第18話 それぞれの判断

「この件に関して、我々からの介入はなしの方向、という事でしょうか?」


 俺は例の訓練所跡にパオを呼び出し、2人きりで話をしていた。


「そうだ。シナリオとしては、西方司令部に重要参考人を横取りされた東方と南方が、腹いせにギルドを巻き込んで怪しい村を強制調査するってものだ。お前らが関わると逆にややこしくなる」

「……、確かにそうですね」


 豹は頭がいい。

 ファンよりも目端が効くし、何より感情的に物事を判断する事がない。

 大きな組織をまとめる程の力はないが、参謀としてはかなり優秀だ。


「俺達が連携している事をまだ勘付かれる訳にはいかない。出来るだけゆっくりと、気付かれないように手を回すんだ」

「御意に。我々は兵力増強に専念します」

「そうしてくれ。お前らの兵力が上がれば、蒼狼ツァンランの注意はお前らに向けられる。西方司令部を抑えてる限り、蒼狼はこちら側を気にしないだろう」

「そう願います。では」


 豹は森へと消えていった。


「ガル、おるかー?」


 入れ違う様にグローがやってきた。


「何だ?」

「コフィが呼んでおるぞ。決行日時に折り合いがついたらしい」

「分かった。グロー、俺と一緒に北部へ向かうぞ」

「そうなると思ってな、準備は出来ておる」

「流石だ。すぐに出発するぞ」

「しかし、エルウィンとスゥはどうする?」


 やはり、問題は2人だろう。

 突然の強制調査だが、撤退準備を始めている可能性もあり、組織の人間と鉢合わせする事も十分考えられる。

 念のために留守番させた方がいいだろう。

 それに、何かあった時にはエルウィンとサリィンで相談してもらう事にしよう。


「置いていく。エルウィンはサリィンの補佐として、いざと言う時にギルドと商会の連絡役にもなる」

「それが良いだろうの。になる可能性もある」

「理解が早くて助かる、グロー」

「とにかく、北部へ向かう前に一度、軍とギルドと商会には顔を出さんとな」

「協力してくれる奴が多くて助かるな」


 俺達はまず、軍の支部へと向かった。



 フェイ様の指示を受け、私は黄様の元へと急いで戻った。

 黄様は比較的落ち着いていらっしゃるが、部下たちの我慢が限界に近い。

 このままでは自制なく勝手な行動に出始めてもおかしくない。


「黄様、よろしいでしょうか」


 私は、通常ならば3日掛かる道のりを、様々な手段を使って1日半で走り切った。


「早かったな、豹」

「吠様からです。今回の件に関しては、手出し無用との事。ここで下手に連携すれば、あちら側に気取られる可能性が高いからとの事です」

「……、分かった」


 黄様は納得しきれないという表情だった。

 恐らく、部下たちの押さえ込みが限界に近いのだろう。

 ならば、その鬱憤を別の方向へ逃がしてやるしかない。


「黄様、ご提案があるのですが」

「何だ、言ってみろ」

「今回は不参加という事ですが、この間に兵隊の増強にあてましょう。あちら側の意識を、我々に向けさせるのです。そうすれば、吠様も動きやすくなる筈」

「……、それは分かっている。しかし、ラン殿の協力が得られた今、決戦をと言う部下たちが多過ぎる。これ以上の押さえ込みは厳しい……」


 それもそうだろう。

 こちらは既に10名以上が殺されている。

 蒼狼の諜報部である『イン』の活動が活発になっているのも事実。

 既に間者も複数入っているだろう。

 今回の件に関して知っているのは私と黄様のみ。

 情報漏洩の心配はないだろうが、それだけでは不十分だ。

 今、蒼狼に吠様の存在を勘付かれる訳にはいかない。

 吠様が戻られる気になるまで、無関係を装う必要がある。

 その為にも、兵力の増強を表立ってやる必要があるのだ。

 まだ事を構えるには状況が悪い上に、散発的な反抗など各個鎮圧され、こちらの分が悪くなる一方だ。


「何とか押さえ込んで下さい、黄様。ここは我慢時です」

「分かっている……。しかし、私の持っているルートのいくつが喰われている。それもあって、部下たちの我慢も限界に近い」

「どうにかしましょう。これ以降、失敗や勇み足は壊滅を意味します」


 黄様は顎に手を当て、少し考え後に一度頷いた。


「……、豹、手伝え。燃殿との連携を全体に通達する。その上で、増強に専念するように命令を出す」

「御意に」

「これが多少のガス抜きになれば良いのだが……」


 問題は山積している。

 しかし、1つずつ着実にやらなければ、今までの積み重ね全てが無駄になる。

 私と黄様は部屋を出た。

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