第51話 さっさと尻尾を出してもらおう
俺達は朝から戦闘準備を整え、足跡を追う事にした。
街道から離れる様に西へと向かう足跡。
人一人がやっと通れるくらいの細い獣道だ。
出来て新しい、というかこの僧侶が歩いて作った道なのではないだろうか。
先頭はエルウィン、後方は俺が担当し、グローは俺達の間をのんびりと歩いていた。
「何処に向かっておるのかのぉ、この足跡は」
「隠れ家じゃねーか?普通に考えて」
「冒険者が?」
「操られてた可能性が高いわ。他の4人も同様に操られ、抵抗できないままに監禁されてる可能性もある」
「精神汚染系の魔法かのぉ……」
「調べてみねーと分からんだろ。その為に来たんだ」
「分かっておるわい」
先頭をエルウィンに頼んでいるのは、まばらとは言え森だからだ。
南方の草木も増え、何とも不思議な雰囲気の森になっている。
こういう土地は
「エルウィン、異常ないか?」
「ないわね……、おかしいくらいに」
「そうだのぉ、静か過ぎるわい……」
森全体は妙な静寂に支配されている。
鳥などの動物の音も一切なく、まるで草木までもが息を潜めている様だ。
どう考えてもただ事ではない。
「どう思う?」
「鳥や小動物は、私達よりも敏感に殺気などを感じ取って逃げるわ」
「誰かに見られとる様な感じがせんか?ベッタリと絡み付いてくるような……」
「慎重に進むぞ」
右手に投げ
休憩所から結構離れたと思う。
地図上で自分たちが何処にいるのか、段々と分からなくなってくる。
「一度街道に戻らないか?これじゃ、現在地すら見失いかねない」
「私がいるから大丈夫よ、ガル。それより、もう少しだわ」
「もう少し?」
俺がエルウィンの言葉をオウム返しした時だ。
エルウィンが小さく声を上げ、小走りになった。
グローと俺はそれに付いていく。
「ここは!?」
辿り着いたのは、森の中に突然現れた空き地だった。
半径20メートルくらいの草むらが広がっている。
「休憩所?」
「街道からこんなに離れた場所に、商会は休憩所なんて作らない」
「アレを見ろ」
グローが指差した先には小さな小屋があった。
小屋と言うよりも納屋に近いかもしれない。
どう考えても、1人が住めるかどうかの大きさだ。
「ここが、隠れ家かしら?」
「有り得んだろうて。これじゃ6人も住めんぞい」
「となれば、つまりは……」
俺はその納屋に近付く。
「ちょっとガル!」
「慌てるでないわ、小娘。
「でも、万が一って事が!」
「心配症だのぉ。少しはガルを信用せい」
俺は納屋のドアに手をかけ、勢いよく開けた。
「やっぱりだ……」
そこにあったのは、盗賊団の目撃情報と一致する武器と防具。
「つまり、盗賊団は近くの村か町に住む住人達って事だな……」
†
俺達は例の納屋から一度休憩所に戻った。
時間はもう昼頃だろう。
休憩を兼ねて食事を摂った。
「納屋から足跡を追うのは無理だのぉ。数が多過ぎるわい」
「どうするつもりなの?ガル」
俺は簡単な手紙を書いていた。
「何をする気?」
「エルウィン、悪いが街へ戻ってこの手紙を届けて欲しい」
「誰に?」
「表に書いてる。街の奴に聞けばすぐに分かる筈だ」
「何故お主が行かんのだ?自分で行った方が手紙を書く面倒もないではないか」
「俺はもう少し調べたい。それに、
「私を走らせる気?」
「森を走るのには慣れてるだろ?それとも、耳長人の脚が人間の脚に負けるのか?」
「全く、人使いが荒いわね……」
そう言いながらエルウィンは手紙を受け取り、最低限の荷物だけを背負い、森へ消えていった。
「何をさせる気なんだ?」
「まぁ、すぐに分かる。とりあえず、この近くの町や村へ向かおう。情報収集だ」
「ワシは酒さえあれば何処でもよいわ」
「お前のそういうとこは助かる」
「しかし、いきなり訪ねても大丈夫かのぉ?」
「なんだ?怖いのか?」
「ワシを
「なに、問題はない」
近くの集落に聞き込みに回るのはよくある事だ。
恐らく、先の5人もやっただろう。
襲われたのはその後だと考えらる。
だったら、俺達が聞き込みをすれば、同じように犯人達は何かしらの行動に出る筈だ。
俺の狙いはそこだ。
むしろ、潜まれると何も手出しが出来ない。
尻尾を出してもらうための聞き込みでもある訳だ。
「さて、とりあえずはここに向かおう」
俺は地図上で休憩所から最も近い村を指差した。
しかし、近いとは言っても徒歩で半日は掛かる距離だ。
この村で宿を借りる事にしよう。
「今日は野宿せんでも良さそうだの」
「犯人が住んでる村だったら、寝てる時襲われるぞ?」
「なに、盗賊なんぞに負ける訳がなかろう」
「とりあえず、毒に警戒しとけ。
「うむ。飲食には気を付けろという事だな」
「全耐性アップの
「分かっておるわい。さっさと行くぞ」
毒を盛られた時の為の準備も出来ている。
さて、鬼が出るか蛇が出るか、楽しみだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます