第24話 総力結集

耳長人エルフのじいさんも連れて来たのか」


 俺が村に戻ったのは、作戦開始の前日だった。

 グローは俺が連れて来た医者の老耳長人を見て、呆れた様に言う。


「何じゃ、この無礼なずんぐりむっくりは?」

「何だと!?」

「それより、王国軍の責任者は誰じゃ?」

「私です!」


 出迎えに顔を出したサリィンが一歩前に出る。


「うむ、良い面構えじゃ。名は?」

「王国軍東方司令部所属、伍長のサリィンです」

「伍長……。お主、戦後配属組か」

「えっ、ええ……。戦場経験も無く、私では力不足である事は承知しております……」

「いや、そういう意味ではない。お主には将としての才がある。ワシが保証する」

「え?」

「ワシは街で医者をやっとるゼペットと言う者じゃ。元は王国軍の軍医をやっておった」


 そう言って、ゼペットはサリィンに握手を求める。


「大規模な作戦になると思ってな、野戦病院を設営する。医者と看護師も数人確保しておる。後から合流する予定じゃ」

「大変助かります!」

「それと、フィロー商会に言って、補給の手配もしておいたぜ、サリィン」

「なんと!軍で手配できる量も限りがあるので助かります、ガル殿!」

「ふん、急造とは言え、軍隊らしくなってきたの」


 グローがニヤリと笑う。

 冒険者達も次々と集まっていた。

 新人からベテランまで、ブリジットは片っ端から声を掛けている様だ。

 人数が多い事に越した事はない。

 問題は、この人数で統率が取れるかだ。


「集まった冒険者は、職と練度によって部隊を分けている所だ。部隊長は王国軍兵士にやらせる予定だ」

「それがいいだろうな。戦闘力が高くても、集団戦は戦い方が違う上に、連携が重要になる」

「その為に、我々で簡単な訓練も行っています」

「どこまで指示通りに動くかだな……」


 俺は一抹の不安があった。

 自分で言うのもなんだが、冒険者とはだ。

 戦闘力が高ければ軍に入る方が安定した収入を得られる。

 それなのに軍に入らないのには様々な理由があるが、共通しているのは『調』という事。

 集団行動が苦手な者が多いのだ。

 そんな冒険者の寄せ集めとなると、細かい作戦など組めない。

 経緯上、俺とグローが作戦参謀的な立ち位置になっているが、それをよく思わない奴もいるだろう。


「長引けば不利になるぞい」


 グローがボソリと呟く。


「分かってる。だが、パパっと終わるような規模じゃない……。サリィン、ちょっといいか?」


 俺はグローを引き連れ、サリィンと一緒に作戦本部となる空き家に入る。


「東方司令部から何か連絡は?」

「今の所、何も……。お二人からの報告を詳細に伝えてありますが、これと言って指示もありません」

「この作戦の事は?」

「私からも報告しておりますし、ギルドからも連絡されている筈です」

「丸投げ状態って事かの?」

「有り得るな……。成功すれば軍の功績、失敗すればギルドの責任に出来るからな」


 自分で言ってうんざりする。

 まぁ、軍の人手が足りないのは事実だ。

 この作戦には、街のほぼ全ての力を結集している。

 失敗すれば、街まで簡単に落ちる。


「失敗出来ないな……」


 俺は鉱山を睨み付けた。


「ガル、1つ気になる事がある」

「何だ?」

「坑道の中には単眼鬼サイクロプスがおったのだろ?」

「あぁ、体長は3メートル前後。甲冑を着込んでた。頭も悪くない所から見るに、いくさ慣れしてると」

「……、ワシが懸念しておるのは、其奴そやつが何処から湧いたのかだ」


 その言葉にハッとした。

 完全に盲点だった。

 グローと発見した穴の大きさは1.5メートルほど。

 とてもではないが、3メートル前後の単眼鬼が通れる穴ではない。


「つまり、以外にまだ穴があると……」

「単眼鬼が通れるとなると、荷車も通せるかもしれん」

「木こり町だけじゃなく、この鉱山自体を要塞化している可能性があるって事か……」


 そうとなると、村を襲っていたコボルドの数が明らかに少なすぎる。

 仮に1個大隊、300の兵力を隠しているとすると、その兵力の食わせる飯の量たるや。


「補給路も確立しているかもしれませんね……」


 サリィンの顔が曇る。


やっこさんの指揮官は頭が切れるぞ。ここまで隠し通してたんだからな」

「東方司令部に報告を上げます。それでも、援軍が来るかは分かりませんが……」

「来たとしても間に合わんぞい。既にガルが見つかっておる。打って出る準備を始めておるやもしれん」

「チッ……」


 俺の失敗だ。

 威力偵察でもないのに見付かるなど、斥候スカウトとしては致命的なミスだ。

 自分の事が許せない。


「ガル、お主のせいではない。ワシの情報だけでは単眼鬼の存在は分からんかった」

「いや、グローは既に強敵の存在を口にしてた。俺が見に行った意味なんてなかった」

「いいえ、そんな事はありません」


 サリィンがピシャリと言い切った。


「ガル殿のお陰で、グロー殿の仰る強敵が単眼鬼である事が分かりました。そのお陰で、敵が補給路を確立している可能性も見えてきました。これは大きな功績です」

「そうだ。お主が命を懸けて持ち帰った情報だ。無駄な情報などではない」


 グローの顔つきがいつもと違う事に、今更ながら気が付いた。

 そうか、これが軍人の顔なのか。


「ガル、戦で1番重要な事は何か分かるか?」

「……、勝つ事じゃないのか?」

「負けない事、生き残る事だ。そして、これはだ」

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