第52話 人使いが荒いわね

 ちょっと本気で走ってしまった。

 私は半日も掛からずに街へ辿り着いた。

 南門を潜りながら、ガルから受け取った手紙を見る。

 そこにはフィロー商会のピュートと、ギルド事務長のベルベットの名前が書いてあった。

 ちなみに、私はもう現代耳長人エルフ語の読み書きはほぼ完璧に出来る。

 王都の研究所で翻訳の手伝いをやったお陰で、かなり早い段階で身に付いた。

 日常生活を送る分には、何1つ不自由はしない。


「まずはピュートさんに会いに行こう」


 私はフィロー商会へ向かった。

 事務所に入ると、大勢の圃矮人ハーフリング達が忙しなく動いている。

 受付のカウンターでピュートを呼び出してもらう。


「貴女は!?」

「お久しぶりね、ピュートさん」

「エルウィンさん!噂でこの街に住み始めたとは聞いていましたが、お会いできるとは!」

「もっと早くご挨拶に来るべきだったわ、ごめんなさいね」

「いえいえ!私こそ、ご挨拶に行くべきでした、申し訳ありません」


 お互いに頭を下げる。

 ピュートは非常に礼儀正しいので好感が持てる。

 ただ、今はガルから急ぎの頼みがある。


「早速で悪いんだけど、これガルから。読んでみて」

「手紙ですか……?」


 ピュートは首を傾げながら手紙を受け取り、中を読み始めた。


「……、なるほど、承知しました。少し調べて、結果を書類にまとめます。明日の午前中にもう一度ご来社願えますか?」

「分かったわ。でも、何を調べるの?」

「あれ?エルウィンさんは手紙の内容は知らないのですか?」

「私はただの配達人メッセンジャーよ。中は読んでないわ」

「明日、書類をお渡しする時にご説明いたします。まずはこれを」


 そう言って、ピュートは手紙を私に返した。


「ベルベットさんにも見せるのでしょう?」

「そうみたい」

「ギルドの方が書類作成に時間が掛かるかもしれません。お早く」

「ありがとう」


 ピュートから送り出され、私はギルドへ向かった。

 ベルベットと言う人には会った事がない。

 仕方なく受注カウンターで呼び出してもらう事にした。


「事務長のベルベットさん、いらっしゃいます?」

「事務長ですか……?どの様なご用件で……?」

「ガルの使いで、手紙を渡したいのですが……」


 受付の女性が、あからさまに私を怪しんでいる。

 冒険者として登録して間もない私が、事務長を直接呼び出す事自体が怪しいのだろう。

 とは言っても、ガルから頼まれたと言えば大丈夫の筈。

 とりあえず、受付の女性に手紙を渡す。


「少々お待ちください」


 女性はその手紙をもって事務所の奥へ向かった。

 ベルベットとはどの様な人なのだろうか。

 私がソワソワしながら待っていると、先程の女性を引き連れて、何ともグラマラスな女性がやって来た。


「貴女は、エルウィンさんでしたね。ガルさんのお使いとお聞きしました」


 ゆったりとした話し方に、色気を醸し出す動作。

 妙齢の魅力的な女性と言える。

 同性の私ですら、その色気に中てられそうになる。

 しかし、そんな事を考えている場合ではない。

 可能な限り早くガル達の元へ戻りたい。


「はい、火急の手紙です。お読み頂けましたか?」

「はい。内容に関しても承知致しました。こちらで調べて書類にまとめます。明日の朝にはお渡し出来るかと思います」

「分かりました。では、明日の朝にまた来ます」


 どちらの書類も明日という事は、私は街で一晩過ごす必要がある。

 急いで戻ったとして、休憩所に着くのは早くても夕方くらい。

 私がカウンターから離れようとした時だった。


「あ、それと……」


 ベルベットは私を呼び止める。


「何か?」

「手紙には『書類作成に掛かる必要経費は報酬からの天引きで』との事ですが、内容が内容ですし、依頼に関係する重要資料という事で、今回は経費を頂きません。その旨をガルさんにお伝え願えますか?」

「分かりました、ありがとうございます」

「では、良しなに」


 ゆったりと頭を下げるベルベットに、私も頭を下げる。

 何とも調子が狂う相手。

 魔女か何かに見えてる。

 私は逃げるようにしてギルドを後にした。


「とりあえず、ご飯行こうかな……」


 半日走りっぱなしだった。

 お腹はペコペコで正直倒れそう。

 いつもの様に大将の店へ向かった。


「セリファ、ただいまー」

「エルウィン!?帰ったの!?」


 セリファが目を見開きながら私を見た。

 うん、可愛い。


「ガルのお願いで戻ってきた。また明日には出発するけどね」

「忙しいのね。とりあえず、座ったら?いつもの葡萄酒でいい?」

「うん、お願いね」


 私は一番端のカウンター席に腰掛ける。

 先にお風呂に行けばよかったかもしれない。

 ブーツには土が付いているし、汗もかいた。


「はい、葡萄酒」

「ありがと、セリファ」

「今回も厄介事?」

「かもしれないわ。商会とギルドに何か調べ物頼んだみたい」

「ふ~ん、なんでガル達の依頼ってすんなり終わるモノがないのかしら?」

厄介者トラブルメーカーって事じゃない?」

「まぁ、確かにそうね……」


 とは言っても、根本的な解決に導いているガル達の仕事振りは、ギルド内でも高く評価されてる。

 依頼さえ終えて金が貰えればいいと言って悪びれているけど、傍から見れば充分にね。

 不器用なガルらしい。

 私はフフフと少し笑いながら、葡萄酒を一口飲んだ。

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