第25話 北方担当・部隊番号04

「なんだか、案外簡単な依頼だったな」


 剣を鞘に納めながら、人間ヒュームの冒険者が言った。


「ギルドから『くれぐれも警戒を怠らないよう』って言われたが、そこまでの事か?」


 狼狗人ウェアウルフの冒険者も、槍を背負いながら言った。

 ここは王国の北東の外れにある村、管轄は北方司令部だ。

 ギルドの北部支部からこの村に派遣されたのは、6名のベテラン冒険者だった。

 剣使いソードマスターの人間、槍使いスピアマスターの狼狗人、魔法使いウィザード竜鱗人リザードフォーク耳長人エルフ僧侶プリースト人間ヒューム盗賊シーフ圃矮人ハーフリングだ。

 彼らは結成から5年のベテラン冒険者達で、北部支部でも指折りの実力者である。


「で、コイツ等4人を東方司令部まで移送すれば、依頼完了か。簡単だな」


 槍使いは施設にいた4人を縄で縛りながら言う。


「その癖、やけに報酬がいいと思わないか?」


 剣使いは雑然とした施設の中を見て回った。

 ここも例に漏れず、撤収作業中だったようで、書類の焼却や機材の破壊の最中だった。

 燃え残った目ぼしい書類は、魔法使いの2人がまとめてくれた。


「楽なのはいいけど、ホントにこれだけ?」


 魔法使いの耳長人の女が言う。


「どういう意味だ?」

「だって、これだけであの報酬って、やっぱりおかしいでしょ?」

「軍からの依頼らしいからな。何でも、東方司令部と南方司令部の両方からとか」

「軍は金があるんだろ。それに急ぎだったから余計にな」

「う~ん……」


 耳長人は納得がいかない様子だった。


「とにかく、さっさと移送完了して帰ろうぜ?酒も飲みたいし」


 剣使いと槍使いは縛り上げた4人を立たせ、外に連れ出した。


「ここはこのままでよいのでしょうか?」


 魔法使いの竜鱗人が施設を見ながら言う。


「特に指示はされてないからな。目ぼしい書類は集めたんだし、あとはどうでもいいんじゃないか?」

「うむ……。邪法の研究施設、完全に破壊したい所ですが、移送の方が急務であるため、やむを得まい……」


 そうやって、6人の冒険者は4人の重要参考人を連れて村を後にした。

 東方司令部までは、荷馬車で片道3日の道のり。

 御者は剣使いと魔法使いの2人の3人が交代で担当する。

 捕らえられた4人は驚く程大人しく、冒険者達のいう事を聞いた。

 そのお陰で、移送には特に問題がない様に思えた。


「なんか、妙に従順過ぎないか?コイツ等って一応犯罪者なんだろ?」


 移送の2日目、御者を務める竜鱗人の隣に狼狗人が座って言った。


「依頼の詳細には彼等が何者なのか記入されておりませんでした。私にもよく分かりません」

「お前、書類見たんだろ?何が書いてあった?」

「うむ、要約しますと、屍喰鬼グールを増やす研究をしていたようですな」

「屍喰鬼の量産……」

「ある程度しか読んでいませんが、何とも邪悪な研究です」

「しっかし、屍喰鬼なんて量産して何になるんだ?」

「屍喰鬼は戦闘においては優秀な種族です。強靭な身体と高い身体能力に、何よりその知性の高さ。数が揃うのならば、強力な軍隊になり得ます」

「……、魔王軍の仕業か?」

「いえ、書類には『西都物流商事』と書かれていました」

「なんだ、それ?」

「王国西部の大きな企業ですよ。まさかこんな研究をさせていたなんて……」

「でもよぉ、なんでそんな会社何かが屍喰鬼の量産の研究なんかしてるんだ?」

「それが分かれば苦労しませんよ……」

「なぁ……」


 2人の後方から声がする。

 盗賊の圃矮人が顔を出していた。


「どうした?休憩はまだ先だぞ」

「いや……、なんかさ……」


 何とも歯切れの悪い言い方だ。

 気になる事があるらしい。


「なんだよ?」

「嫌な感じがする。いつでも戦える様にしといた方がいい……」


 そう言って、狼狗人と竜鱗人の武器を手渡してきた。


「お前がそう言うならそうなんだろうな」

「ええ、確かに良くない気の流れを感じます。一度止まりましょう」

「そうだな。参考人の4人は荷台に残して、全員降りろ」


 冒険者達は荷馬車を囲む様に立ち、戦闘態勢に入る。


「来るよ……。数は分からないけど、それなりの手練れ」

「狙いは参考人達か?」

「この状況なら、そう考えるのが妥当でしょうね」

「面白い、来るなら来いよ暗殺者アサシン!」

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