第21話 会心の一撃

会長ボス!大変だ!」


 部下の1人がノックもせずに入ってきた。

 俺は舌打ちをしながら寝台ベッドから起き上がる。

 それに気が付いたのか、両脇にいた女達も目を擦りながら上体を起こした。


「なんだ、騒がしい……」


 俺は腰にタオルを巻きながら、息を切らしたままの部下を睨んだ。


「それが、撤収作業中の施設が軍の立入調査ガサ入れにあってるんス!」

「あ?何処の施設だ?」

「西部以外の殆どがやられてるって話で!」

「何!?」


 西だと!?


「どういう事だ!?」

「それがまだよく分かってないんスが、どうも南方司令部と東方司令部がギルドに協力を依頼して、西部以外の施設へ同時刻に強制捜査に入ったとか!」


 何という事だ。

 想定外にも程がある。

 恐らくは、2を西方司令部が無理矢理に分捕った事への腹癒せだろう。

 しかし、だとしても展開が早過ぎる。

 に関しては西方、南方、東方が絡むややこしい事案となり、その3つの方面司令部による睨み合いで、事が進まない筈だった。

 それが、南方と東方が結託し、共同作戦でギルドすらも巻き込んで調査に乗り出すなど、有り得ない。


「いくつやられた!?」

「それが、まだ正確な数が分かってなくて……」

「フィアットを呼べ!」

「へい!」


 部下はバタバタと部屋を出て行った。

 先の件で、西方司令部が出しゃばったのが相当気に入らなかったのか、悪手だったのかもしれない。

 しかし、今から悔やんでも仕方がない。

 とにかく、どれだけの部下が捕まっているのか、奪われた情報等の精査もしなくてはならない。


「はぁ……」


 部下の言い方から考えるに、恐らくはほぼ全ての施設が抑えられたと考えた方がいいだろう。

 何人が捕まったのかも分からない。

 順調にいくと思っていたが、甘かったらしい。

 この期に及んで、何故こんなにもうまくいかないのか……。

 頭を抱えるしかなかった。


蒼狼ツァンラン様」

「フィアットか、入れ」

「失礼します」


 フィアットが部屋へ入って来る。


「現段階で分かっている被害は?」

「少なくとも8つの施設は抑えられました。状況から見るに、被害報告が出ていない他の施設も、報告が遅れているだけでやられているでしょう」

「こんな事になるとは……」

「捕まった者の数は100近くになるでしょう」


 そこだ。

 下手な事を喋られる前に引き取らなくてはならないが、そうなるとまたもやアーネストに借りが出来てしまう。

 その上、これ以上西方司令部を使えばアーネストの左遷などの可能性も出てくるのだ。

 アーネストは、折角手に入れた重要な駒なのだ。

 左遷などされたら困る。

 かと言って放置すれば、捕まった者が余計な事を喋るかもしれない。


「クソ……、100人もの身柄の引渡しなど有り得ん……」

「蒼狼様、私に考えが……」


 フィアットはそう言って、俺に耳打ちしてきたのだった。



「おっと、お前等動くな」


 俺は抜刀し、地下室にいた6人に言った。

 人間ヒュームが1人、黒醜人オークが2人、圃矮人ハーフリングが3人だった。

 見た目からして、圃矮人の3人が研究・技術者、他は護衛の様なものだろう。

 ピンと空気が張り詰める。

 護衛の3人がゆっくりと武器エモノに手を掛ける。


「お?やる気だのぉ」


 後から階段を降りてきたグローが不敵な笑みを浮かべながら双斧ツインアクスを手にした。

 人間が剣を抜きながらテーブルを飛び越え襲い掛かる。

 顔面を目掛け突き出された剣先を避け、その剣を握り締めている手を掴みながら相手の身体を巻き込み、羽交い締めした。


「動くなって言ったろ?」


 それなりの手練れなのだろうが、俺やグローの相手ではない。

 奥へ逃げようとした圃矮人達の行く手をグローが塞ぐ。

 そう言う時のグローの動きは無駄がなく素早い。


「逃げられんぞ」


 そう言うと、グローへ黒醜人達が同時に襲い掛かった。

 しかし、あっさりと攻撃を捌き、相手の武器を双斧で破壊した。


「無駄だと言うに……。大人しくお縄につかんか」

「クソ……!」

「我々にこんな事をして、タダで済むと思うなよ!」

「吠えるな。タダで済まんのはお主達の方だわい。すぐに西へ帰れると思っておるのだろうが、無理だ」

「何?」

「捕まってるのはお前達だけじゃない。他の施設の奴も今頃捕まってる。さて、全部で何人になるんだろうな?」


 俺はそう言いながら、羽交い締めにしている人間を後ろ手に縛った。


「他の……施設もだと……?」

「これは東方司令部と南方司令部、それに冒険者ギルドが共同で行っている大規模作戦だ。最低でも100人くらいは捕まえたい所だ」

「100人!?」

「安心しろ、この場で殺したりはしない。お前等は重要参考人だからな」


 それだけの人数を一気に拘束すれば、西方司令部からの身柄引渡しの命令もすぐには来ない。

 コイツ等が施設や組織に関して喋るとは思わないが、前回の件で既に西方司令部へ貸しを作っている蒼狼にとっては更なる痛手だ。

 しばらくは派手に動けなくなる筈である。


「まぁ、護送ものんびりと行くからのぉ。元気は残しておけよ、お主等」


 グローはガハハと笑う。

 さて蒼狼、お前はどう出る?

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