第27話 北方担当・部隊番号02

「……、来るのぉ」

「そのようだな」


 俺とグローは臨戦態勢に入った。

 それに倣い、コフィーヌも突剣レイピアを抜く。


「矢が飛んでくる可能性もある。参考人達に周りに板で楯を作れ」

「はい!」


 コフィーヌ達が参考人達の周りに板を立てる。

 ここは森の中だ。

 何処から襲ってくるか分からない。


「コフィーヌ達は楯に隠れておけ。俺達だけで何とかする、出てくるなよ!」

「はい!」


 そう言った瞬間、何かが飛んでくる。

 咄嗟に刀で弾く。

 足元に転がったのは、釘の様なものだった。


「やはり、インだな」


 これは隠の連中が使う投擲型の暗器だ。

 表面が少し湿っているように見える。


「特殊な投げ小剣ナイフだ!毒が塗ってあるから触るなよ!」


 つまり、この参考人達は処理される事になったらしい。

 多少なりとも、奪還される方に掛けていたが、ダメだったようだ。

 奴等には参考人達の命を守る必要がないのだ。

 それに比べ、俺達は参考人達を守りながら戦う必要がある。

 こいつは厄介だ。


「遠巻きから小剣なんぞ投げよって……」


 グローは不規則な間隔で投げられる小剣を、双斧ツインアクスで弾き飛ばしながら舌打ちをした。

 いくら小剣を投げた所で、俺やグローには全く意味がない。

 向こうが諦めて近接戦に持ち込むまで待つしかなかった。


「いつまで遊んどるつもりだ!準備運動にもならんではないか、雑魚どもが!」


 グローが痺れを切らして叫んだ。

 奴等の投げ小剣も無限ではない。

 そろそろ顔を出してもらいたい所だ。


「ほぉ~」


 茂みの中から黒ずくめの隠が5人現れた。

 それなりの手練れの雰囲気を醸し出している。


「少しは楽しめそうだわい」


 グローはニヤリと笑った後に、森中に雄叫びウォークライを響かせた。


「やかましい……」


 グローの前に立った隠はそう言って地面を蹴った。

 隠の双短剣ツインショートソードとグローの双斧ツインアクスが激しい剣戟を繰り広げる。


「さて、この襲撃部隊の長はお前だな」


 俺は森の先を見ながら言った。

 姿を現さずにいる奴が1人だけ残っていたのだ。

 恐らく、ソイツが部隊長だろう。

 隠は基本的に二人一組ツーマンセルで動く。

 その基本形を崩して部隊編成をする事はないのだ。

 この襲撃部隊は3組が共同従事している事になる。

 近接戦になった場合、混戦して目的達成に手間取る可能性もあるので、1人が隠れ、指示を出すのだ。

 勿論、その指示役はそのメンバーの中で最も手練れの者が担当する。

 つまり、俺の声を聴いて現れたコイツが、この襲撃部隊の長。


「落ち着いているな」


 部隊長が言う。

 声からして女の様だ。

 立ち姿、体格から考えて、人間ヒューム耳長人エルフだろうか。


「襲撃に遭うなんぞ、日常茶飯事だからな。いいから掛かって来い、時間が惜しい」

「フン、舐めやがって……」


 部隊長は地面を蹴った。

 右手で逆手に握っている短剣を振りかざす様な動きを見せる。

 を見て、俺は全てを悟った。

 部隊長は左手のスナップだけで投げ小剣を俺の顔に向けて投げてきた。

 カタナでそれを払う。

 払うと同時に、右手を刀から離し、膝を曲げて重心を低くしながら、右腕を曲げて肘を出す。

 部隊長は俺の動きに対応できなかった。

 俺の肘鉄を鳩尾みぞおちにモロに喰らいながら、目を見開いたまま後方へ吹き飛んだ。


「ガハッ!」


 手応えは十分過ぎた。

 肝臓が破裂している筈だ。

 部隊長はうずくまったまま、呼吸すらまともに出来ない状態だった。


「師匠なら、さっきの一撃で即死させられるんだがな。俺もまだまだだ」

「その……、動きは……」


 部隊長は必死に声を出した。


「見た事あるか?だったら、余計に殺さないとならんな」

「まさか……、貴方様は……」


 最後まで言わせる事なく、俺はソイツの首を斬り落とした。

 部隊長があっさりとやられたのを見て、他の隠達の動きも止まっていた。


「おい、余所見しとる場合か?」


 グローは容赦なく斧を振り下ろす。

 我に返り、双短剣で防ごうとしたが、グローの渾身の一振りは双短剣諸共、隠の頭を叩き割った。

 恐らく、グローが相手をしていたのがこの部隊の副官だろう。

 部隊長と副官があっさりとやられ、他のメンバーは呆気に取られていた。


「『暗殺者アサシンたる者、常に動け』お前等の師匠の言葉じゃないか?」


 俺は部隊長の死体から回収した投げ小剣を、動きの止まった隠達に投げる。

 小剣が刺さり、泡を吹きながら全員が倒れた。


「コフィーヌ、無事か?」


 カタナを納めながら、荷台の様子を伺う。

 コフィーヌはまだ荷台の楯に身を隠したままだった。


「怪我はないな?」

「申し訳ありません、何の助力も出来ずに……」

「気にするでない。お主達の任務は参考人達の身柄を東方司令部へ持ち帰る事だ。他の事はワシ等で片付けてやるわい」

「しかし、隠れていただけというのも……」

「何、俺達だけで大丈夫だと判断したからだ。それより、さっさと出発するぞ」


 こうして俺達は難無く襲撃を撃退した。

 とはいえ、他の連中は大丈夫だろうか。

 俺の格闘術を分かる奴がいたという事は、隠の主力が投入されているという事だ。

 ともなれば、やはり潰された部隊も少なくないだろう。

 ともかく、東方司令部へ急ぎ、被害状況を確認する必要がある。


「しかし、つまらんのぉ……」

「どうした?」

「多少は出来る奴かと思ったのだが……」

「奴等の専門は暗殺だ。正面切って戦う事自体が有り得ない」

「はぁ……、つまらんのぉ……」


 東方司令部へ到着するまでの間、このグローの嘆きを延々と聞かされる事になるのだった。

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