第23話 地下

 地下室の更に奥は、した屍喰鬼グールの保管庫になっていた。

 檻の中に押し込まれた屍喰鬼達は、何処か目が虚ろで、コイツ等の方が死体じゃないかと思う程だった。


「此奴等、生きとるんか?」

「動いてるから生きてるだろ。まぁ、元気がないな」

「例の村におった奴等とは大違いだのぉ……」

「研究者が違うと、こうも変わるもんなのか?」

「屍喰鬼の養殖などした事ないからの、知らんわい」


 檻の前を歩きながら屍喰鬼達を眺める。

 呼吸はしているので死んではいないが、何というか、魂が抜けた様なその姿は異様としか言えない。


「コフィ、どう思う?」

「どうって……。これでは兵隊どころか、土嚢どのう程度にかなりません……」

「ハッキリ言って、失敗作達だな……。つまり、コイツ等に比べてだった奴等は既に移送された」

「まぁ、撤収作業中だったからのぉ。は捨てて行く予定だったのだろう」

「はぁ……、ね……」


 急にコイツ等が哀れに思えてきた。

 実験を通して無理矢理増やされ、勝手にとレッテルを貼られ消される。

 どんな命も尊重されるべきだなど、綺麗事を言うつもりはないが、これはあまりに身勝手が過ぎる。

 裏を返せば、何とも蒼狼ツァンランらしいと言える。


「不愉快だな。さっさと片付けるぞ」

「あとは、あの5人の身柄を移送して終わりだの」

「いや、むしろここからが問題だ」

「ここから?」


 グローとコフィーヌが同時に俺の方を見た。

 易々と帰れると思っていたらしい。


「あのなぁ……。今回の作戦で捕らえられる人数は桁が違う。ソイツ等を全員、西方司令部で抑えるなんて無理だ」

「確かに。そこまでやってしまったら、司令長官の進退に関わる事態になります」

「だったら、グローならどうする?」

「……、そういう事か」


 グローが頷く。

 コフィーヌも俺の言わんとするところを理解したらしい。


「そういう事だ」

「しかし、そこまでやるのか?九龍会は」

「九龍会じゃない、蒼狼だ。アイツなら独断でやる、必ず」

「ガルが言い切るのならそうなのだろうの。だが、ワシ等は良いにしても、他の隊には何の通達もしておらんのではないか?」

「サリィンに直接伝えるべきだったが、何か会えなかったからな……。まぁ、エルウィンもいる。どうにかして通達するだろう」


 半分は期待だが、あの2人ならという確信もある。

 それに、今回の目的は蒼狼に一発くれてやる事が主目標だ。

 捕まえた奴等からの情報など役に立つかどうかなどは二の次三の次。


「とりあえず、警戒しながら帰るぞ」

「此奴等はどうする?」

「……、施設ごと燃やす」


 俺達は地下室に油を撒き、火を点けてその村を後にした。



インを放ちました。これで問題ないかと」


 フィアットが報告に来ていた。

 囚われた施設関係者の処理の為だ。

 有能な者は奪還、それ以外は殺害を命じている。

 そして、それ以上に重要な事がある。


「して、今回の首謀者は誰か分かったか?」


 この様なふざけた大規模作戦を発案した者を消す。

 嫌な予感があるのだ。

 こいつを放っておけば、後々の障害になる気がしてならない。


大凡おおよそ

「名は?」

「南方司令部所属、リオリート・クロフォード大尉、東方司令部所属、サリィン・ローノー少尉。この2名です。ギルドへ協力要請をしたのはサリィン。恐らく発案は此奴でしょう」

「前回の件が相当頭に来たのだろう」

「リオリートは魔王軍との戦争中に前線にも配備された経験を持つ軍人。対してサリィンは戦後配属ですが、この数ヶ月で異例の特進をしております。何でも、魔王軍残党狩りで武功を上げているらしく、頭がキレるようで」

「うむ……。まぁいい、ソイツ等も消せ。これだけの事をしでかす連中だ。このままでは邪魔になりかねん」

「それに関してもぬかりありませぬ。隠にお任せを」


 そう言ってフィアットは退出した。

 私の邪魔をする者は誰であろうと消す。

 西部に手を出せば消されると、その命をもって広告塔になってもらう。

 私は葉巻に火を点けた。

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