第48話 喧嘩するなら他でやってくれ

「いつでも始めて良いぞ?」


 グローがニヤニヤと笑いながら言った。

 コイツ、エルウィンが合格しないと思っているな?

 まぁ実際のところ、30メートル以内の敵ならば俺の投げ小剣ナイフで倒せる。

 弓に期待するのは、それ以上の距離での隠密殺害スニーキングキルだ。

 グローが試験している意味も分かる。


「じゃあ、始めるわ」


 エルウィンは右手の指の間に5本の矢を持った。

 すぐに番えられるように、矢筈の部分を指で挟んでいる。

 速射する気か?

 じっくり狙いを定めて射るのではないか?

 ますます心配になってきたが、その心配をよそに、エルウィンは立て続けに5本の矢を放った。

 まさに一瞬。

 こんなスピードの速射なんて見た事がない。


「結果はどうかしら?」


 自信満々の笑顔を見せるエルウィン。

 俺は我に返り、的になっていた小樽の元へ走った。


「うむ、当たってはいるようだの」

「ガルゥー!それ、持ってきてねー!」


 エルウィンの声が聞こえた。

 しかし、俺はその的を目にした時点で、度肝を抜かれ固まってしまっていた。

 有り得ない。


「どうした?ガル」


 見かねたグローとエルウィンが俺の元へやって来た。

 俺は的を拾い上げ、グローに見せる。


「見ろよ……。

「何と……」


 5本の矢は全て樽に刺さっていた。

 しかも、

 樽を貫いた矢は、お互いに干渉するどころか、擦れてすらいないのだ。

 引き抜けば、使だ。

 神業としか言えない。


「エルウィン、のか?」

「当たり前でしょ?狙ってないと、必ず矢が破損するわ。安物とは言え、試験で浪費するなんて勿体ないじゃない?」


 あっけらかんとした答えに、思わず声を出して笑ってしまった。

 俺とは対照的に、グローは悔しそうだが。


「参ったぜ、これは合格としか言えないな、グロー」

「うぅむ……、仕方ないのぉ……」

「これだけの手練れなら問題ないだろ?」

「じゃあ休業中のガルの代わりに、明日から私とバディね、グロー」

「うぅむ……」


 文句なしの腕前を見せつけられ、グローは不満そうだが、これだけの実力であれば問題なく2人で依頼をこなせるだろう。

 とりあえず、今日は大将の店で親睦会でもやってやる事にした。



「昨日も飲んで、今日も飲むのね、アンタ達……」


 セリファが呆れている。

 まぁ、仕方ない。


「いいじゃねーか。昨日は慰労会、今日か親睦会だ」

「何かと理由を付けて、ただ単にお酒飲みたいだけでしょ?」

「当たり前だ、酒はワシの燃料だぞい」


 開店とほぼ同時に雪崩れ込んだ俺達は、端のテーブル席に陣取って片っ端から注文していった。


「ここの葡萄酒美味しくて、毎日でも飲みたいもの!」

「エルウィン、あんまりコイツらとつるまない方がいいわよ?」

「そう?腕は確かよ?」


 セリファの忠告をあっけらかんと切り返すエルウィン。


「腕は良くても素行不良よ」

「おい、誰が素行不良だって?」

「アンタよ、ガル!グローも!」

「うるさい小娘だのぉ。あれか?お主も混ざりたいのか?」


 ニヤニヤとしながらセリファを茶化すグロー。

 既に樽ジョッキ1杯を空にしている。

 相変わらず早い。


「なんでそうなるのよ!」

「女の嫉妬は怖いわい、のぉガル?」

「あ?何の話だ?」

「これだからこの男はダメなんだ」


 呆れた様にグローが言う。

 何故グローにそこまで言われなくてはならないんだ?


「とりあえず、もう1杯頼むぞい」

「はぁ……、はいはい、お好きなだけどうぞ!」


 不機嫌そうにセリファが厨房へ向かった。


「おー、怖いのぉ~」


 グローがニヤニヤとわざとらしく言う。

 よく分からんが、まぁ何でもいいか。

 とりあえず、明日からはグローとエルウィンのバディが上手くいく事を願っておこう。


「明日から2人はバディだ。仲良くやれよ?」

「あ?分かっておるわい。まぁせいぜいワシの邪魔をせんでくれればそれで良い」

「あら?鉱矮人ドワーフに後れを取る程、私は愚鈍じゃないわよ?」

「何だと?」

「だから、仲良くやれって……」


 俺は何度目か分からない溜息を吐きながらエールを飲む。


「そうだ、お主の復帰はいつになる?」

「あぁ、あと1ヶ月もすればリハビリまで終わるだろう」


 ゼペットからはそういう風に言われた。

 実際、戦闘に耐えれる程回復するにはかなりの時間が掛かると覚悟はしている。


「あと1ヶ月もエルウィンとバディなのか……」


 相変わらず不満そうなバディ。

 相方としては嬉しい発言ととらえるべきだろうが、エルウィンを過小評価し過ぎの面も否めない。


「いいじゃないか、中々の手練れだ。バディとして問題はないだろ。野伏レンジャーなら俺の代わりに斥候スカウトとして立ち回れる」

前衛バンガードがワシだけというのもな」

「別に、弓しか使えない訳じゃないわ。近接戦闘インファイトも出来るわよ」


 流石のエルウィンも反論した。

 現に、エルウィンを発見した際には弓矢と一緒に、1対の双短剣ツインダガーもあったのだ。

 耳長人エルフには圃矮人ハーフリング程ではないが、身軽さがある。

 それは使いようによってかなり強力な武器になる筈だ。


「お主の細腕で敵が斬れるのか?折れそうではないか」

「失礼しちゃう!何ならここで試してみる?」


 エルウィンの眼光が鋭く光る。

 なんでコイツらこうも喧嘩したがるのか……。

 現代耳長人と現代鉱矮人が犬猿の仲なのは知っているが、古代耳長人と現代鉱矮人も犬猿の仲なのか?


「やめろ、一応これは親睦会なんだぞ?果し合いがしたいなら出ていけ」

「この小娘が生意気なのがいかんのだろ」

「私の方が年上でしょうが!」

「あー、そうだったのぉ、年増としま木乃伊ミイラもどき!」

「なんですって!?」


 テーブルを挟んで言い合いが始まった。

 正直、先が思いやられる……。





『軍令:調査依頼』————Quest Accomplished

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る