第39話 欲と道理

ファン様、ただいま戻りました」


 私は例の事務所へ赴いていた。

 一連の出来事に粗方片が付いたからだ。

 サリィンの暗殺を狙っていた隠の動きも鈍った。

 お陰で私は動きやすくなり、サリィンの周辺警備もある程度緩められる。


「順調か?」

「こちらは何とか。黄様の首尾は?」

ラン殿の部下も含めた所で兵力の増強を進めている。それと、数日前にはハオ殿の協力も取り付けた。すぐにでも部下を合流させてくださるそうだ」

「それは心強い!」


 豪殿は燃殿と並ぶ武闘派で名を馳せた元老会メンバーだ。

 先代の時代では、九龍会の二武龍ダブルドラゴンと呼ばれる程だったとか。

 先代への忠義も厚く、何より黄様を目に掛けてくれた方々に他ならない。

 時が来れば、必ず黄様にお味方くださる、そう信じていた。

 このお二方が本格的に合流してくだされば、他にもこちらに靡く元老会メンバーもいる筈。


「とは言っても、燃殿や豪殿の合流はあちらから見ても予想の範囲内。問題はここからどれだけ他の元老会メンバーを引き込めるかだ」

「元老会メンバーの引き込みは、黄様とイン兄にお任せします。私は可能な限りインの攪乱を」

「頼むぞ。戦闘になるのはまだまだ先の筈。今はどれだけ情報戦で優位に立てるかだ」


 黄様は戦略などに関しては余り得意ではない。

 しかし、何年も蒼狼ツァンランと対峙していたお陰で、指揮を執る者としての感覚が存分に養われた。

 昔であれば、情報戦などに重きを置かず、力攻めしかしていなかっただろう。

 ご成長なされた。

 だが、策略に関してはやはりフェイ様の方が上なのには変わりがない。

 むしろ、賞金稼ぎバウンティハンターとして暗黒種族を相手にグロー様とお2人で数々の依頼をこなした吠様は、更に磨きのかかった策略家へと変貌を遂げていらっしゃる。

 正直、惚れ直した程だ。

 やはり、我々には吠様が必要なのだ。

 そんな事を考えていると、ある事を思い出した。


「黄様、話は変わりますが、吠様のお仲間にスゥという子供の圃矮人ハーフリングがいらっしゃるのですが……」

「あぁ、報告は受けている。何でも、ルインが育てた隠の見習いだった様だな」

「はい。適性は高過ぎる程に優秀です」

「そのスゥがどうした?」

「私に特訓を申し込まれました」

「はぁ?」


 流石の黄様も目を点にされた。


パオに弟子入りしたいという事か?」

「その様で。確かに、あの子は未だ発展途上。鍛えれば私を凌ぐ可能性も秘めています」

「……、吠はどう言っている?」

「いえ、吠様にはまだご報告しておりません」

「そういう事は、私よりも先に吠に聞け」

「いえ、吠様の事です。あの子を暗殺者アサシンとして鍛え尽くす事には反対なさるでしょう」

「……、そうだな。アイツの事だ、その子には堅気カタギとして生きて欲しいと言うだろう」

「しかし、本人たっての希望なので、無下に断る事も出来ず……。とりあえずは保留にしております」

「……、私としてはお前の後継者が出来る事は喜ばしい事だが……。やはり、の意向を聞くべきだと思うぞ?」

「……、承知致しました」

「フフフ、豹、ホントは欲しいんだな?そのスゥが」


 見透かされた。

 正直、欲しい。

 あれだけのセンスを持った人材はなかなかいない。

 それに、まだ子供でありながら、既に隠のメンバーよりも高い域に達している。

 まだまだ伸びしろもある。

 あの子を育てたら何処まで伸びるのか、見たい気もするのが本音だ。


「欲しいなら吠に直談判しろ。お前の頼みなら、アイツも首を縦に振るだろう」

「……、まずは吠様のご意向を……」

「控え目だな、お前は」


 黄様はそう言って笑った。

 何とも言い難い気持ちになってしまう。

 それより、もっと重要な報告をしなければならない事があったのだ。


「あの子に関しては吠様にお伺いする事にします。それよりも、もう1つご報告を」

「何だ?」


 ハッキリ言って、これが本題だ。


「部下を招集しています。半月後には、全て集まるかと……。近くにいた者は既に王国内で活動を開始しております」

「うむ……、助かる。これで5には持っていける……」


 黄様は頷く。


「黄様」

「何だ?」

「5分ではありません。我等の実力を侮らないで頂きたい」

「すまんすまん、そうだったな。しかし、既に伝説の域。私はお前しか知らんのだ、許せ」

「いえ、これからその実力をお見せいたします。私が最強の称号と共に受け継いだ達の力を」

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