第43話 闇を従える者
「アンタが現当主って事で良いのかな?」
私は南方のとある廃村にいた。
そこは既に地図にも記載されていない場所で、
しかし、ここは王国の歴史が変わった転換点の始まりの場所だ。
ここで起きた混乱から、王国内は荒れ、多くの貴族が滅亡し、新たな王国に作り変えられた。
魔王軍との戦争のかつての最前線。
それがこの場所だ。
この場所で当時の国王が死に、俗に玄冬期と呼ばれる、王国史上最も愚かな時代が始まった。
今はそんな事はどうでもいい。
「私の名は
「ヒョウか……、俺達のお頭には似合わない名だ」
「私の名はどうでもいい」
「そうだな」
その男は浅黒い肌に、黒髪、黒い瞳だった。
王国内では手に入らない紙巻煙草をくゆらせている。
その男の他にも、10名程の男女がこの場に集まっていた。
全員が黒いフードを被り、口元しか見えていない。
それでも、それぞれが独特の雰囲気を醸している。
「名乗ってもらってもいいかな?」
「その前に……」
そう言って男は独特な形の
それに倣い、その場にいた全員が小剣を取り出す。
皆、同じ銀色で形状も同じだ。
勿論、私もそれを持っている。
しかし、私の小剣だけは緋色だ。
「……、確かに。前代から聞いた通り、当主の証明である
「信じてもらえたかな?」
「……、『全てを御手に捧ぐ』」
男は小剣を鞘に戻し、私に跪いてそう言った。
他の者もそれに続き、全員が私に
「『全てを御手に捧ぐ』」
「御当主、現在王国に集まったのは全体の半分程。遠くへ展開していた者達を除き、終結は完了しております」
1人の女が跪いたまま言う。
「全員が終結するには、後8日程掛かるかと」
「分かった。王国内へ入り次第、随時展開するように。現場はある程度君達に任せる」
「了解しました。して、主目標は?」
「まずは、我々の元片割れを壊滅させる」
元片割れ。
それは隠の事だ。
そう、彼等も全員が
それは玄冬期以前の話だ。
王国には
それを牛耳っていたのだ、ルーインバンクと言う名の貴族。
そのルーインバンクには2つの顔があった。
1つは、全世界の3分の1の人口を信者とする宗教団体の長、つまり大僧正。
そしてそのもう1つは、世界中の些細な情報すら拾い上げる諜報網を持つ諜報組織・蛇の元締め。
宗教関連施設は世界中に広く分布していたため、そこを拠点に諜報活動を行っていたのだろう。
しかし、国王が倒れ、国が荒れ始めた時、宗教組織と諜報組織は袂を分けた。
ルーインバンクは王国の中でも指折りの貴族。
国王が倒れた後、空いた玉座を巡って国内は荒れに荒れていた。
その混乱に、ルーインバンクも巻き込まれたのだろう。
信者への影響を考慮し、宗教組織を分離、独立させることで、戦乱の影響から遠ざけようとしたと思われる。
そして、諜報組織も王国内の諜報員と王国外の諜報員で二つに分けたのだ。
王国内が安定するまで、王国外の諜報員はそのまま国外での活動を徹底させる事で、国外の諜報能力はそのままに維持しようとしたのだろう。
しかし、結局ルーインバンクは滅んだ。
王国内の諜報員達は傭兵の様な雇われの身になり、現在の隠になった。
そして、王国外の諜報員達は、今ここに集まった者達なのだ。
隠は雇われとして、その形を徐々に変えていったが、王国外の蛇達は当時のしきたりを重んじ、今も蛇という蔑称を誇りにしている。
「必要なものがあれば言ってくれ。揃えさせる」
「御当主、ご心配には及びません。我々に必要なのはこの身体のみ。それは御当主自身が一番ご理解しているのでは?」
「確かに……。とりあえず、私は西を拠点に動いている。そこを本部と設定する。場所はここだ」
私は地図を出し、私と黄様が使っている事務所の場所を示した。
「承知。ところで御当主」
煙草を咥えたままの男が私に訊ねてきた。
「なんだ?」
「ここに来る間に、同族を少しばかり消した。片割れってのはソイツ等なのか?」
「ああ。先代当主が王国内に保持していた蛇のなれ果てだ」
「なるほど。言っちゃ悪いが、奴等鈍すぎるな。今指揮を執っているのは御当主ではないのですな?」
「私ではない。私の兄弟子だ」
先程女が男の煙草を取り上げ、地面に捨て、足で踏み消す。
そして、フードを脱ぎ、素顔を曝け出した。
透き通る様な白い肌と髪。
そして、その瞳は血の様に赤かった。
「私の事はシロとお呼びください。私はこの様な見た目なので、現場ではあまり使えません。御当主の傍付きにして頂けないでしょうか」
「なる程、
「よろしいのですか?」
「今後、主の身にも危険が及ぶ可能性は高くなっていく。シロ、主を守ってくれ」
「承知」
煙草を奪われた男はフードを脱ぎながら徐に立ち上がった。
その身長は驚く程高く、2メートルを超えている。
「俺はタイパン。現場指揮は俺に任せてくれ。まずは集まった蛇達を再編成する為に1日くれ」
「よろしく頼む」
「承知」
そうして、シロ以外の全員闇に消えていった。
「ふぅ……」
私は深呼吸をする。
残ったシロを含め、先程集まった全員が恐ろしいくらいの手練れだった。
手合わせするまでもなく分かる事だ。
そして、その中でもこのシロとタイパンは群を抜いて強い。
当主である事を認められなかったらと、心配していた。
しかし、どうやら従ってくれるらしい。
「御当主、そんなに緊張せずともよろしいのに」
「当主と認められなかったらと思ってね……」
「何を仰いますか。御当主は我々の中で最も強い。見れば分かります。正直な所、私よりも弱いのであれば、殺そうと思っておりました」
「……、雰囲気で分かる。殺気をぶつけられて緊張しない奴などいないだろう……」
「申し訳ございません。しかし、我等とて、弱き者に従う気などございません。御当主は我々の
「だといいんだが……」
私は一先ず胸を撫で下ろした。
しかし、ここからだ。
隠をじわじわとすり潰してやる。
私とシロは黄様の待つ西へ向かった。
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