軍令:西部潜入調査依頼編

第49話 確執と暗雲

 例の作戦から、既に2ヶ月が過ぎた。

 南方司令部の兵士や北部の冒険者でごった返していたのが噓のように、今は平穏な街の戻っていた。

 集められた参考人達は、少人数ずつで王都へ送還し、やっとそれも終わって、サリィンに代わって現場を仕切ったコフィーヌは数日の休暇を取ったらしい。

 街は平穏なのだが、俺達のパーティはそうもいかない。

 以来、ギクシャクしている。

 スゥは俺の言った通り、大将の店で給仕の仕事を始めたが、俺とは一言も喋らないし、グローも寄り付かなくなった。

 家には俺とエルウィンだけの事が多く、エルウィンも何か察している様だが、何も聞いて来ない。


「はぁ……」


 特にやる事もない。

 九龍会の件は蛇の投入で情報戦ではかなり優位に立っている。

 しかし、それもいつまで続くかは分からない。

 パオは2日に1回は俺の所へ来て、情報を共有してくれている。

 ただ、目立った進展もない。

 俺から出来る事も今はないので、暇でしかない。


「久々に賞金稼ぎらしい事でもやるか……」


 俺はギルドへ向かう事にした。


「ガル?何処行くの?」

「あ?いや、暇だからな。依頼掲示板ボードでも見てこようかと思って」

「じゃあ、私も行く。ガルと2人で依頼こなした事ないしね」

「あー、そうだったな。まぁ、手軽そうな奴でもやるか」


 俺とエルウィンは連れ立ってギルドへ向かった。

 開け放たれた扉を潜ると、いつも通りに賑やかだ。


「なんか、久々に依頼掲示板見るなー」

「そうね。何だかんだ、グローが見繕ってくれてたからね」


 様々な依頼が掲示してあるが、2人組で受注できるものは多くない。


「なんか、眺めるのもめんどくさいな……。カウンターで聞くか」

「全く、やはりお主等には任せられんな」


 気が付けば隣にグローが立っていた。


「グロー」

「依頼を探しとるんだろ?これはどうだ?」


 グローは1枚の羊皮紙を俺に手渡した。


「これは……」

「西で暗黒種族の活動が活発になっているらしい。今がまだ散発的な襲撃だが、どうも気になるらしく、調べて欲しいとの事だ」

「中央司令部からの依頼じゃねーか……」

「本当の依頼主は上将軍だ。どうしてもお主に頼みたいとよ、ガル」

「……、気を利かせてくれてるのか、閣下は」

「軍としても西の動きは警戒したいのだろうが、中央司令部から直接調査に兵士を出す訳にもいかんからな」

「なる程。それはそうだな」

「ついでにもう1つ伝言だ」

「伝言?」

「西の貧民窟スラムがどうもおかしい。可能ならばそれも調べて欲しいとの事だ」

「貧民窟……」

「ガル、嫌なら断ってもいいのよ?」

「いや、上将軍が気になるって事は、何かが起きているって事だ。調べた方がいい」

「西部のギルドも信用しない方が良いかものぁ。例の件以来、ギルドにも手を伸ばしている可能性があるからの」

「だから、俺達に依頼を出した訳だ」

「行くか?」

「当たり前だ。中央司令部からの依頼なら、報酬も多いだろ」

「スゥには私から言っとくわ。あの子、まだガルと話したくないみたいだし」

「……、はぁ」

「溜息を吐かない。反抗期だと思いなさい。いい傾向よ」

「そんなもんか?」

「とにかく、今日の内に出発するぞい。ガルはあのパオとか言う奴に連絡しておけ。ある程度情報も持っておろうし、現場で連携できる」

「分かってるよ。とりあえず、遠征準備だな」


 俺達は連れ立って家に帰った。



「フィアット、屍喰鬼グールの量産は順調か?」


 俺は葉巻を吸いながら言った。


「スペリオがまた1つ、問題を解決したようです」

「ほぉ、と言うと?」

「以前、くだんの村で研究を行っていた時、屍喰鬼の量産には成功しましたが、知能指数が矮鬼ゴブリン並みに低い個体しか出来ていませんでした」


 確かに、それは以前の報告で聞いた。

 肉体も身体能力も、通常の屍喰鬼と同じレベルのものが出来上がったが、それらの知能指数が軒並み低かった。

 使えそうな個体だけを輸送したが、それはほんの一部で、殆どが人語も介さないレベルだったらしい。

 新たな研究所を与えられたスペリオは、その原因の究明に集中していたらしく、そのお陰で、屍喰鬼の量産は止まっていた。

 いくら量産しても、兵士として使えなければ全く意味がない。

 養殖ラインを止めたのはフィアットの独断だが、この判断は正しかったと思う。

 養殖には資材が不可欠だ。

 時間よりも資源の有効活用する方が、今は重要だ。

 ファン達の陣営は、へびを使ってインを抑えているが、こちらが優勢なのには変わりがないのだ。

 未だ、状況の主導権は我々の側にある。


「その原因が分かったのか」

「はい。どうも、だったようで」

「共喰い?」


 フィアットへ提出された報告によると、村で研究している時は村人をすり潰した後、が手に入らなかった為、らしい。

 村人だけでも恐ろしい所だが、同じ屍喰鬼も使ったとは、やはりスペリオの異常性には畏怖すら覚える。

 まぁ、スペリオの事は置いておこう。

 原因が共喰いと分かれば、それを防ぐ手立てをすればいい。

 そうすれば、量産屍喰鬼の知能指数も向上するとの事だ。


「つまり、俺にを頼みたいんだな、フィアット」

「流石でございます。私の方でも色々とやっておりますが、今後の大量生産を考慮しますと、どうしてもが必要となりますもので。私1人で集めるにも限界が……」

「分かった、その件は任せろ。それとは別に、スペリオに頼んでいた1はどうなった?」

「現在、誠意進行中でございます。すぐに結果が出るモノではありませんが、スペリオならば辿り着けるでしょう」

「うむ、楽しみにしておこう」


 研究に関しては順調だ。

 フィアットの目には狂いはなかった。

 スペリオ。

 自分の欲望のままに、倫理や道徳すら止める事の出来ない研究の狂人。

 面白くなってきた。

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