルとか言うあの冒険者ではない」

「……、お見通しですか」

「当たり前だ。冒険者1人が行方不明になったからと言って、呆けてもらっては困る。貴様は軍人なのだぞ。家族に何があったとしても、軍務を優先する。それが王国の為であり、それが王国軍人だ」

「まぁまぁそう言うな、オクト」


 副官室に上将軍閣下が入ってきた。


「外まで聞こえておるぞ、オクト」

「申し訳ございません。サリィン少尉があまりに不甲斐ない為……」

「仕方なかろう、ワシだって心配しておるんだ」

「閣下……」

「だがな、サリィン。ガルはタダで死ぬようなタマではない。そうだろ?」


 確かに、上将軍の言う通りだ。

 殺しても、タダでは殺されないのがガル殿だ。

 それに、何だかんだ言って優しい人である。

 エルウィン殿を1人残して死ぬ事はないだろう。


「その内帰って来る。そういう奴だよ、あのタイプの奴は」


 そう言って笑う上将軍。

 むしろ、そう信じるしか、今は出来ないのだ。

 恐らく、パオ殿の率いる蛇と一緒に行動している筈だ。

 私がいくら探したところで見付けられる訳がない。

 幸い、蛇との協力関係は継続しているのは、ガル殿のお陰だろう。

 何かあればすぐに手助け出来るように、私は私で備えておこう。

 そうして、私は日々の仕事に戻るのであった。

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