第53話 頭は使いようだ

 1つ目の村に、聞き込みついでに1泊し、2つ目の村へ向かった。

 聞き込みは簡単なものだ。

 『この近くで盗賊が出ている。何か異変があればすぐにギルドへ連絡して欲しい』というものだ。

 俺達が盗賊討伐で派遣されている事も伝えている。

 どちらの村も平和で、そして貧乏そうだった。

 金がないから盗賊になると言うのはよくある話だ。

 手っ取り早く稼げると思うのだろうが、代償が割に合っていない。

 王国は昔から盗賊に対しての処遇が厳しい。

 『民を傷付ける者を絶対に許さない』という姿勢の表れらしい。

 盗賊に対してはその場での斬り捨てが許可されており、さらにその一族までも処刑の対象になる。

 つまり、一族全員打ち首だ。

 そのお陰か、王国内での盗賊被害の発生数はかなり少ないらしい。

 しかし、それでもゼロではない。

 つい先日まで魔王軍と戦争していたのだ。

 そのせいで身寄りのない者も多い。

 野盗に身をやつす者も少ない。


「とは言っても、同情は出来ないんだよな」


 休憩所に戻りながら、思わず声に出てしまった。


「何の話だ?」


 グローが俺の方を見てくる。


「いや、盗賊の話。身寄りもなく、金もないなら盗賊になるのも理解出来るが、同情は出来ないって話だ」

「そうだのぉ。武器を手にするのはいいが、それを同じ王国民に向けるのが間違いだ。軍に入るなりなんなりの選択肢もある」

「手っ取り早く稼ぐには、確かに盗賊はいいかもしれんが、リスクが大き過ぎる」

「それを分かっていてもやる奴はいるのだ。世の中には救いようのない者も少ない」

「世知辛いな」


 休憩所に到着すると、エルウィンが先に戻ってきていた。


「もう、何処に行ってたのよー」

「近くの村に聞き込みに。で、頼んでたやつは?」

「ちゃんと受け取ってきたわ」


 そう言って、エルウィンから数枚の羊皮紙を受け取る。


「フィロー商会のピュートさんから、ここの周辺集落での売買履歴。ギルドのベルベットさんからはここの周辺で発生した依頼とその詳細の一覧。どっちも1ヶ月以内のものよ」

「そんなもん、何に使うんだ?」

「盗賊が隠れてる集落を見付けるんだよ」


 今、俺達が受注している依頼が出されたのは約2週間前だ。

 それよりも以前に、盗賊等の被害が出ていればギルドの依頼の履歴を調べれば出来てくる筈。

 詳細まで調べるのは、盗賊からの被害を別の原因によるものだと処理された事項がないか調べる為。

 また、盗賊行為の後には必ず物品を換金している筈なので、それは商会の売買履歴を調べればいい。

 商会の資料だけでも良かったのだが、情報の確度を上げる為にギルドにも協力を仰いだのだ。


「お主はやはり真面目だのぉ」

「聞き込みするより早いだろ?それに、聞き込みに行った先でいきなり襲われるなんて事もない」

「ワシはそれでも構わんがの」

「盗賊とは関係ない人が巻き込まれる可能性も下がる」

「ガルって、割とやってるよね」

「茶化すなよ、エルウィン。被害が拡大したら報酬が減るだろうが」

「はいはい、照れなくていいって、正義の味方さん?」

「お前なぁ……」


 エルウィンもグローもニヤニヤと笑っている。

 全く、コイツらは……。

 とにかく、この2つの資料を見ると、盗賊がいると思われる集落は1つ。


「ビンゴだ」

「なになに?」

「さっき俺とグローで聞き込みに行った村がそうだろう。見ろ」


 俺は商会の資料を指差した。


「2週間前、ちょうど最初の盗賊の被害が出た時だ。旅人が売ったと言って、この辺りでは取れない作物を商会に売却している。それと、中古の剣が2本と軽装防具1式」

「あからさまだのぉ」

「むしろ、なんでこれで気付かないの?」

「盗賊被害の報告が出るより先に売却してる。被害に遭ったのは商会関係ではないから、バレなかったんだろう」

「ギルドも詳細を調べなかったのかしら?」

「被害に遭ったのが冒険者でもない、ただの旅人みたいだからな、気付けなかったと見える」


 商会は自分の輸送隊への被害でなければ詳細を調べようとはしないし、輸送ルートの安全確保の担当と各集落を回る現場担当は別だ。

 大きな組織だからこそ分業出来るが、分業しているために些細な問題は通達されない事が多いだろう。

 用心棒を依頼したとしても、『近くで盗賊の被害が出ている』という説明がされるだけで、それを聞いて売買履歴を調べる様な奴はいない。


「まぁ、照らし合わせて調べるなんぞ、真面目なガルぐらいしかやらんだろうからな」

「真面目じゃねー。とりあえず、既に聞き込みで村に入ってるから、近い内に襲撃しに来るだろう」

「そこを迎え撃つ訳ね!」

「エルウィン、少し離れてお前は隠れてろ」

「なんで?」


 エルウィンは目をぱちくりさせる。


「奴らは俺達が2人組だと思っている。お前は面割めんわれしてない。3人だと怪しんで襲ってこない可能性もある」

「じゃあ、私はどうするの?」


 首を傾げるエルウィンに、俺は笑顔で上を指差した。


「木の上の生活はお手の物だろ?野伏レンジャー殿?」

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