第56話 真相を明らかにしたい

「最後の襲撃から、既に2日経ったぞ。は尽きたと見える」

「恐らくな」


 結局、襲ってきた人数は累計で20人ほど。

 この周辺で行方不明になっていた人達だった。

 全員の洗脳を解いて街へ送り終えた。

 今日の夜、村へ侵入する事にする。

 無関係な村人に危害が及ばないようにする必要もある。 


「問題の魔術師ストライゴンはエルウィンが抑える。俺とお前は暴れるだけだ」

「うむ、しかし上手くいくかの……?」

「上手くやるしかないだろ?」


 俺とグローは村への道の途中から森へと入る。

 洗脳された人間が何処から来るのかはエルウィンが調べていた。

 最初に見つけた納屋はただの倉庫だった。

 洗脳した人間を集めておく場所は他にあったのだ。

 村の近く、しかし誰も近寄らないような森の奥だ。

 5人程が住めるくらいの割と大きめの家だ。

 造りは簡素で、建てて間もない。

 魔術師がここにいるのかは分からないが、洗脳された人間は全員ここに集められていた様だ。

 魔術残滓も多く見受けられる。


「人の気配はないのぉ……」


 家の様子を見ながらグローが言う。


「操られてた人達は全員解放出来ている。新たに補充しない限り、ここには誰もいないんじゃないか?」

「とりあえず踏み込んでみるかの」

「何か証拠があればな」


 俺達は家に近付く。

 ドアノブに手を掛ける。

 鍵は開いている。

 ゆっくりとドアを開け、中を伺う。

 薄暗い室内には、何もない。

 生活感が皆無だ。


「ん?」


 ドアからすぐの部屋。

 リビングの様なその部屋の真ん中に、何か小さな黒い塊。


「何だ?」


 グローが俺を押しのけて中に入った。

 その瞬間、黒い塊の一部がキラリと光った気がした。


「危ない!」


 黒い塊はこちらへと飛んでくる。

 咄嗟にグローを蹴り飛ばす。

 光るモノを脇の下に通し、抱え込む様に受け止めた。

 人だ、しかも小さい。


「何なんだ!」


 グローが文句を言いながら立ち上がる。


「最後の手駒か」


 黒い塊の正体は、ナイフを握った小さな圃矮人ハーフリングだった。


「……」


 洗脳されているのだろう、何も言葉を発しない。


「エルウィンを呼ぶか、洗脳を解かにゃならんだろ」

「いや、エルウィンは犯人を追った」

「何?」


 この圃矮人が飛び掛かった瞬間、家から何物かが逃げる気配がした。

 エルウィンはその気配を追っている。


「じゃあどうるのだ?そのままでは暴れるぞい?」

「とりあえず、気絶させる」


 そう言って、俺は圃矮人の首の後ろに手刀を入れる。

 ガクリと脱力した圃矮人を床に寝かせた。


「大丈夫か?」

「洗脳を解かない限り危険だ」

「どうるのだ?」

「……、俺がやる」


 いざという時の為に、エルウィンから術の解き方を教えてもらった。

 成功するか分からないが、やるしかない。

 圃矮人の胸に手を置く。

 息を吸って目を閉じ、頭の中に例のを思い浮かべる。

 その印に水を満たすイメージで、魔素オドを注ぎ込む。

 息を短く吐きながら、その印を掌から押し出す。

 電気が走った様に、圃矮人の身体は一度だけ大きくビクついた後、再び脱力した。


「出来たのか?」

「多分……」


 圃矮人の身体から、黒い煙が出たように見えた。

 恐らくは上手くいった筈。

 圃矮人の呼吸も落ち着いている。

 しばらくすれば目が覚める筈だ。


「しかし、幼い圃矮人だのぉ」

「こんな子供まで操っていたとはな」

「相手が子供なら、大人は警戒心がなくなる。ブービートラップと同じだ」

「つまり、この子が最初の被害者か」

「そう考えるのが自然だろうて」

「ここに置いておいても危険だ。この子を休憩所に置いて、エルウィンを追うぞ」

「では、ガルが休憩所に連れて行け。ワシは先にエルウィンを追う」

「……、分かった。すぐに追いつく」


 グローの言う通り、俺は圃矮人の子を背負って休憩所へ向かった。

 走るのはグローより俺の方が早い。

 俺が休憩所まで走った方が合流が早くなるとグローは判断したのだろう。

 問題は、エルウィンの方だ。

 魔術師が複数いる場合、エルウィンが見付かれば窮地に陥る。

 早く合流する必要がある。


「ここで大人しく寝てろよ?」


 俺は圃矮人の子を寝袋に寝かせ、もう一度走った。

 例の家を通過し、エルウィンが残した目印を辿り、追い掛ける。

 1キロも走らない内に、グローとエルウィンを見付けた。

 茂みに隠れて息を潜めている。


「ここか?」


 2人に近付いて、同じように茂みに隠れた。


「あの洞窟の中みたい」


 エルウィンが指差した先に、大きな岩と、その陰にポッカリと口を開けた洞窟がある。


「深い洞窟ではないの。中から4人程の気配がする」

「4人か……」

「全員が魔術師と考えられるわね。どうする?」

「突っ込むしかないであろう」

「馬鹿言うな。相手の戦力も分からんのに、数でまさる敵の中に突っ込む事は出来んだろ」

「しかし、待っておっても埒が明かんぞ?」


 確かに、埒が明かない。

 このままここで出てくるのを待っていても、いつまでかかるかも分からない上に、別の出入口がある可能性もある。


「……、俺が偵察する」

「私が行くわ」

「馬鹿か、危険だぞ」

「私は野伏レンジャーよ?偵察くらい出来る。それに、魔術に対する知識もある。私の方が適任でしょ?」

「うむ……」

「エルウィンの言う通りだ。ワシとガルには魔術の知識がないからの」

「……、分かった」


 俺とグローは入り口付近で待機、エルウィンが中に潜入する事になった。

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