第14話 手札を揃える

「わざわざ来てもらって悪いな、サリィン」


 俺とサリィンは、営業開始前の大将の店にいた。

 まだ大将しかいないこの店は、密会には適していると考えたからだ。


「いえ、私も今回の件でゴタゴタしていて、ちょうど息抜きをしたかった所です」

「まずは、軍での進捗を教えて欲しい」

「では……」


 サリィンはスラスラと話し始めた。

 まず、村の調査に関して。

 これは東方司令部と南方司令部で話し合いが行われ、現地調査は南方が行い、その現場指揮に東方司令部から1名派遣しているらしい。

 これにより、現場で分かった事は東方と南方で共有する事が決まった。

 そのお陰で情報に関しては問題がないとの事だ。


「ガル殿には報告書の複写をお渡ししますが、見終わったならば焼いてください。バレたら私の首が飛びます」

「分かっている」


 分かっているが、俺は横流しするつもりだ。

 サリィンには申し訳ないが、俺にも事情があるし、出来るだけ動きやすくしたい。

 情報とは武器の1つだ。

 それがなければ戦えないし、これは俺だけで戦っている訳ではないのだ。


「現場の調査報告に関してはガル殿に渡せるのですが……」

「研究者の調書か」

「はい……。これは流石に東方と南方で揉めていまして……」


 どうやら、どちらが聴取するかで揉めているらしい。

 現在、身柄は東方が抑えているが、それを渡すの渡さないので話し合いは紛糾中との事だ、現在進行形で。


「軍も大変だな……」

「はい……。魔王が倒されてからは、戦で功績を上げる事もなくなり、手柄の奪い合いが激しくなる一方で……」

「巻き込んじまったな、サリィン」

「いえいえ、お気になさらず。この件でなくても、いつも何処か別の方面司令部といがみ合っていますので」

「だとしても、心労が少ない方がいい。ややこしくしてしまって申し訳ない」

「謝らないで下さい、ガル殿。これも平和な証拠と思うようにしています」


 日の高い内から酒を飲む訳にもいかないので、大将にはコッフェを淹れてもらった。

 まだ熱いコッフェを一口飲む。


「フィロー商会に協力を取り付けた。西都物流商事を探ってくれるらしい」

「西都物流を!?危険ではありませんか!?」

「商会ならやる気満々だぞ。西都物流の販路を奪う絶好の機会だからな」

「商人の方々は逞しい限りで……」

「ハハハ、少し見習った方がいいかもな」


 それからしばらくはお互いの細かな情報交換をした。

 フィロー商会が炙り出しただけでも、他に14もの施設がある。

 これらをどうするかを考えなければならない。

 俺とサリィンが同時にコッフェを啜った時だった。

 激しい足音と共に、店の扉が開いた。


「少尉!」


 そこには息を切らせたコフィーヌが立っていた。


「どうした、コフィ?」

「研究者2名の身柄を奪われます!」

「何?南方との話がついたのか?」

「いえ!西方司令部です!」


 流石にサリィンは目を見開いた。


「どういう事だ!この件に関しては東方と南方の話、西方が出しゃばる理由がない!」

「西都物流商事から雇われてたからだろ?コフィーヌ」


 俺はゆっくりとコッフェの入ったカップをテーブルに置いた。


「はい……。雇い主である西都物流商事から保釈金が支払われたらしく、すぐに西方司令部へ引き渡すようにと……」

「まだ何も聞き出せていないのにか!?」

「はい……」


 サリィンは奥歯を噛み締めた。

 例の村からもそれらしい物証は出てこなかった様だ。

 罰するにしても、研究者の2人から聞き出す以外に手掛かりはなかった。

 それを奪われるのだ。

 憤って当然と言える。

 しかし、それも俺は予測済みだ。

 そこはもう仕方がない、一般人である俺が軍に干渉など出来ない。


「まぁ落ち着け、サリィン」

「……、ガル殿はこれも予想しておられたのですね?」

「あぁ、九龍会は西方司令部とはズブズブの関係だ。遅かれ早かれ、あの2人は西方に奪われ、そのままドロンだ」

「では、これ以上調べようがないと……?」


 サリィンは俺に睨む様な視線を送る。

 それに対して、俺はニッコリと笑って答えた。


「サリィン、格闘技ってのはから始まるモンだ」

「何の話ですか……?」

「ジャブってのは、の意味がある。そこでだ、頼みたい事があるんだ」

「頼みたい事?」


 俺はフィロー商会から貰った地図をサリィンとコフィーヌに見せた。


「この印の場所に、今回と同じ様な施設がある筈だ。そこを軍で調べてもらいたい」

「……、なる程。そこで相手の出方を見る訳ですね」

「そういう事だ。まずはジャブ。それでガードを上げさせて、ボディだ」

「その話はよく分かりませんが、ガル殿の頼み事は理解しました。今回の件で南方も協力してくれるかもしれません」

「それがいい。頼めるか?」

「はい、お任せください」

「それと、2人に会わせたいやつがいるんだ」


 俺のその言葉にサリィンとコフィーヌは目を見合わせた。


パオ出て来い」


 何処からともなく豹が現れた。


「コイツは豹。九龍会の諜報担当だ」

「は!?」


 2人は思わず身構えた。

 まぁ、その反応も仕方がない。

 俺は九龍会の現状を丁寧に説明した。


「つまり、九龍会の内部抗争が始まると……」

「はい、現会長である蒼狼ツァンランの独断で屍喰鬼グールを増やしています。これは内部抗争の為の兵隊です。我々、ファンの派閥は蒼狼と敵対しています。何としてでも、組織を昔の形に戻したいのです」

「……、確かに、昔の九龍会と現在の九龍会は全く異なっていると、ベテランの憲兵が言っていました」

「トップが変われば、方針が変わる。蒼狼のやろうとしていることは、王国の破滅に他ならない」


 俺と豹の言葉に、サリィンは少し考えた後、頷いた。


「分かりました、ガル殿のお知り合いという事ならば、貴方も信頼に値する人物であると確信します。私が流せる情報はガル殿へ全てお伝えします。それ以降の情報の伝達は我々は関知致しません」

「助かる、サリィン」


 これで、俺を中心に東方司令部、九龍会内部、フィロー商会の情報網が確立した。

 蒼狼の動きをかなり探れる筈だ。

 黄もかなり動きやすくなるだろう。

 さて、、蒼狼。

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