第24話 師弟と兄弟弟子

 汚れ仕事だ。

 まぁ、この部隊はそれ専門に作っているから仕方ない。

 九龍会における汚れ仕事専門の部隊・インは、先代が作り上げた特殊部隊だ。

 王国軍の特殊部隊よりも質がいい自信がある。

 俺が育てた人数は既に500を超える。

 苛烈な任務が多い為、消耗も激しい。

 常に予備を合わせて300は動かせるようにしている。

 今回は主力の100で充分だろう。

 2~5人に班を分け、王国全土の散らせた。

 その他の100は、いつも通り情報収集。

 残り100は予備にしている。


「良いな、全員を消すんだ。1人も残すな」

「既に通達している。問題はない」

「頭の切れる軍人が数名いるようだ。それも消すように蒼狼ツァンラン様から言いつけられている」

「……、人数は?」

「2人。南方司令部のリオリート・クロフォード大尉、東方司令部のサリィン・ローノー少尉」

「別動を出す。念のため5人ずつで当たらせるか」

「失敗するなよ」

「失敗など有り得ない。殺すまで送り続けるだけだ」

「その辺りは任せる」


 フィアットは消えていった。

 しかし、1人に5人も送るのはやり過ぎな気もするが、まぁいいか。

 予備人員から10人を選抜して当たらせる事にした。

 予備人員はその名の通り予備だ。

 実戦経験が無いに等しい者達で、主力に欠員が出た場合の補充が目的。

 しかし、実戦経験がなくとも暗殺くらい軽くこなせる筈だ。

 目標は暗殺などに無頓着な軍人だ。

 問題なく終わるだろう。

 隠には様々な種族を採用している。

 隠密行動などに特化しているのは確かに圃矮人ハーフリングだが、時と場合によってはその他の種族が適任である事もある。

 なので、耳長人エルフ人間ヒュームと言った8種族に加え、矮鬼ゴブリン狗鬼コボルドと言った暗黒種族もいる。

 少なからず魔王軍とも取引のある組織にとって、こういった暗黒種族のメンバーも重要なのだ。

 とは言っても、知能の低い種族を隠のメンバーに育てるのは非常に面倒である。

 100以上を同時に育成し、その中でものになるのは1匹いればいい方だ。

 その1匹を育てる為に何千という奴等をした。

 まぁ、そんな事はどうでもいい。

 今の所、俺が率いる隠は蒼狼側についているが、今回の軍人の暗殺依頼は今まで通りでは行かなくなってきている証拠の様な気がしてならない。

 蒼狼は2代目の遺志を継ぐファンを中心とした一派の一掃を考えている。

 組織全体の掌握に乗り出した訳だ。

 それはどうでも良いのだが、それを急くあまり、少々力づくの点が出てきている。

 こういう時は足元をすくわれるモンだ。

 見切りを付けるなら早い方がいい。

 隠のメンバーは自分の意思など持たない。

 俺の指示に従い、行動するだけだ、そのように育てた。

 俺自身が寝返れば、それは隠全体が寝返る事を意味する。

 それを蒼狼側が理解しているのかは分からないが。


「師が作り上げたこの隠は、九龍会の裏社会での力を支えている。俺が寝返れば勝敗に関わって来るぞ、蒼狼。分かってるか?」


 予備人員を増強した方がいいかもしれない。

 俺は棚に飾った酒瓶を1つ取り出した。



 私はフェイ様の街へ急いでいた。

 この情報は急を要する。

 本来であれば、一度吠様に報告した後、吠様を通じて伝えてもらうのが道理なのだろうが、そんな悠長な暇はない。

 一刻を争う。

 遅れれば何の意味もなさないのだ。


「サリィン様の命が狙われている……!」


 蒼狼が今回の件の首謀者と思われている軍人2名を暗殺する為に隠を放ったらしい。

 南方司令部のリオリートという軍人に関しては何も知らないが、サリィン様に関しては吠様のお仲間だ。

 吠様と東方司令部の大切なパイプ役なのだ、失う訳にはいかない。

 それに、軍の通信網を使えば、リオリートという御仁にも連絡が間に合う可能性も、微々たるものだろうがまだある筈だ。

 馬を潰す覚悟で、私は走っていた。

 隠という組織は、私に諜報のイロハを教えてくれた方が作った部隊だ。

 師としては非常に厳しい方ではあったが、そのお陰で今は何とか隠にすら気取られる事なく活動出来ている。

 私と違って、隠は組織として機能している。

 情報収集力も私1人とでは比べようもない。

 しかし、組織的に大きく網を張っている隠に対して、私は1人だからこそ、その網を抜ける事が出来る。

 私1人だからこそ、間者の入る余地をなくし、こちらの情報漏洩を防ぐ事が出来ているのだ。


「黄様はそれを見越して、私1人にお任せ下さっている」


 私がやらなくてはならないのだ。

 圧倒的劣勢である黄様を中心とした派閥を守るには、私が隠を翻弄しなくては。

 隠を指揮するルインという男は、私の兄弟子だ。

 諜報に関する個人の技量としては、私の方が高かったが、諜報組織の運用に関してはルインの方が圧倒的に上だった。

 だからこそ、師は隠の組織を奴に託したのだ。

 負ける訳にはいかない。

 まずはサリィン様を守り、あわよくばリオリート殿も。

 私はとにかく馬を走らせた。

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