第15話 処遇は保留してやる
研究者2人が西都へ戻ってきた。
すぐに私の前に連れてくるようにフィアットには言いつけてある。
そろそろ来る頃だろうか。
そう思っていると、扉をノックする音が聞こえた。
「
「うむ、入れ」
「失礼します」
フィアットが扉を開くと、それに続いて2名の
並んで俺の前に立たされた。
「挨拶しろ」
「俺はルーヴと言います。こっちの根暗そうなのがスペリオ。今回は我々を助けて頂いてありがとうございました!」
社交的そうな男、ルーヴはそう言って頭を下げた。
それに倣うように、挙動不審なスペリオも頭を下げる。
「まずは、今回この様な失態を犯した原因は何だ?」
既に原因についてはフィアットから説明を受けているが、この2人が正しく理解しているかみる為、あえてこの質問をする。
これで正確に答えられなければ、また同じ過ちを犯すだろう。
「予想以上に
ルーヴがスラスラと喋り出した。
「司令書通り、屍喰鬼の製造の効率化を探っていたところ、我々はその方法を見つけ出した次第です。倉庫から溢れてしまい、この様な事になってしまいました。申し訳ございません」
口では謝っているが、反省の色などルーヴには皆無だった。
恐らく、我々の期待以上の働きが出来たと自負しているのだろう。
それに比べ、スペリオはオドオドとするばかりだ。
「ふむ、その方法とは?」
「そもそも、屍喰鬼の繁殖力が低い原因は、胎児から5歳になるまでに死肉を摂取出来ないからです」
ルーヴが言うにはこうだ。
屍喰鬼の主食は死肉であり、それは幼児期も同じ。
しかし、幼児期の屍喰鬼には強靭な歯もなく、消化器官も発達途中の為、死肉を摂取出来ない。
その事により、幼児期に深刻な栄養不足に陥り、死んでしまうらしい。
また、胎児の時期にも死肉の摂取は必要のようで、母体の中にる通常の胎児に関しては、母が摂取した栄養を分けている為、死ぬ事はないとか。
今回、工業的な製造の研究の為に、保護液で満たした大型の試験官の中で屍喰鬼を育てている。
なので余計に生存率が低くなったらしいが、その保護液の中に死肉をすり潰したペーストを混ぜる事で、生存率が跳ね上がったという。
「ただ、死肉を混ぜる事で保護液を日に2~3回は交換しないと、すぐに腐ってしまうので、現在はそこが
ルーヴの長い説明の間、スペリオは何度も頷いていた。
「なる程、屍喰鬼はどんな状態であれ、死肉を食わらなければ生きられないという事か」
「はい。魔王との戦争が最盛期だった頃は、戦場に数多の屍喰鬼がいたと聞きます。戦争で毎日の様に生じる死体の山が、奴らにとっては宝の山です。裏を返せば、戦争が沈静化した今は、急激に数が減っていく傾向です」
「うむ」
屍喰鬼の大量生産がこんなにも早い段階で可能になるのは嬉しい誤算だ。
とはいえ、コイツ等はすぐにでも研究へ戻ってもらわなくては。
だが、今回の件の責任を取らせる必要もある。
少し悩んだ末、俺は2人を退出させた。
フィアットと話がしたい。
「フィアット、どちらが優秀だ?」
2人を退出させた時点で、俺が何を聞こうとしているのが分かるフィアット。
あらかじめその返答も考えてきていた。
「蒼狼様にはどちらが優秀に見えましたか?」
含みのある言い方をしやがる。
俺は正直に2人の印象を答えた。
「うむ、ルーヴが賢いのは分かった、話のまとめ方もうまい。門外漢の私にも分かりやすかった。スペリオに関しては、ルーヴの腰巾着にしか見えん」
「そうでしょう。しかし、今回の研究で
「なに?」
意外だった。
今の2人を見ただけでは、スペリオはルーヴの補佐にしか見えなかった。
「補佐はルーヴの方です。スペリオを大学の研究室から
「ほぉ、お前が引き抜く程、スペリオは優秀なのか」
「優秀と言うよりも、異常です、狂っている。いわゆる
「虫も殺せぬ様な顔をしているのにか」
「はい。現に、村人を全てすり潰して餌にしてしまった。お陰で我々の目標はすぐにでも達成できます」
「確かに、狂っているな」
「ルーヴはそんなスペリオを完璧にフォロー出来る唯一の人間です。他の者を補佐につけても、ペーストにされていたでしょう」
「ハハハ、気に入った。奴らが欲しがるものを全て与えろ。屍喰鬼以外の研究も回してやれ」
「御意に」
なかなか面白い人材を手に入れたな、フィアットの奴。
施設が1つ消えたのは正直痛い。
南方司令部からの
しかし、組織を完全に制御できるようになれば、後はどうにでもなる。
葉巻に火を点け、柔らかな椅子に体重を預けた。
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