第37話 再びの王都

ファン様、フェイ様の作戦、ほぼ完了致しました」


 私は黄様への報告の為、一度西部に戻った。


「の様だな。それなりにやり返された様だが」

「はい。南方司令部の大尉がインの手に……」

「それくらいの被害は織り込み済みだろ」


 黄様の言う通り、それくらいは想定内の被害だ。

 むしろ、私の予想よりも被害が軽微で驚いている。

 しかし、リオリート大尉を失ったのはなかなかに大きい。

 今後、東方・南方の両司令部は西都物流商事に手が出せなくなった。

 また、ギルドにも間者を入れてくる可能性もある。

 フィロー商会の名前が出るのも時間の問題だろう。


「これ以上、一般人を巻き込む訳にいきません」

「それは吠も承知だろう。ここからは我々が独自でやらねばな」

「はい……」

「何だ?歯切れが悪いじゃないか、パオ


 その通りなのだ。

 裏社会の事は、裏社会で解決する。

 それは鉄則である。

 吠様のお陰でギルドや商会、軍の助力を得られたのは非常に有難かった。

 しかし、本来ならば交わるべきではないのだ。

 そして、これ以上の助力も望めない状況になった。

 吠様の言う通り、これは単なる時間稼ぎでしかない。

 蒼狼ツァンランの動きが鈍るであろう今、やらなければならない事がある。


「黄様、1つ許可を頂きたく……」


 私は、私が使える力の全てを結集する許可を嘆願した。



「サリィン、そろそろ出発するぞー」


 俺はサリィンを呼びに、支部に顔を出した。

 コフィーヌが入城手形の申請を出して9日、やっと許可が下りたのだ。

 何でも、今回の件についての聴取も含まれているらしく、サリィンは名指し、その他関係者も連れて来いとの事らしい。

 つまり、発案者である俺、ギルドのベルベット、フィロー商会のピュートも漏れなく同行する事に。

 いつぞやの呼び出しを思い出す面子メンツだ。

 しかし、今回は御前裁判ではなく、上将軍への謁見が俺達の主な目的。

 上将軍が直々に聴取するとあって、俺達には願ったり叶ったりだ。


「なんで私まで……」


 そう言っているのはセリファだった。


「お主もしばらくは中央で暮らせ。街におってもワシらがずっと護衛する訳にいかんからのぉ」

「申し訳ありません、セリファ殿……」

「いや、まぁ、仕方ないし……」


 2人でモジモジしだす。

 何なんだ……。


「全員乗ったか?出すぞー」


 俺は全員が乗っている事を確認して、馬に鞭を入れた。

 コフィーヌは不在だが、またこのメンバーで王都へ向かう事になるとは。

 俺は例の如く、ステルビアを咥えながら、御者台からの眺めを楽しんだ。


「なんでガルが御者?」


 セリファがコソコソとグローに聞いた。


「ガルなりに、お主等へ気を遣っておるんだ。ホントはの、セリファがサリィンと付き合っておると聞いて、ガルは喜んでおったのだぞ?」

「え?」

「どうしてです……?私を嫌厭してもおかしくないのに……」

「ガルはの、人に執着しないのだ。人というより、物事にと言って方がよいかの、悪い意味で」

「執着しない……」

「だからこそ、恋愛感情などは持っておらんし、寝取られたからどうのと怒る事もない。何より、軍人という身分がしっかりしたサリィンとセリファがくっつく事を心から喜んでおる」

「何それ……」

「『セリファは良い奴だから、いい相手を見付けないと』と言っておったぞ?そもそも、ガルとお主があれ以上の関係になっておったら、その内ガルの方からいなくなっておったわ」

「……、自分勝手にも程があるわ」

「それが今のガルだ。可愛げが出てきた方だぞ?」

「どこが可愛げよ。余計なお世話だっての!」

「セリファ殿……、やっぱりガル殿の事が……」

「好きだったのは確かよ、一時期までは。けど、今は……」

「荷馬車は狭いからのぉ。ヤるなら外で頼むぞい」

「このエロ鉱矮人ドワーフ!!」


 後ろからギャーギャーと話し声が聞こえる。

 いい気なもんだ。

 一応、サリィンは命を狙われているのだ。

 何とも緊張感がない……。

 俺が御者をやっているのは、急襲されないためだ。

 スゥを連れてくる方が確実だったのだが、この間からスゥに頼りっぱなしだ。

 まだまだ成長期の子供を、ずっと前線に連れ回したくなかった。

 いくら緊張感がないメンバーだったとしても、知らない土地で周りを気にしながらだと神経が磨り減る。

 スゥを酷使したくない。

 出来れば冒険者も辞めさせたいのが本音だ。

 子供は子供らしく生きた方がいい。

 しかし、スゥもまだまだ堅気カタギの生き方に慣れていない。

 もうしばらくはこのまま俺達と暮らすのもいいだろうが、その内学校にも通わせるべきだと思っている。


「マジで親みないた事考えてるな、俺……」


 溜息を吐きながら、俺は手綱を握っていた。

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