第29話 急造混成防衛隊

「やっと着いたわい……」


 グローは大きな伸びをしながら、街の門を潜った。


「やっとグローの『つまらんのぉ……』から解放される……」


 俺は深い溜息を吐きながら言った。

 結局、あれ以来襲撃はなく、そこから10分毎にずっとグローの『つまらんのぉ……』を聞かされていた。

 頭がおかしくなるかと思った。

 というか、流石に一度キレた。

 何とかコフィーヌが間を取り持ってくれたが、本気の斬り合いになっていてもおかしくなかっただろう。


「つまらんモンはつまらん。もう少し歯応えのある相手が出てくると思ったが……」

「お帰り、みんな」

「おかえりー」


 エルウィンとスゥが出迎えてくれた。

 会うのが久々な気がする。


「おう、エルウィンの特訓が役に立った、ありがとな」

「特訓って言っても基礎中の基礎よ。今度からはもう少し難易度を上げましょう」

「とりあえず飯と酒だの」


 そう言ってグローは真っすぐに大将の店へ足を向けた。


「おい、グロー!引渡しと報告がまだ終わってないぞ!」

「それはお主に任せた。ワシは先に酒を飲んどる」

「おい!はぁ……、勝手過ぎる……」

「まぁ、2人ともいつも通りみたいで良かったわ。報告には私が付き合うから」

「ボクも行くー!」


 俺は再び溜息を吐きながら、軍の支部へと向かった。


「所で、ここでは何も起きなかったか?」

「それが……」


 エルウィンは数日前に起きた偽装襲撃騒動の話を始めた。


「1人で襲撃なんて有り得ないと思ったから、街の警備を増やしたわ。そしたら案の定、その夜に10人弱が襲ってきた」

「こちらの被害は?」

「いたって軽微。襲撃してきた奴らは1人残らず殺したわ」

「うん、それでいい。現時点で戻ってきてるのは、全体の内のどれくらいだ?」

「うーん、どれくらいだろう……?」

「全体の約5分の2です、ガル殿」


 サリィンだった。


「サリィン!大変だったな。少し痩せたか?」

「多少ですけどね。それより、無事の御帰還、安心しました」

「コフィーヌや他の兵士もいてくれたからな」

「いえ、私は何も役に立てませんでした……」

「そんな事はない。参考人達の面倒やら見てくれたお陰で、俺達は楽が出来た。感謝してる」

「そんな……」

「ガル殿、お話したい事がありまして……」

「分かった、報告が終わってからでいいか?」

「いえ、報告には私が行きますので、ガル殿は少尉とお話を」

「いいのか?コフィーヌ」

「はい。あとは我々にお任せください」

「分かった、頼んだ」

「はい」


 参考人達を乗せた荷馬車をコフィーヌに渡し、俺達はサリィンの後について行った。

 通されたのはやはり、支部の中の応接室。

 そこのソファーにパオが座っていた。


「豹、来てたのか」

「はい。取り急ぎ、サリィン殿にお知らせする事がございまして」

「……、サリィンに直接伝えに来たのか」

「はい」

「ガル殿、お座りください。エルウィン殿やスゥ殿も」


 俺達はソファに座る。


「サリィンに直接って事は……、暗殺命令が出たのか」

「はい。フェイ様の御推察通り、蒼狼ツァンランがサリィン殿とリオリート殿の暗殺の為にインを放ちました」

「いつの話だ?」

「2日前です。既に奴等は近くまで来ている筈です」

「リオリート大尉はまだ到着されていません。予定よりも遅れていますので、下手をすると……」

「ねぇ、ガル……」


 スゥが控え目な声を出しながら、俺の袖を引っ張った。


「どうした?」

「来るよ……」

「え?」


 スゥは何の話をしているのか。

 しかし、その不安そうな顔を見ると、察しがついた。

 恐らく、隠の襲撃が今晩来るという事だろう。

 スゥは元々、隠のメンバーにする為に訓練された過去がある。

 そのスゥが言うのだから間違いないだろう。


「サリィン、すぐに特別警戒にしろ!」

「え?どういう事ですか?」

「敵襲だ!兵士全員を完全武装で待機させろ!スゥ、すぐに来るのか?」

「……、殺気は感じたけど、すぐになくなった」

「事前偵察だな。すぐに来てもおかしくない。俺達も出るぞ」

「今、街にいる冒険者にも協力を仰いだ方が良さそうね。ベルベットさんに連絡してくる」

「頼む、エルウィン。スゥもエルウィンと一緒に行け」


 2人が頷いて部屋を出る。


「非常事態宣言を発令、住民をすぐに室内へ退避させろ」

「了解!」


 呼び出されたサリィンの部下もすぐに部屋を出て行った。


「すぐに城門を閉じさせます」

「弓矢は意味がないかもしれん。兵士全員に盾を持たせろ」

「了解です。もうすぐ日が暮れます。出来る限り灯りを点けさせましょう」


 外に出ると一気に街全体が殺気立ってきていた。

 騒ぎを聞きつけて、グローも戻ってきた。


「忙しないのぉ。折角の酒が……」

「とか言いつつ、ワクワクしてんだろ、我らが戦闘狂ウォーモンガーさんよぉ」

「ガハハ、ワシが前線に出てもいいのか?」

「勿論です。むしろ、戦闘に慣れていない者が多いので助かります」

「だとよ、ガル」

「何だよ、俺も前に出にゃならんのか?」

「当たり前だ、楽しいぞぉ」


 楽しいかどうかは別にして、暗殺者と対峙した事のない兵士を前に出すより、俺やグローが前に出た方がいいのは確かだ。

 前衛は手練れの冒険者たちに任せるべきか。


「ガル!ギルド、協力してくれるって!」

「ちょうどいい、エルウィンとスゥはそのまま参考人達を収容している旧兵舎に行ってくれ」

「え?どうして?」

「この襲撃に合わせて、潜り込んだ奴が動くかもうしれん。スゥが怪しいと思った奴は全員斬れ、時間がない」

「分かった、行くわよスゥ!」

「うん……」

「スゥ、お前は今、俺達の家族なんだ。斬るのはエルウィンに任せてもいいぞ」

「……、ううん、ボクも斬る」

「怪我だけはするなよ?」

「分かった!」


 エルウィンとスゥが駆けていく。

 スゥも少なからず後ろめたさを感じている様だ。

 まぁ仕方ない。

 だからと言って、大目に見れる状況でもない。


「吠様、私は街の外で隠の撹乱へ向かいます」

「頼めるか、多少でも数を減らしてもらえると助かる」

「御意に」


豹が街の外へ消える。


「ガル!ギルドから緊急でお前の所に行けって言われたんだが、どういう事だ?」


 斧槍ハルバートを担いだロブが話しかけてきた。

 その他にも、この街のギルドでも指折りの近接職の手練れ達がゾロゾロと集結している。

 数にして20人くらいか。


錚々そうそうたるメンバーだな」

「一堂に会するなど、滅多にないからのぉ」

「よし、それぞれ二人一組スーマンセルを作れ。1組に兵士20人を付ける。暗殺者の侵入を許すな、見つけ出して斬れ」

「なかなか物騒な話だな」

「民間人は室内に退避させている。好きに暴れてもらっていい。だが、敵の人数は把握できていない。接敵したら確実に殺せ」


 奇襲も得意とする冒険者だ、この街を狙うなら何処か、自ずとそれも分かる。

 現時点でこの街が用意できる手札はこれで全部だろう。

 ある程度の被害は覚悟の上だ。

 俺達は兵士を引き連れて街の巡回を開始した。

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