第22話 似た者同士
「最悪の場合も想定しておかないと……」
サリィンはそう言って、南方司令部へある懸念を連絡していた。
それはギルドを通じて、現場に出てくれている冒険者へも伝える様にベルベットへも頼んでいるらしい。
必ずそうなる訳ではないが、相手はヤクザだ。
どんな手段を使ってきてもおかしくない。
「リオリート殿は戦場も知っている頼れる御仁だ。問題は冒険者の方々だな……」
「何をブツブツ言ってるのよ、サリィン?」
私はサリィンの顔を覗き込む。
サリィンはビクリとした。
「エルウィン殿……、脅かさないで下さい……」
「何度も呼んでたんだけど?聞こえてなかったみたいだから」
例の作戦の為、街の支部にはサリィンと数人の文官だけが残っていた。
今回限りの特別許可で、私やスゥは支部への出入りが自由にできる。
私はサリィン隣の席に勝手に座った。
「最悪の場合って?」
「今回の作戦で、九龍会の構成員を数多く捕縛出来る筈です」
「そうでしょうね」
「問題は、その重要参考人達を九龍会が放っておく訳がないって事です」
「そりゃ、余計な事を喋られたら困るでしょうからね」
「それを阻止する方法は限られています」
「この間みたいに、強制的に身柄を西方司令部に引き渡させるって事?」
「しかし、今回の場合は人数が多過ぎる」
「そうね。それを狙った作戦でしょ?」
「えぇ、ですが、捕まえたからと言って安心は出来ません」
既に私にも察しがついている。
サリィンが懸念してる事。
「捕まえた奴らが、九龍会から消されるって事でしょ?」
「……、その通りです」
相手はヤクザだ、そのくらいは簡単にやるだろう。
ガルが言うには、九龍会には諜報だけでなく、暗殺も得意とする部隊があるらしい。
恐らく、スゥもそこの部隊員だった可能性があるとも言っていた。
今はスゥの事は置いておくとして、そのような部隊を持っている場合、組織への不利益をもたらす可能性がある者を暗殺するという事は至極当たり前だろう。
「大人数を西方司令部を使って正式に引き渡させる事は不可能です。軍内部での反発は前回以上になりますし、西方司令部の上層の総入れ替えの可能性も出てきますから」
「折角作り上げたコネが水の泡」
「であれば、消した方が早い」
「使えると判断された人材以外は暗殺されるって事ね」
話をしていると、文官の1人がコッフェを運んできてくれた。
砂糖を多めに入れ、一口飲む。
「むしろ今回の場合、どの施設も撤収作業中の可能性が高い。そうなれば、今回の作戦で捕まえた者達全員が代えの効く人材の可能性が高い」
「捕縛した全員が殺される可能……」
サリィンはゆっくりと頷き、コッフェに口を付けた。
サリィンの言う通りだわ。
最速で今回の準備をして強行したけど、それでも前回から多少時間が経っている。
研究者などの使える人材は既に回収済みと考えるのが自然でしょう。
「連行している重要参考人達の殺害を目的とした襲撃に備えろとは通達していますが、下手をすればこちら側にも被害が……」
ガルもその事は警戒していたのだろう。
なんたって、九龍会はガルの古巣。
そのやり方となると、私やサリィンよりも詳しい筈。
だからこそ、実際に現場へ赴くメンバーは軍も冒険者も手練れだけの精鋭に絞った。
「まぁ、軍とギルドの選抜チームみたいなモンだから。心配し過ぎかもよ、サリィン」
「だといいのですが……」
サリィンは真面目だなと、私はコッフェを啜りながら思った。
些細な事にも気が付くし、臨機応変に対応する能力も高い。
ただ、少し心配症なところがある。
慎重な事は決して悪い事ではないが、たまに慎重過ぎる。
魔王軍との戦争の真っ只中だったら、そこも矯正されるのだろうけど、今の時代はそうではない。
魔王が倒れ、王国軍は軍縮へ舵を取り始めている現状、これくらい慎重な方が不祥事を起こさないからいいのかもしれない。
「不祥事か……」
「はい?」
そう言えば、あの事をサリィンに問い詰める必要があった。
「ねぇ、サリィン?」
「何でしょう?」
「セリファと寝たでしょ?」
コッフェに口を付けていたサリィンは、盛大に噴き出した。
「ちょっと!何やってるの!」
「すみません!」
飛沫となって飛び散ったコッフェを2人で拭き取る。
まさかこんな反応をするとは思わなかった、正直面白い。
「もー、自分の
「すみません……、いやいや!エルウィン殿が変な事聞くからですよ!」
「でも、その反応から見るに、ホントみたいね」
「……」
サリィンはバツが悪そうにしているが、その顔は尖った耳の先まで赤く染まっていた。
「切っ掛けは?前からセリファの事気になってたの?」
「……、取り調べですか……?」
「気になるじゃない?」
私はニッコリと笑った。
ここ数日、セリファの様子もおかしかった。
大将のお店で仕事をしていても、何処か上の空の様な……。
それに加えて、サリィンがガルを避けている事の方があまりにもあからさまで、これは何かあったと誰もが気付きそうなものなんだけど。
「他の人には気付かれてないの?」
「え?」
「だって、最近明らかに2人ともおかしいじゃない?それなのに、みんな気付かないとか嘘でしょ?」
「いや……、気付いているのかは知りませんが、誰からも何も言われてないので……」
「うむ……」
要は、誰も他人の事など見ていないという事なのか。
まぁ、私が気付いてしまったのだから、根掘り葉掘り聞き出す以外、私に選択肢はないのだけれど。
「で、2人は付き合ってるの?」
「単刀直入過ぎませんか?」
「回りくどくても時間の無駄でしょ?」
「まぁ……、付き合っている訳ではないのです……」
「あら、って事は
「あの時は私も酔っ払っていて、正直よく覚えてないんです……」
「セリファの事が好きな事には変わりないんでしょ?」
「……、はい」
「ならいいんじゃない?」
「え?」
「セリファの様子を見ても、まんざらでもないみたいだし、脈が完全にないって訳じゃなさそうよ?」
「本当ですか……?」
「まぁ、ガルを私が取っちゃったから、私もセリファには顔向け出来ないけど……」
「セリファさんとギクシャクしてるのはそれが原因ですか?」
「セリファは今まで通り接してくれるけど、私としてはね……、何というか、後ろめたいというか……」
言葉に詰まり気味の私を見て、サリィンがフフっと笑った。
「何よ?」
「いえ、エルウィン殿も似た状況なんだなと」
「とにかく!私はサリィンを応援するかね!」
「私とセリファさんが上手くいけば、エルウィン殿にもメリットがありますからね……」
「嫌な言い方するじゃない?私達は同族でしょ?」
「辞めてくださいよ、その言い方……。それに私は略奪なんてしてません」
「私だって略奪じゃないわよ!」
「略奪ってなーに?」
スゥが私とサリィンの間に顔を出した。
「……、何でもないわ。暇そうなサリィンに付き合ってただけ」
「私は暇ではありませんよ!?」
私はスゥを連れて支部を後にした。
おふざけは程々にして、サリィンが最初に言っていた通り、最悪の想定はしておかないといけない。
ガル達に限って、ぬかりがあるとは思えないけど、何か起きた時の為には準備をしておく必要はある。
私は自宅へ戻り、スゥと一緒に装備の手入れをする事にした。
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