第50話 西部侵入

 俺達は1週間程かけて、西部の中央辺りにある町へ到着した。

 流石に西都に入るのは危険過ぎる。

 まずはここを拠点に、情報収集を始めるつもりだ。

 この町を選んだ理由はいくつかある。

 まずは、交通の要所である事。

 町自体はそれほど大きくないが、西都に近く物流拠点ともなっており、人の出入りが激しい。

 蒼狼ツァンランに気取られる危険性も低くなる。

 また、この町自体がファンの縄張りというのも理由の1つ。

 この町自体、蒼狼の手の者が入り込みにくいのだ。

 そして何より、パオの率いるヘビの一部がここに拠点に活動している。

 まぁ、色々と都合がいいのだ。


「賑やかな町ね」

「西都へ入る荷物の3割程度はここから出されてるからな、重要な物流拠点だ」

「3割って事は、他にもこういう町があるの?」

「西都の周りにはこの町を含めて5つの物流拠点となる町が存在しておる。その内の何処かが陥落したとしても、西都への補給線は死なぬ。魔王軍との戦争以前から続く、西都の対攻城布陣だの」

「南壁、西都、王都。この3つは絶対に陥落しないって言われるからな」

「南壁の強さは、その城壁の高さ。王都の強さは、街自体の作り。そして西都の強さは、この絶対にに絶たれない補給線の太さだ」

「南壁と王都は分かるけど、なんで西都も堅牢な城塞都市になったの?魔王軍との戦いでは、戦火に巻き込まれてた訳じゃないんでしょ?」


 エルウィンの疑問は正しい。

 南壁が堅牢なのは魔王軍との戦争が主な理由だ。

 王都に関しては、王国の建国以前から主な戦場となっていたから。

 しかし、普通に考えると西都が堅牢である理由は分からないものだ。

 勿論、しっかりとした理由が存在する。


「西側は昔から侵略を受けやすい土地柄だったんだよ。王国の西方には、今でも大小様々な民族国家が乱立している」


 王国の西方は広い平野が広がり、昔から農耕が盛んだった。

 その平野は緩い丘陵地に変わり、王国外へと続く。

 豊かな土地であると同時に、昔から争いが絶えない。

 丘陵地を超えると、いきなり険しい山々は深い森が広がる。

 それが原因で、その辺りは大小様々な人間ヒュームの民族がひしめき合い、常に戦っている様な状態だ。

 それを越えて更に西へ行けば共和制の大国があるのだが、民族間が常に戦争状態のこの危険地域が障害となり、国交も何もないのが現状だ。


「西は常に戦争状態なのね」

「昔から様々な民族からの襲撃を受けていた西方が、自然と堅牢な城塞都市が出来上がった訳だ」

「言われてみれば確かにこの町も、私達の街よりも城壁は高いわね」

「それだけじゃない。西方の城壁は手が込んでるし、色々な仕掛けもある」

「仕掛け?」

「普通の城壁よりも分厚い箇所があるだろ?城門の部分だ」


 そう言って、俺は城門辺りを指差す。


「確かに、なんで?」

「あの中には投石器があるんだ」

投石器カタパルトが!?」

「いや、てこの原理を利用した投石器じゃない。水流の力を利用した加速器アクセラレータだな」

「……、どういう事?」

「実際に見てみないと分からんだろうな。機会があったら見に行こう、面白いぞ」

「面白いのは面白いがの。実際に動く所を見たら胆を冷やすぞ。ありゃおぞましい兵器だて……」

「グローは動いてるとこを見た事があるのか?」

「昔、一度だけの。投石器カタパルトよりも恐ろしい……」


 俺も話には聞いた事があるが、実際に見た事はない。

 見た事のあるグローが言うのだからそうなのだろうが、想像できない。


「まぁ、それは置いておいて。ちょっと人と会う約束をしてる。付いて来てくれ」


 そう言って、俺は2人をある店に連れて行った。


「ここだ」


 そこは人通りも少ない裏路地にひっそりと建つ場末の酒場。

 廃屋ではないかと疑う程に寂れた店だった。


「なに、ここ……」


 あからさまに嫌な顔をするエルウィン。

 俺は構わず店の中へ入った。


「お待ちしておりました、フェイ様」


 先に店内にいたのは豹と蛇の1人。


「遅くなったな」

「いえ、予定通りですよ。先に紹介します。部下の1人、ブンガルスです」

「お初にお目にかかります、ブンガルスと申します。この町では私が傍付きをさせて頂きます」

「俺はガル、こっちがグローで、こっちがエルウィンだ。よろしく」

「傍付き?」

「情報収集は蛇にも手伝ってもらう。その方が早いだろ?」

「確かに」

「では、まずは我々が入手した情報の共有を」


 西方で活動するには蛇の協力が不可欠だ。

 上将軍は厄介な依頼を出してくれる。

 俺は今更ながら、その危険性を再認識していた。

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