第29話 いざこざ
自宅のドアがノックされる。
二日酔いでグワングワンする頭を上げる俺。
今は何時だ?
俺はベッドから這い出した。
「うん?」
ベッドを振り返るとセリファが寝ていた。
またやってしまったか……。
何とか立ち上がり、紙巻煙草を取り出しながらドアへ向かう。
「はい、どちら様?」
上半身裸のままドアを開けると、サリィンが立っていた。
「ガル殿、まだお休みでしたか、申し訳ございません……」
眩しそうにする俺を見て、少々困った顔のサリィン。
「あぁ、気にしないでくれ。で?何の用だ?」
「はい、いきなりで恐縮なのですが、私の王都への出頭に付いて来ていただけませんでしょうか?」
「……、はぁ?」
いきなりにも程がある。
というか、全く意味が分からない。
「どういう事だ?」
「それが、先の戦闘に関しての聴取が王都の方で行われる事になっておりまして。関係者であるガル殿にも加勢して頂きたいのです」
「加勢?」
何とも嫌な予感がする。
「それだったらグローを連れて行ったらどうだ?俺は見てただけだ」
「いえ、
「めんどくせぇな……」
「もちろん、グロー殿も一緒に来て頂きますし、ギルドのベルベット殿とフィロー商会のピュート殿も一緒です」
「主要関係者全員を招集してるのか……」
「そうなります。申し訳ございませんが、今日の昼過ぎには発ちますので、それまでにご準備の方をお願い致します」
深々と頭を下げるサリィン。
「うぅん、分かった。行くしかないんだな……」
「はい、ありがとうございます。では、昼過ぎに支所までお出で下さい。では、お邪魔致しました、お二方」
「あ!?」
ニッコリと笑ってサリィンが爽やかに去っていく。
セリファがいる事に気付いていたようだ。
何とも食えない
「はぁ、俺は怪我人だぞ?」
俺は呟きながら咥えたままだった紙巻煙草に火を点ける。
「バレてたのね……」
セリファがベッドから起き上がってきた。
「起きたか?」
「話し声で起きた。王都に行くの?」
「ああ、何か招集らしい。めんどくせぇ……」
「いいじゃない。王都なんて滅多には入れないんだから」
王都は誰でも気軽に行けるような場所ではない。
まず、同心円状の城壁が二重に建てられており、王国の重要機関は中心の『中枢区』に集められている。
そして、その中枢区を守る城壁と更に外側の城壁の間に『商業区』がある。
中央区に入るには、公的機関が発行する『入城手形』が必要になるし、商業区に入るには『王国指定業者証明書』が必要になる。
つまり、一般人は入れないのだ。
ちなみに、入城手形があれば、商業区にも入れる。
王国軍の召集なので、中枢区に入る事になるだろう。
俺みたいなのが入っていいのだろうか?
「観光で行くんじゃねーからな?」
「けど、観光も出来るでしょ?」
「興味ない」
「いいなー、私も王都に行ってみたい」
「……、お前も一緒に行くか?」
「はい?」
そうだ、セリファも連れて行こう。
旅は道連れってやつだ。
「大将には俺が言っとく。お前も一緒に来い!うん、それがいい!」
「ちょっと、勝手に決めないでよ!」
「行きたくないのか?」
「……、行きたい」
「よし、行こう!」
†
「大丈夫ですよ」
ニッコリと笑うサリィン。
予想以上にアッサリと許可が下りた。
「大丈夫なのか?」
あまりにアッサリだったので、俺の方が困惑してしまう。
「えぇ、今回の入城手形は『関係者一行』としか書いてありませんので大丈夫です。人数指定もありません」
「なんとも
グローが呆れている。
「むしろ、危険分子が数人入った所ですぐに処理出来るっていう自信だろうな」
頼んだ分際で物騒な事を言うもんだ、俺は。
「では、軍以外の関係者として、ガル殿、グロー殿、ベルベット殿、ピュート殿、それにセリファ殿の5名を登録しておきます」
「あぁ、頼む」
「軍からは、私とコフィーヌ、文官のトウラが随行致します」
合計8人の王都への旅が始まった。
王都までの道のりは安全だ。
主要道路なので、王国が直接管理している。
王国管理の道は、全て石畳が敷かれており、誰が見ても一目瞭然だ。
補修も定期的に行われているので、轍などもほとんどない。
二頭立ての荷車に7人が乗り込み、1人が御者だ。
御者はサリィンとコフィーヌ、トウラが交代で務めた。
「何とも呑気な旅だのぉ」
グローがパイプを吹かしながら言う。
「グロー、ここでパイプ吸うなよ!煙が籠るだろ!」
俺ですら煙草を我慢しているのに、コイツだけ吸うなんて許せない。
「ケチだのぉ……」
グローは渋々ながら灰を捨て、パイプを仕舞った。
「そうだ、サリィン」
グローがサリィンを呼ぶ。
「はい?」
「案の定、襲撃に遭った様だの」
「襲撃?何の話だ?」
グローはニヤニヤと笑っている。
俺には皆目見当もつかない。
「何、
「えぇ、グロー殿にアドバイスを頂いていたので何とか対処出来ました。3人程を捕えております」
グローはガハハと笑う。
「全く話が見えないんだが?」
「分からんか、ガル。護送中のサリィン達を襲ったのは、中央軍の奴らじゃ。手柄を全てサリィンに持っていかれたからな」
「はぁ?」
「その時に捕えた捕虜は賊として既に王都へ送りました。今回の聴取の際には、武器になります」
そこまで言われてやっと理解した。
今回の聴取は中央と東方の手柄の奪い合いが原因だろう。
何ともめんどくさい事に巻き込まれたもんだ。
「我々がギルドと協力して展開していた事は、中央司令部にも周知されていました。ギルドからも国王陛下へご報告されています。その状態で、我々に連絡もなく攻撃を開始した中央軍への言及は避けられない筈です」
「その上、護送中の部隊を賊の様に襲った。これでは軍内部からの突き上げは避けられんぞ」
だからグローはニヤニヤしているのか。
前にグローが軍を辞めた理由を聞いた時、『民を見ていない』という答えが返ってきた事を思い出した。
なるほど、確かに民を見ていない。
自分たちの手柄しか考えていない。
その点、サリィンは俺達の話を聞き、可能かな限り協力しようとしてくれる。
そういう点をグローは気に入ってるのだろう。
しかし、王都での聴取は一波乱ありそうだ。
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