第57話 男と女
誰も足を踏み入れていない新雪の様な肌。
そして、血液をそのまま垂らした様に赤い虹彩。
エキゾチックに整った顔立ちに、完璧と言えるプロポーション。
まさに、神話に登場する女神ではないかと疑いたくなる程、シロは美しい。
そんなシロを汚す背徳感に、私の陰茎はより充血していく。
「
こんな美人が傍にいて手を出さない筈がない。
初めは流石に躊躇ったが、一度一線を越えてしまったら、後はなし崩しだった。
暇さえあればシロを抱いている。
先代が謀殺されて以来、私は先代の遺志を継ぐ派閥の長として、常に気を張ってきた。
自陣の失敗には厳しく対応し、それに合わせて、自らも厳しく律してきたのだ。
女をまともに抱いたのは、もう何年前の事か……。
敵は同じ組織内の主流派なのだ。
情報漏洩の危険など、常について回る。
女を抱く事など、二度とないと思っていた。
そんな中、傍付きとして現れた蛇の女。
シロは信頼できる人物だった。
何度かコッソリと試してみたが、全く
信頼のおける奴だと判断した頃、見透かした様にシロが言った。
「お試しになるのはあれで最後ですか?」
全てお見通しだった様だ。
それはそうだろう。
情報戦に関してはシロの方が何枚も
シロからそう言われた瞬間、自分の愚かさに笑いが出た。
それから色々と任せるようになり、私の作業量も減り、大変助かっている。
しかし、時間が出来たお陰で、私は忘れかけていた性欲と言うモノを思い出した。
まさかこの歳になってまで、それが復活してくるなど思ってもいなかった。
そして、それすらもシロには見透かされた。
「外で女を抱くことは、決してない様にお願い致します。必要とあらば、全て私にお申し付けください」
よく出来た女だ。
自分が後ろ盾をしている娼館の女ですら信用してはならない。
何処で
だからこそ、私は今まで禁欲していたのだ。
シロは全てを理解していた。
今ではほぼ毎日、肌を重ねている。
「シロ、お前はいつ寝ているんだ……?」
一戦交えた後、私の腕の中にいるシロに問い掛けた。
「黄様がお休みの時に」
「ホントに寝ているのか?お前が寝ている姿など見たことないぞ?」
「我々は短時間の睡眠で充分です。ご心配には及びません」
「うむ……」
私が不服そうな返事をした時、ドアがノックされた。
「タイパンです。黄様はお休みください」
シロはそう言って、バスタオルを身体に巻き付け、ドアの方へ歩いて行く。
「どうした」
シロが扉を開け、顔を出した。
「緊急の報告だ。お楽しみ中に悪いな」
「いや、問題ない。で、報告とは?」
シロはそのまま部屋から出て、扉を閉めた。
「黄様には後から私が報告した方がよさそうな顔だな」
「アンタは察しが良くて助かる。すまねぇな、そんな恰好だってのに」
「問題ないと言っただろ。で、報告は?」
「主殿とお連れの方が西方司令部に拉致された」
「何?」
「ブンガルスからの報告だから間違いない」
「直ちに救出すべきではない、と判断したのか?」
だから、シロに部屋から出てきてもらったのだろう。
あのままでは、私の耳にも直接入る。
そうなると、すぐに救出しろと言い出すからだ。
「主殿の御命令だ。下手に俺達の側が出しゃばるとややこしくなるからだそうだ」
「しかし、主殿はどうするおつもりだ?そのまま大人しく拘束されるおつもりではないのだろう?」
「他のツテを使うらしい」
「……、中央司令部か」
「というより、上将軍だな。依頼自体が極秘の上に、上将軍からのものだからな」
「……、しかし、それで大丈夫なのだろうか……?」
「何がだ?」
「ここで上将軍のお力を借りれば、中央と西方の間に決定的な確執が生まれる。中央が西方を敵視している事が露見する訳だからな」
「確かに。今まで中央は西方と敵対する様な行動を表立ってはとっていない。だからこそ、互いに探りを入れるような諜報活動をやっていた訳だ。ここに来て、完全に敵対するのは得策とは言えないと、俺は思う」
「ならば、尚更中央を頼る訳にはいないのでは?」
「……、主殿の考えは俺には分からん。とにかく、俺達から手を出すなって事しか言われていないからな」
「……、主殿が拘束されている西方司令部の支部を中心に人員を増やせ。情報が欲しい。とりあえずは黙認しておくが、いざとなったらすぐに動け」
「了解。俺も西方へ向かう。お前は中央司令部を注視してくれ。上将軍がどうするのかによって、俺達も動き方を考える必要がある」
「そうだな」
タイパンはそのまま去って行った。
シロは再び部屋へ戻る。
「長かったな、何かあったか?」
「はい。黄様、落ち着いてお聞きください」
「なんだ?」
「ガル様が西方司令部に拘束されました」
「何だと!?」
私は飛び起きた。
すぐに助ける為の作戦を考えなくては。
「最後までお聞きください」
「うむ……」
「我々の手は借りないそうです。ガル殿も想定済みの事だったのでしょう」
「しかし……」
「まだ、我々は動くべきではありません、ガル殿のお考えの通り」
「……、分かった。しかし、情報収集と現場との連絡は蜜にしろ。アイツが殺されたら我々の負けだ」
「承知しております」
私は溜息を吐きながら頭を抱えた。
やはり、私はこういう事に向いていない。
私はいわゆる脳筋の猪武者だ。
裏で色々と手を回すよりも、前線で血を流す方が
シロが葡萄酒を注いでくれた。
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