辞令:人事異動編

第33話 無謀な閃き

 隠からの報告が上がってきた。

 南方司令部のリオリートは殺害したが、東方司令部のサリィンは失敗したらしい。

 まぁ、片方だけでも消せたのなら、いい見せしめになる。

 更に西方司令部から圧力を掛けさせれば、しばらく軍が介入してくる事はないだろう。

 結局、アーネストのじじいにまた借りを作る事になるのだが。


蒼狼ツァンラン様、よろしいでしょうか?」


 フィアットが部屋の外から声を掛けてきた。


「あぁ、いいぞ。手短にな」


 俺は後ろ手に手錠を掛けた女2人に陰茎を舐めさせていた。

 正直、早く女達を悦ばせてやりたい所だが、仕事に関わる話ならば仕方がない。


「お楽しみの所、失礼致します」

「何があった」

「はい、今し方、軍人2名の暗殺に向かせたインの生き残りが死亡しました」

「深手を負っていたと言っていたな」

「はい。これで、暗殺に向かった隠の全員が死にました」

「……、それがどうした?」

「リオリートの方は、さほど手こずる事なくれたようですが、サリィンの方が問題のようで。何でも、異様に奴がいるとか……」

「……、何が言いたい?」

「はっ、サリィンに関しては、その周囲を洗った方が良いかと……」

「任せる、好きにしろ」

「御意に」


 そう言ってフィアットは出て行った。

 ふむ……、確かにフィアットが懸念する意味も分かる。

 生き残っていた隠の話では、リオリート殺害には10人で掛かり、4人が死んだ。

 サリィン殺害には残りの6人と別働だった10人を合わせて16人で当たった様だが、撃退されたどころか、壊滅的打撃を受けている。

 壊滅的打撃というか、帰って来たのは1人で、ソイツも死んだ。

 異様だ。

 執拗に追撃を受けたらしいが、隠の移動速度に追い付くなど不可能に近い。

 普通ではない。


「……、ファンとの繋がりを考えているのか、フィアットは」


 黄の所には、隠と同じ仕事をする者がいると聞く。

 それ以外に考えられない。

 しかし、黄と軍人が接触した気配など皆無だった。

 何か引っ掛かる。


「あぁん、蒼狼様ぁ……」


 気が付くと、女達は物欲しそうな顔で俺を見上げていた。

 まぁ、フィアットが何か掴んで来るだろう。

 俺は一度その事を忘れ、いきり立った陰茎を女の膣内にねじ込んだ。



「吠様、申し訳ございません……。1人、り損ねました……」

「でもね!深手は負わせたんだよ!多分、2日ももたないと思う!」


 パオとスゥが俺の元へ戻ってきた。

 サリィンを暗殺しに来た隠の奴等を追撃していたのだ。


「そうか。まぁ、下手にベラベラと喋る前に死ぬなら問題ない。ご苦労だったな」

「ボク、疲れた……」

「今回はスゥが良く働いてくれたからな。飯食って風呂入って休むといい」

「うん」

「そうだ、豹も一緒に飯食うか?」

「え?」

「少しくらい時間はあるだろ?」

「少しなら……」

「よし。つっても、もう朝だからな……。大将の店はもう閉まってるだろうし……」

「はぁ、私が作るわ。簡単なのでいい?」

「じゃあ、ウチに集合だな」


 そんなこんなで、豹を含めた5人で食卓を囲む事となった。


「肉を頼むぞ、エルウィン。肉だ」


 グローは酒をラッパ飲みにしながら言う。


「分かってるわよ、不摂生鉱矮人ドワーフさん」

「酒と肉がない方が不摂生だわい。のぉ、スゥ?」

「お肉ぅ!」

「スゥはグローの真似しないの……」


 この3人の緊張感のなさは相変わらずだ。

 それは置いておいて、こちらもそれなりの被害を被ったが、あちら側もかなりの痛手になった筈。

 問題は今後だ。


「所で豹、お前はどう思う?」

「どうとは……?」

「蒼狼の今後の動きだ」

「そうですね……。恐らく、西方司令部を使って、東方と南方に圧力を掛けます。殺害されたリオリート大尉の件もあるので、軍は簡単には動けなくなるでしょう」

「やはりそうか……。それに加え、サリィンに護衛を付ける必要があるな」

「はい。恐らく、常に隠から狙われる事になるかと思います」

「……、いっその事、サリィンを中央勤務に出来ねーかな」


 その一言に、豹とグローが目を見開いた。


「ガル、お前は何を言ってるのか分かっておるのか?」

「え?」

「軍の人事に一般人が介入出来る訳がないだろ」

「グロー様の言う通りですよ、吠様。上層部とパイプがあるならまだしも……」

「あるじゃねーか、俺達には」

「いやいや、顔見知り程度でどうにかなる話ではありませんよ……」

「しかし、確かにサリィンは中央勤務にした方が安全ではあるのぉ……」

「だろ?流石の隠も王都の中枢区には入れない筈だ」

「それは、確かに……。西都物流商事が用意できるのは商業区への王国指定業者証明書まで。入城手形は西方司令部だけでは準備が出来ません」

「だったら、サリィンは中央に行かせた方が安全じゃないか」

「簡単に言うでないわ……。何度も言うが、軍の人事に意見出来る訳がなかろうて……」


 グローは溜息を吐きながら酒瓶を煽る。

 しかし、俺は既に決心した。


「やってみなくちゃ分からんだろ。ダメもとで頼みに行こうぜ、上将軍閣下に!」

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