第50話 早々にフラグ回収するのはやめてくれ

「隠れ家にしやすいのはどういう場所か分かるか?エルウィン」


 俺達は南の街道を南下していた。

 と言っても、被害が出ているのは街から歩いて1日程の距離だが、如何せん南の街道は人通りが比較的少ない。

 王国の南方は荒野で、更に南は砂漠化している。

 人口も少ないので、必然的に往来も少ない。


「洞窟や洞穴みたいな場所」

「だが、南は平坦な土地だ。洞窟などはないし、そんなもんがあればすぐに隠れ家を特定出来るわい」

「グローの言う通りだ。この辺りの天然の拠点はない。つまり?」

「家を建ててる?」

「もしくは、近くの集落の住民がその場所で野盗行為をやってるかだ」

「なるほどね」


 俺達は特に襲われる事もなく、現場近くのフィロー商会が設営した休憩所に着いた。

 この場所を拠点として調査をする予定だ。


「見ろ、もここを拠点にしてたようだ」


 休憩所には真新しいテントと焚火跡もある。

 寝袋の数からして、例の5人組のものだろう。

 まるでさっきまでいた様な状態だ。

 半時も待っていれば、帰って来そうな雰囲気である。


「何だか、気味が悪いのぉ……」


 そう言いながら、グローは背負っていた荷物を降ろす。


「引継ぎ依頼なんて、得てしてそんなもんだ。前の奴らが死んだから引き継がれる訳だしな」


 俺は荷物を降ろして、休憩所内を軽く調査した。

 争った形跡は勿論、血痕もない。

 恐らくここから出発した後に襲われたのだろう。


「行方不明になった5人組はどういう編制だったの?」

ソード使いの人間ヒュームが2人、斥候スカウト圃矮人ハーフリングが1人、魔法使いウィザード耳長人エルフが1人、僧侶プリーストの人間が1人だ」

「悪くないバランスだと思うが、それでダメだったとはの」

「何が待ってるか分からん以上、警戒する以外にないな」

「とりあえず、今日は野営の準備だの。調査は明日からにするか」

「そうだな、もうすぐ日が落ちる」


 俺達は、のテントを借りる事にした。

 自分達のテントも持ってきているが、既に建てられたものがあるのなら、わざわざ荷を解く必要もない。

 流石に寝袋は取り換えたが、他はそのまま使わせてもらう。


「ガル、ちょっといい?」


 飯の準備を始めようとしていた俺をエルウィンが呼び止めた。


「何だ?」


 エルウィンは、休憩所の端の方に立っていた。

 足元を見つめている。


、見える?」


 足元を指差すエルウィン。

 そこには足跡がある。

 比較的新しいものだ、先客の誰かのものかもしれない。


「足跡?」

「そうじゃないわ。もっと


 よく分からないが、言われた通りにその足跡を凝視する。


「ん?」


 その足跡から微かに、何やら黒い煙の様なものが見える、気がする。


「黒い……もや?」

「ガルにもちゃんと見えてるのね」

「いや、ハッキリとは……。そんな気がするだけだ」

「それで充分。これは残滓ざんしよ、しかも

「魔術の残滓?魔法じゃなく?」


 魔法を駆使した場合、そこに魔力残滓が残るのは聞いた事がある。

 どんなに効率よく魔力マナを変換して魔法を使ったとしても、必ず数パーセントは変換されずに残るらしい。

 それを残滓と呼ぶ。

 残滓は時間経過と共に空気中や地中に霧散してなくなる。

 雨が振れば消え去るのはもっと早くなる筈だ。

 その残滓が微かに残っている。

 しかも、魔術の残滓となると、ここで魔術が使われたって事か?

 まさか、現代に魔術を使える奴などいない筈だ。

 いるとしても、エルウィンくらいではないか?

 いや、俺が知らないだけで魔術師ストライゴンは他にもいるかもしれない。


「魔術残滓が見えるのは、魔術も素質を持ってる者のみよ。グローには全く見えないわ」

「そう言えば、魔術のどうのこうのって前にお前が言ってたな」

「単刀直入に聞くけど、犯人は貴方じゃないのよね?」


 エルウィンの言葉にハッとさせられた。

 俺には魔術の素質があるどころか、ウラグから紋章の様なものを貰ったのだった。

 ウラグが言うには、俺には闇魔術の素質があるとか。

 いやいや、だからって俺は何もしていないぞ。


「まさか!俺がなんでこんな事を!」

「ううん、本気で疑ってる訳じゃないわ。ただ、これは闇の魔術の残滓。今のところ、私が知っている闇魔術を使えるそうな人物はガルだけだったから。そうじゃないとなると……」

「暗黒種族……」

「しかも、上級の魔術師って事になるわね……」


 案の定と言うか、何というか……。

 やはり、グローの『どうにかなる』は、ある意味フラグなのだと痛感した。


「さっきから何を2人で話しておるんだ?」


 休憩所の隅で話し込んでいる俺達を怪しんで、グローがやって来た。


「あぁ、エルウィンが足跡を見付けた。恐らく、行方不明になった5人の内の誰かの足跡だ」

「ふむ……」


 グローがマジマジとその足跡を眺める。


「種族は人間、女だな。身長は160センチ程、華奢な体型だろうの」

「恐らく、僧侶だ。特徴が一致してる」

「こちらに向かって歩いて行った様だの。歩幅が不規則なところから見ると、フラフラだったようだ」

「でも、血痕はないわね。肉体的疲労か」

「精神疲労の可能性もあるか」

「とりあえず飯にせんか?日が暮れた中、森に入るのは危険だ」

「そうだな、グローの言う通りだ」


 明日の調査は足跡を追う事から始めよう。

 とにかく今日は飯を食ってしっかりと寝る事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る