第28話 ランデブーポイント

「これだけの人数を何処に収容するの、サリィン……?」


 街には続々と参考人達が集まり始めたいた。

 どの部隊も疲弊している。

 一目で襲撃があった事が分かる。


「参考人達は、軍の兵舎に収容します」

「そんな余裕あるの?」

「来年に取り壊す予定だった旧兵舎があるんです。そこなら300人くらいは詰め込めますよ」

「詰め込む……」


 参考人は研究者だけでなく、用心棒の様なむさ苦しい輩もいる。

 そんな奴等がぎゅうぎゅうに部屋に詰め込まれる姿を想像してしまい、私は少し悪寒を覚えた。


「エルウィン殿、旧兵舎はそんなに狭くありませんよ?昔はこの街に駐屯する兵士の数も多かったですかね」

「そう……?ならいいけど……。とにかく、怪我人を運びましょう」


 軍医は勿論、街医者のゼペットさんも協力してくれているので、怪我人の治療は問題ない。

 参考人は無傷の人が多く、そのままサリィンによって軍の兵舎へと移動されていた。

 今の所は順調に思えた。

 しかし、それもつかの間。


「おい、荷馬車が2台爆走してくるぞ!」


 門兵からの報告だった。

 爆走?

 私とサリィンが門に到着すると、2台の荷馬車が速度をそのまま門を通過し、勢い余って派手に横転した。


「何事!?」


 縛られた数人が荷台から投げ出されていた。

 恐らく参考人だろう、怪我はしている様だがちゃんと生きている様だ。

 それはともかく、問題は御者だ。

 あんな無茶な走り方をしていたのだ、ただ事ではない。


「御者を探して!」


 私の声に反応し、その場にいた兵士たちが横転した荷馬車から御者と思われる人物を引きずり出した。

 狼狗人ウェアウルフの男だった。

 片腕を失い、傷口近くをベルトで縛って止血しているが、既に断面には蛆が湧き始めている。


「意識はあるか!?」

「あ……」


 抱きかかえたサリィンの言葉に僅かな反応を見せる。


「どうした、何があった!」

「襲撃で……、仲間が荷台に……」

「少尉!荷台に数名の冒険者が!」

「傷を負ってる……、手当てを……」


 サリィンが荷台の方を見るが、荷台の中を確かめた兵士は首を横に振った。

 既に事切れていた様だ。


「お前も治療が必要だ。担架を用意するから少し待て」


 サリィンが担架を呼び寄せる。

 しかし、私はその男からある違和感を感じた。


「その前に、経緯を説明できる?」

「あぁ……、俺達は北部の南東あたり……、ちょうど北部と東部の境目辺りの村を担当した……。ここへ向かう途中で襲撃に遭い……、何とか退けたが、その後に襲撃を受けている他の隊と遭遇して……」

「なるほど、だから荷馬車が2つあるのね?」

「あぁ……。結局まともに動けるのは俺だけだった。だから、荷馬車2台で走ってきた……」

「エルウィン殿、早く治療に……」


 サリィンは部下が持ってきた担架に、その男を乗せようとした。


「待って。めんどくさいだろうけど、自分の所属と振り分けられた部隊記号を言って」

「え?」

「そんな事より治療を!」

「良いから言いなさい」


 横から口を出すサリィンを威圧して黙らせる。


「言えないの?」

「それは……、仲間が知っている……。俺はいつも依頼の詳細を見ないから……」

「嘘。依頼には、全員に部隊記号の周知徹底と書いてあったはず。それを知らないって事は……」

「……、クソ!」


 狼狗人は飛び上がるように身体を起こし、短剣ショートソードを抜きながら、私に襲い掛かってきた。

 動きは早い。

 でも、スゥ程ではない。

 私はあっさりと狼狗人の一振りを避け、双短剣を深々とその背中に突き立てた。


「何なんだ、コイツ!」


 崩れ落ちる狼狗人に兵士たちが抜刀状態で近付く。

 私の双短剣は、心臓と肝臓を貫いており、既に絶命していた。


「襲撃した奴等の残党でしょうね。街の警戒を厳に。荷馬車に乗っていた参考人達は?」

「ダメです、全員死んでいます」


 やはり。

 こういう事態もガルは想定していたのかしら。

 それはそうと、この感じでは街への襲撃も頻繁に起きるかもしれない。

 まずは参考人達を収容する旧兵舎の警備を増やす必要がある。

 参考人の振りをして入り込んだ暗殺者もいるかもしれない。

 可能な限り少人数に分けて収容した方がいい。


「サリィン、忙しくなるわよ」

「……、はい」

「呆けてる場合じゃないわ。ほら、立って」

「……、この2つの荷馬車を担当していた方々は、皆死んだのですね」

「そうよ。今更驚くこともないでしょ」

「分かっています。覚悟はしていましたが……」

「これは既に戦争よ。気合を入れなさい。東方司令部での指揮は、少尉の貴方が執るのよ?」


 サリィンは一度自分の頬を叩き、立ち上がった。


「街への襲撃の備えを整えろ!非番も出して警備に当たらせろ!それから、参考人を収容する旧兵舎の警備も強化!気付いた事があれば、些細な事でも私まで報告するように!」


 ガルやグローの言う通り、サリィンには見所があると実感した。

 既に将としての資質が芽生え始めている。

 サリィンの指示にテキパキと兵士たちが動く。

 ガルや南方司令部のリオリート大尉が到着するまでまだ時間が掛かる筈。

 それまでの間、サリィンの事は私がしっかりと支えなければ。

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