第13話 賞金稼ぎと商人

「わざわざお越し頂いて申し訳ありません」


 フィロー商会のカウンターでピュートが出迎えた。

 俺達4人はそのまま奥へ通される。

 何時ぞやと同じ応接室だ。

 中に入ると、見た事のない耳長人エルフ圃矮人ハーフリングが椅子に座っていた。


「いつもお世話になっております。私はフィロー商会代表取締役専務のプラーと申します」

わたくしはこのエリア統括をやっている、耳長人のカフカです」


 2人は立ち上がると丁寧に自己紹介をしてくれた。

 代表取締役専務とは、これまた重役のお出ましである。


「この街のギルドに所属するガルだ。こいつらは俺のパーティ、よろしく頼む」

「お噂は常々。ウチのピュートがいつもお世話になっております」


 プラーと名乗った圃矮人がニコリと笑う。

 あまり好きになれないタイプだと思った。

 自然な笑顔だが、目が笑っていない。

 こういう人種は扱いづらい奴が多い。

 出来れば関わらない方がいいタイプだろう。


「いやいや、世話になってるのはこっちの方だ。いつも助かってる」

「早速ではありますが、に関してです。まずはピュート、資料を」

「はい。皆様お座りください」


 促されて俺達は椅子に座った。

 ピュートは全員の前に数枚ずつ羊皮紙を並べた。


「これは?」


 そこにはよく分からないが、表の中に数字がびっちりと書き込まれていた。


「数か月前から、我々は独自で調べていたものです。対象は西都物流商事」


 笑顔を崩さないまま、プラーが喋る。


「やはり、怪しい動きがあったのか」

「はい、しかもかなり大々的な。西都物流商事が西方以外に荷物などを運ぶ事はありますが、あまりにも件数が増えた上に、1度の輸送量も増えていました」

「ふむ……、この数字だけじゃよく分からんな……」

「4枚目のご覧ください。我々なりに目星を付けたものです」


 4枚目は王国全体の地図だった。

 そこに赤いバツ印がいくつか書き込んである。

 その数は15。

 今回の村辺りにも1つあった。


「15……」

「我々が把握出来ているのはそれだけです。それ以外にもあるかもしれません。特に、西方は奴らのお膝元、データが少なく目星の付けようが……」


 確かに、王国の西側には印は入っていない。

 流石にそこまで調べ上げる事は不可能だろう。

 だが、これはかなりいい情報だ。


「いや、これはかなり助かる。この地図、売ってくれるか?」

「いえいえ、差し上げます」

「え?」


 意外な答えだった。

 フィロー商会の常務ともあろう者が、情報の価値を理解していないとは思えない。


「その代わりと言っては何ですが……」


 やはりか。

 無料タダで貰える訳がない。


「西都物流商事を潰して頂けますか?必ず」

「はぁ?」

「簡単な話です。西都物流商事がなくなれば、我々フィローの販路も西に広げられます。それだけで、どれ程の利益が上がるか分かりません。我々としては、喉から手が出る程欲しいのですよ、西の経済市場が」

「なる程、そこはピュートが言ってた奴か……」

「勿論、その為ならば我々は協力を惜しみません」

「……、ならば頼みたい事があるんだが」


 俺のその言葉に、プラーの顔から笑顔が消えた。

 こっちがだろう。

 この顔付は知っている、敵に回すと厄介な切れ者の顔だ。


「頼みたい事とは?」

「可能な限り西都物流商事の動向を調べ上げ、俺に逐次報告して欲しい。分かっているかもしれんが、俺が狙ってるのは西都物流商事じゃない。その後ろだ」

「九龍会ですね」

「そうだ。ハッキリ言って、そこまで踏み込めば、アンタらのフィロー商会は九龍会から攻撃を受ける可能性が出てくる。それを承知の上で、協力してもらえるか……?」


 プラーは俺の目を真っ直ぐに見つめたまま、押し黙った。

 ここでフィロー商会の協力が得られなければ、軍に頼むしかなくなるのだが、縄張り争いのある軍ではあまり期待出来ない。

 断らないでくれと祈っていると、プラーは大笑いし始めた。


「!?」

「ピュートの言う通りですな!」

「どういう事だ?」

「いやいや、失礼しました。ガル殿、ご安心ください。もとより、我々は西都物流商事と戦争するつもりですよ」

「な!?」

「九龍会のフロント企業だという事も承知の上です。まぁ、戦争と言っても商戦なんですけどね。タマの取り合いはやるつもりではありませんが、必要とあらば仕方ないとも思っています」

「アンタら、九龍会に殺されるぞ!」

「九龍会も一枚岩ではありませんし、ガル殿は九龍会を潰すおつもりでしょう?ならば、必ず隙が出来る。フロント企業の販路戦争にまで人員は割けませんよ」


 そう言ってプラーが笑う。

 今度は本気で笑っている様だ。

 何なんだ、この商人達は……。


「だいたい、ワイの出身は西でっせ」


 プラーは突然、西方訛りで喋り始めた。


「九龍会の事は勿論、裏社会の事もわきまえとります。綺麗な道の通り方も、汚い道の通り方も重々承知しておりまっせ。ガルさんは、思いっ切り暴れてやったれ!全力でバックアップしまっせ!」


 どうも、これがプラーの本性らしい。

 作った笑顔でも、綺麗に聞こえる標準語でもない、素の商人としてのプラーだ。

 何とも頼もしい、俺はそう感じた。


「プラーさん、よろしくお願いします」

「任せたってください。その代わり、九龍会をいてもこましてや!」

「あぁ、必ず!」


 俺とプラーはしっかりと握手を交わした。

 これでフィロー商会の協力も取り付けられたという事だ。

 プラーの性格だ、西方になかり食い込んでいくつもりだろう。

 経済や物流の情報が手に入れば、かなり動きやすくなる。

 プラーの後ろ盾は何よりも心強い。


「上手くいったのぉ」


 フィロー商会を後にし、俺達は自宅へ帰った。


「あぁ。常務があんなにも豪胆な人だとは思わなかった」

「フィロー商会の人達って、ホントに独特な商人が多いわね」

「ああいう商人を西方では商売人あきんどって言うんだ。軍人なんかよりも豪胆で賢しいぞ」

「商売人か、面白い奴等だの」

「それより、これでかなり動きやすくなったんじゃない?」

「今欲しい情報も手に入った。まずはからだ」


 俺は紙巻煙草を取り出しながらニヤリと笑った。

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