第12話 繋がり

 翌日にはギルドからの報告が上がってきた。

 王国全土の依頼の中で屍喰鬼グール関連の依頼だけをピックアップしてもらったのだが、現在出ている依頼はないとの事だった。

 今は過去2~3年の範囲で、屍喰鬼の討伐依頼がなかったかを調べてもらっている。


「空振りか……」

「その様だの」

「中々いい案だと思ったんだが……」

「元々、屍喰鬼の繁殖能力は低いからの。あそこまで増やせたのは逆に奇跡に近い」

「グローも、俺達が倒した屍喰鬼は奴だと思うか」

「当たり前であろう。その時も言ったが、他の場所からあの村に入れるにしては多過ぎる。必ずバレる筈だ」

「裏を返せば、九龍会は屍喰鬼の人工養殖の術を手に入れたって事か……」

「厄介だのぉ。どのくらいの速度でしておるのかは分からんが、どうも普通の屍喰鬼とは違ったしのぉ……」


 俺達は大将の店でエールを飲んでいた。

 ギルドからの報告で、屍喰鬼絡みの依頼があればすぐにでも出発していたが、ないと言われたらやる事もない。

 情報がないのならば、下手に動かない方がいい。

 グローと俺はいつも通り、飲み食いしている。


「アンタ達、暇なのね」


 セリファが溜息を吐きながら料理の載った皿を運んできた。


「暇ではないわ。情報を集めとる段階だ」

「情報がなければ進めようがないからな」

「私から見たらただの暇人だけねー」


 そう言って去っていくセリファ。


「それはそうと、軍の方はやはりごたついておる様だの」

「サリィンを呼んだのは良くなかったか……」

「仕方あるまい、依頼を受けたのがワシ等なのだ。縄張り争いなどしておる方が悪い」

「まぁ、確かにそうだが……」


 俺は肉をフォークで刺して口に運ぶ。


「……、なんかこうやって2人で食うの、久々な気がしないか……?」

「……、そうだの……」


 4人で住むようになって、外食が減った。

 エルウィンは料理好きらしく、3食キッチリと作って、俺達に食わせている。

 節約にもなるので助かるが……。


「健康的過ぎて、逆に体調不良になりそうだわい……」

「ホント、それな」


 エールを飲みながら、紙巻煙草を吸う。

 香辛料たっぷりで味の濃い料理。

 たまにはこういうのを食べないと、俺達らしくないと言うものだ。


「やっぱ、大将の料理は酒に合って旨いなぁ」

「それは、私への当て付けですか?ガル」


 真後ろにエルウィンが立っていた。


「見付かってしもうた……。だから他の店にしろと言ったのだ」

「いいじゃねーか、エルウィンもどうだ?」

「貴方達ねぇ……、折角私が夕飯作ってるって言うのに……」


 エルウィンが激怒している。

 透き通るような白い肌が、みるみるうちに紅く染まっていく。

 ヤバい、キレられる。

 そう思った時、セリファがエルウィンに葡萄酒を渡した。


「エルウィン、喧嘩するな外でね。中にいたいなら座って」

「……、はい……」


 セリファの怖い笑顔にエルウィンの勢いは削がれ、おずおずと俺の隣に座った。


「セリファには弱いんだな、エルウィン」

「それは!……、仕方ないでしょ……」


 何ともバツが悪そうにモジモジするエルウィン。

 よく分からんが、セリファに勝てないならここは安全地帯という訳だ、良かった良かった。


「てか、スゥはどうしたんだ?留守番させてるのか?」


 スゥだけ家にいるなら可哀相だ。

 そう思った時、エルウィンが俺の膝の上を指差した。


「見えないのかしら?」

「え?」


 俺の膝の上に座って、俺の頼んだ肉を食っているスゥがいた。


「おい!スゥ!」

「コレ美味しい!」

「勝手に俺の肉を食うなって言ってるだろー」


 そう言ってスゥを膝の上から降ろそうとしたが、この店には子供用の椅子がない事を思い出した。

 グローでもギリギリの高さだ、スゥは椅子の上に立って食べる事になる。

 それも行儀が悪い。

 とりあえず、俺の膝の上でいいか。


「これは何?」

「これか?これは鹿肉のステーキだ。旨いか?」

「美味しい!」

「追加で同じのを頼んでやるから、溢すなよ?」

「はーい!」

「急に所帯染みたな、ガル」


 厨房から顔を覗かせた大将がニヤニヤと笑っている。


「辞めてくれよ、大将……」

「所帯染みたって何?」

「スゥは変な言葉を覚えなくていい……」

「そうなると、差し詰めワシは爺さんか!ガハハ!」

「こんな種族のバラバラな家族があるかよ……」

「僕達は家族じゃないの?」


 スゥが俺の顔を見上げてくる。


「はぁ、家族みたいなもん、かな……?」

「最初の溜息は余計ね」

「ワシ等に失礼だの」

「溜息はダメー」


 何なんだ、コイツ等……。

 全員からダメ出しされる覚えはない。


「分かった分かった、家族だ家族!」

「やっつけ感が嫌ね」

「ワシ等に失礼だの」

「めんどくさがりー」

「何なんだよ!」


 俺はいじられキャラじゃないんだが?

 そんなこんなで、今日も夜は更けていくのだった。



「そうか、フェイがそう言ったか……」


 西都から程近い街に作られた事務所に、私とファン様だけ。

 ここが黄様の諜報用主要拠点だ。

 似た拠点は他にもあるが、ここが諜報活動の中枢と言える。


「はい、表で可能な活動は全てやって下さると仰っています」

「表からの圧力がどれだけ蒼狼ツァンランに効くかは分からんが、無いよりマシだろう」

「吠様は、奴らの牧場ファームを全て潰す気です」

「不可能だ!お前が把握している施設だけでも9つ、それ以上存在している可能性も高い上に、王国内全土に散在しているんだぞ!」

「何か、お考えがあるのではないでしょうか……」

「アイツは俺よりも頭が回るからな……。吠との連絡は、何を伝えるかも含めてお前に一任する。頼むぞ」

「御意に」


 私は事務所を後にした。

 この様な状況で言うのも不謹慎だが、私は吠様とお会いする機会が増える事に心が躍った。

 黄様も九龍会の幹部として成長されたが、やはり今一歩だ。

 黄様は素直過ぎるのだ。

 その点、吠様は誰にも読めない動きをする事がある。

 敵にとって、それがどれだけ恐ろしい事かを理解した上でやっている。

 そんな吠様を私は昔から慕っていたし、可愛がってもらった。

 私は男だが、吠様を愛していた。

 いや、今でもその気持ちに変わりはない。

 だからこそ、あの方を守らなければならない。

 私は決意を新たにし、再び闇に潜るのであった。

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