第55話 まず外堀を埋める

 異様な気配で目が覚めた。

 気付かれないように、寝たふりをする。

 グローも起きているだろう。

 いつでも投げれるように、投げ小剣ナイフを右手に2本持った。

 数は5人。

 休憩所を遠目から包囲して、少しずつ近付いている。

 距離にして30メートルくらいだろうか。

 にじり寄る様なゆっくりとした歩調だ。

 通常の人間の気配ではない。

 何か、を感じる。

 木を盾にしながら近付いて来るので、小剣が投げられない。

 これが操られていると言うなら、術者はかなりの手練れではないだろうか。

 不意にグローが寝返りを打つ。

 それに合わせて5人の脚も止まる。

 コイツ、マジで寝てないだろうか……?

 5人はしばらく止まっていたが、再び足を進め始めた。

 もう少しで休憩所内に入る。

 投げ小剣の準備をした時だ。

 木の影から5人が姿を現した瞬間、ヒュンという音と共に、5人それぞれの大腿部に何かが突き刺さった。


「!?」

「ガル待って。殺しちゃダメよ」


 声と共にエルウィンが木の上から降りてきた。


「折角殴り合えると思ったのにのぉ」


 グローが残念そうに立ち上がる。


「コイツら、前任のパーティか……」


 矢が脚に刺さり、崩れ落ち5人を見下ろす。

 職と外見の特徴は、行方不明になっていた5人と完全に一致してる。

 しかし、うめき声1つ上げずにうずくまる5人を見て、少しゾッとした。


「今、助けるね」


 エルウィンはそう言って、近くにいた僧侶プリーストの胸に手を当てた。

 そのままの状態で、短くフッと息を吐くと僧侶はガクリと脱力する。


「何をしておるのだ?」

「洗脳を解いてるの。朝には目が覚めると思うわ」

「フム……」


 そうして5人全員の洗脳を解いたエルウィンは、5人をテントの中に寝かせた。

 3人で手分けして脚に刺さった矢を抜き、止血する。


「予想通りか?エルウィン」

「ええ、予想通りよ。恐らく、貴方達も仲間にしようとしたのね」

「ご苦労だのぉ」

「とりあえず、コイツらは明日、街に帰そう。近くの村で馬を借りる」

「問題は、この襲撃がこれで終わりかという事だの」

「明日も来るかもな」

「その時は6人かの?」

「恐らくな。とにかく、向こうの手札を全て出し切らせる」

「しかし、次の襲撃はいつになるか分からんぞ?」

「そうね……。今回失敗した原因を探りに来る可能性もある」

「今もどこかから見てるかもな」

「それはないわ。私達を目視で確認できる範囲内には私達以外に生物はいないし、で監視している気配も皆無」

「探りに来るとすれば、明日以降か……」

「恐らくね」


 5人の手当を終え、エルウィンは再び木に上り、俺とグローは小型のテントを新たに張り、その中で眠った。



 翌朝、目覚めた5人に近くの村で借りた馬を与え、状況の説明を書いた書類を持たせ、街に帰した。

 5人には色々と話を聞いたが、襲われた時の記憶もなかった。

 俺達を手伝うとは言ってくれたが、まずはギルドに無事を知らせるのが先だ。

 ちなみに、5人にはエルウィンの存在を隠している。

 野伏レンジャーらしく、しばらくは目に付かない様にするのがいいと判断した。

 街との連絡役も頼んでいる。

 今は、街に向かっている5人の監視でここを離れている。


「どの村に隠れているのか分かっておるなら、さっさと攻めた方がよくないか?ガル」


 グローが双斧ツインアクスを磨きながら言う。


「ダメだ。まだを持っている可能性が高い。昨日も言っただろ?まずはを全て奪う」

「本体を叩けば済む話ではないか?」

「その本体が何人いるのか、護衛がいるのか、他の魔王軍と連携しているのか。その辺りが全く分かっていない状態で叩くのは危険だ」

「うむ……。暴れられる依頼を選んだつもりが、いつも暴れられん……」

「文句垂れるな。そんなに敵の手駒になりたいのか?」

「ワシは魔法が使える。魔法耐性も高いから問題ない、お主と違っての」


 不服そうに鼻息を荒げるグロー。


「はぁ、グロー。お前は勘違いしてるぞ」

「何をだ?」

「今回は魔法じゃない。魔術だ。魔法耐性が高かろうが、今回は意味がない。現に、魔法耐性が全職の中でもトップクラスの筈の僧侶が手駒になってる。お前も危ない」

「なーにが魔術だ。魔法と大して変わらんだろ」

「はぁ……、勝手に動いても構わんが、お前が敵の手駒になった時は真っ先にエルウィンに射殺してもらうぞ。お前と戦うのが骨が折れるからな」

「ムム……」

「分かったら焦るな」


 グローがじっと待つ事を苦手としているのは理解している。

 しかも、特に策もなく待つのが苦痛なのだろう。

 俺とグローは囮なのだ。

 襲われても殺すなと言っているのもある。

 殺すよりも生け捕りの方が断然難易度が高い。

 つまり、めんどくさいのだ。

 俺だってやりたくない。

 しかし、犯人に近付くにはそれ以外に方法がないのだ。

 結局、この日の夜も同じ様に襲撃を受けた。

 案の定、操られていたのは6人で、5人の時と同様に処置し、街へ送り返した。

 その後も3日間は襲撃が続く。

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