東方・南方司令部共同・該当地域強制調査編

第17話 殴る準備

 蒼狼ツァンランの鼻を明かす。

 今回の内部抗争での勝利を既に確信していると思われるアイツの顔を目掛け、重めのジャブをお見舞いしてやる。

 その為の準備をしっかり進めていた。


「西方司令部に2を奪われたお陰で、東方も南方も憤慨している。これを利用する」


 俺とグローは軍の支部へ向かっていた。

 サリィンを通じて東方と南方の司令部へ働きかける為だ。

 可能であるならば、北方も巻き込みたいところだが……。


「フィロー商会が特定した村へ、同時刻で立入調査ガサ入れするのか、面白いのぉ」

「だろ?前回、俺達が施設を潰したお陰で、西方以外の施設は閉める可能性が高い。撤退する前を叩く必要がある」


 俺達はカウンターでサリィンを呼び出してもらうのだが、出てきたのはサリィンではなくコフィーヌだった。


「サリィンは不在なのか?」

「いえ、いるんですが、手が離せないとか何とかで……」

「まぁ、縄張り争いで振り回されたからな。代わりと言っては何だが、コフィ聞いてくれ」


 そう言って俺は今回の立入調査についての概要を離す。

 話を聞くコフィーヌの目がキラキラとし始めた。

 西方司令部からの介入で苦汁をなめた1人であるコフィーヌにとっても、この案は魅力的に映るだろう。


「やりましょう!早速、上に掛け合ってみます!」

「出来れば北方も巻き込みたいんだが……」

「う~ん、それはどうでしょうね……」


 コフィーヌが難色を示した。

 何か懸念があるのだろうか。


「どうした?」

「いえ、この件に関しては東方と南方だけにした方がいい気がして……」

「……、情報漏洩の懸念か」

「はい……。前回の件に関わった東方と南方の担当部署ならばその心配はありませんが、他はあまり信用しない方がいいかもしれません」

「確かにな。下手に手を広げ過ぎると向こうも勘付きやすくなる」

「ならば、北方ではギルドに立入調査を手伝ってもらうのはどうかのぉ」


 グローが髭を撫でながら言う。

 たまには役に立つじゃないか、この鉱矮人ドワーフ


「それがいい!軍とのパイプはあるだろうが、ギルドとのパイプはない筈だ!」

「では、北方に関してはガル殿にお任せします。東方と南方に関しては軍で」

「許可が下りたらすぐに連絡してくれ。早くしないと、施設を引き払う可能性が高い」

「承知しました」


 俺達は軍の支部を出て、その足でギルドへ向かった。


「サリィン少尉、ガル殿とグロー殿はお帰りになりましたよ」


 コフィーヌは机に突っ伏せっているサリィンに話し掛けた。


「うむ、どんな話だった……?」


 サリィンは顔も上げずに力なく返答する。


「はぁ……。一矢報いる作戦を実行したいとの事です」


 そう言ってコフィーヌは先程の提案の概要を話した。


「うむ、いいんじゃないか……?今回の作戦責任者はコフィがやってくれ……」

「私ですか!?」

「うむ……、まずは司令長官への許可を取れ。その後は南方司令部への連絡……。頼んだぞ?」

「……、了解しました」


 コフィーヌは不服そうにその場を去る。

 サリィンはガルに会いたくないのだ。

 理由は簡単。


「セリファ殿とになるとは……」


 サリィンは頭を抱えながら溜息を吐いた。



「お2人からの依頼という事でしたら、喜んでお引き受けいたします」


 俺とグローはベルベットに直談判した。

 協力して欲しいと言った時は難色を示したが、依頼という形であるならば大丈夫だそうだ。

 その代わり、依頼の手数料はキッチリ取られる。

 この女、侮れん……。


「それと、緊急依頼であり、極秘依頼扱いで頼む。依頼掲示板ボードへの掲示は無しで、ギルドが信用できる冒険者だけを参加させてくれ」

「注文の多い依頼ですわね……。それに関しては問題ありませんが、その分、手数料は割増ですよ?」

「分かってる、とにかく急ぎだ。それと、この依頼に関わる人間を極力少なくしてくれ。出来れば、参加した冒険者だけではなく、この依頼を目にした受付嬢から本部の事務方まで、誰が関わったか控えておいてくれ。、その名簿リストを買い取らせてもらう」

「……、ギルドの信用に関わる事です、にはならないと確信していますが、念のために名簿は作成しておきます」

「決行日時は追って連絡する。まずは北方のギルドへの通達と担当する冒険者の確保を頼む」

「承知致しましたわ」


 気前よく言ったが、手数料はいくらかかるのだろうか……。

 俺が貯めている金はそれなりにあるが、それなりに規模の大きい依頼になってしまった。

 足りない場合はピュート辺りから金を借りるか……。

 確か、フィロー商会は金貸し業もやっていた筈だ。


「そんなに奮発して大丈夫なのか?ガル」


 家に帰る道すがら、グローが訊ねてきた。


「まぁ、何とかなる。何が何でも一発殴ってやる」

「執念と言うか、なんと言うか……」

「なんだよ?」

「お主がそんなにも感情的になるのも珍しいと思っての」

「そうか?」


 自分ではよく分からない。

 しかし、グローが言うのだから間違いないのだろう。

 とにかく、全ての準備は整いつつある。

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