第11話 覚悟の空振り
「で?その古巣がどうしたの言うのだ?」
グローがあっけらかんと言った。
いや、待て。
こっちはそれなりの覚悟を持って話したんだぞ?
その覚悟が全く報われていない。
「でって何だよ!」
「何を怒っとるんだ?」
「私達の反応が薄いからよ、グロー。『!?そうだったの!?』みたいな反応が欲しかったのよ」
手をヒラヒラと振りながらエルウィンが言う。
「ガル?私やグローが聞きたいのはそこじゃない。だいたい、村での貴方の反応を見てたら何となく察しは付くわ。問題は、何故貴方が思い詰めてるのかよ」
「その通りだ。お主やスゥの過去など知った事か。全部終わった事だろうて。それよりも先の事を考えねばな」
「そうね。あの様子だと、同じような研究施設が他にもある筈。ガルが言う通り、九龍会?の仕業なら、西方には特に多く作られてるんじゃないかしら?」
「しっかし、今回の村の場所は南方司令部の管轄だぞい。ワシ等が出張ったせいで、軍内部でゴタゴタしそうだのぉ……」
いや待て。
俺の覚悟は無駄だったのか?
勝手に話を進めるなよ……。
「いや、だから俺の話を……」
「話なら聞いたじゃない?ガルとスゥは九龍会にいたって話でしょ?」
「まぁそうなんだが……」
「ワシ等にどうしろと言うのだ。同情でもしろと?ワシはそんな暇人ではない」
何なんだ、コイツ等……。
スゥはスゥでウトウトしている。
俺が馬鹿みたいではないか。
「はぁ、なんか阿保らしくなってきた……。スゥ、寝るなら部屋で寝ろ」
俺はウトウトしているスゥを抱きかかえ、部屋に連れて行く。
スゥの部屋に入る。
散らかっていないと言うか、物がなさ過ぎる。
エルウィンが買ってやった
もう少し慣れてきたら、欲しい物も出てくるだろう。
とにかく、スゥには通常の生活に慣れる必要がある。
まだ、何処かで線引きをしている節があるのが心配だが……。
「ガル……」
寝ぼけているのか、薄っすらと目を開けたスゥが俺の袖を掴んだ。
「疲れたんだろ?少し寝ろ。飯が出来たら起こしに来るから」
「ガルは……」
「うん?」
「ガルは戻る気なの……?」
「……、戻らない。お前もそうだろ?」
「うん……。ガルは急にいなくならないでね?」
「あぁ、分かってる」
スゥは寝息をたて始めた。
「ガル」
部屋の外でエルウィンが待っていた。
「話の続きなんだけど」
「分かってる。さっきの2人の予測は正しい」
「予測?」
「他にも施設があるかもって話だ」
「あぁ、あれね。でも調べ様にも、王国内を当てもなく歩き回る訳にもいかないし、それじゃ時間がいくらあっても足りないわ」
テーブルへ戻るとグローが待っていた。
「いつも言ってるだろ?使えるものは全部使う。まず、グロー。お前はギルドのベルベットに、今回の依頼と似たものが他にないか、王国全土を探させろ」
「なる程の。蛇の道は蛇という事か」
「そうだ。それで、俺はピュートに会いに行く。エルウィンは留守番だ」
「なんで!?」
「ピュートのフィロー商会にはそれなりの覚悟をしてもらう事になる。俺の依頼に応えるかどうかは向こうが決める事だが、依頼主の俺が直接言いに行かないとな」
「嫌よ、私も付いて行く。ガルがこのままいなくならないように見張らないと」
「お前まで何言ってんだ……?」
「エルウィン、ガルをしっかり見張っておくんだぞー」
そう言ってグローはギルドへ出掛けて行った。
「グローまで……」
「みんな貴方を心配しているの。あの書類見てから、貴方がおかしいから」
「そんな事ない、いつも通りだ」
「ならいいけど」
何なんだ、どれだけ俺は信用がないんだ。
とにかく、エルウィンを連れて俺はフィロー商会へ向かった。
†
「……、お話は一度本部に上げます。流石にこれは私の独断では出来ません」
真剣な表情でピュートが言った。
フィロー商会に頼みたいのは他でもない。
西都物流商事への諜報活動だ。
この会社が九龍会のフロント企業である事はフィロー商会も理解してる様で、今までは下手に関わらないようにしていたらしい。
「いや、無理を言っているのは分かってるが、似たような業種のフィロー商会なら、何らかの情報が掴めないかと思ってな……」
「西都物流商事は、名実ともに西の大物です。我々フィロー商会が西方へ勢力を伸ばせない理由ですしね。ガル殿、どう見ていますか?」
「どう、とは?」
「西都物流商事、いや九龍会の今後です。ハッキリ言って、会長の代が変わってからは西方は酷いもんです」
ピュートが言うには、貧富の差の拡大により
人身売買や違法賭博場なども堂々と営業しているらしく、軍はそれを取り締まるどころか、利用している者もいる。
魔王軍と戦争していた頃の方が平和だったという。
「今や西方の経済を牛耳っている九龍会です。私の独断で、フィロー商会を危険に晒す事は出来ません。一度、上に取り合ってみます」
ピュートの事に少し引っ掛かりを覚えた。
「……、ピュート、お前個人としてはやりたいんだな?」
俺のその言葉に、ピュートはニヤリと笑った。
「やりたくない訳がないですよ!あの西都物流商事をひっくり返す事が出来るチャンスですよ!?そうなれば、王国全土にフィロー商会の名が轟く!どれだけの販路が増えると思ってるんですか!」
思わず笑ってしまった。
ホント、大した商人だ。
「ピュート、やる気になるのはいいが、まずは上を説得してくれ。近い内に、九龍会の内部抗争が始まる。そうなれば、端の方からフィロー商会が切り取っていってやれ」
「ガル殿は私の考えをすぐに理解して頂けるので助かります。まずは上層部を説得します。私達は西都物流商事には泣かされてばかりですからね、許可は出ると思います」
「頼むぞ。些細な事でもいい、情報は俺に共有してくれ。可能な限り、俺の情報もそっちに流す」
「分かりました。進展があればすぐにお知らせします」
「あぁ、頼む」
俺達はフィロー商会を後にした。
ピュートは流石に難色を示すと思っていたが、とんだ曲者だな。
アイツはその内フィロー商会の重役になるかもしれない。
中々の商才と胆力を持っている。
胆力に関して言えば、軍人にも勝るとも劣らないだろう。
「かなりやる気みたいね、ピュートさん」
「俺の周りには好戦的な奴が多くて困る……」
「あら?まるで自分が平和主義みたいな言い方ね」
「バーカ、俺は昔から平和主義だよ」
そう言うと、ワシワシと俺の頭をエルウィンが撫でた。
「正義の味方マンだもんね」
「うっせ」
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