第23話 戦闘準備

「ガル!無事だったか!」

「無事とは言えねー。左手がった。それより、奴ら単眼鬼サイクロプスを引き連れてるぞ!」

「単眼鬼!?」


 その場にいる全員が目を見開いた。

 それだけ脅威なのだ。


「全体の規模までは把握出来なかった、申し訳ない」

「帰って来ただけで上々だ」

「お前のトラップに助けられた。アレがなかったら死んでた」

「簡単な仕掛けだったが、役に立ったようだな」

「村人には他の街へ避難するように言った。夕方までには完了するだろう」

「ありがとうございます。1番近いこの街へ来るでしょうから、避難民は軍の方で保護します」

「それで、軍はどれだけ出せる?」

「50弱です。援軍の見込みも今の所ありません……」


 再びの沈黙。

 しかし、俺はある事を閃いた。


「そうだ、軍とギルドの共同作戦にしたらどうだ?」

「なるほど、いいですね!」


 ブリジットがうんうんと頷いている。


「あんた、誰だ?」

「私はギルドの事務長をしています、ブリジットです」

「お!ギルド関係者か!なら話が早い!」


 俺の考えはこうだ。

 王国軍発の依頼で狗鬼コボルド及び単眼鬼の討伐依頼を出す。

 人数制限はなし。

 それで集まった冒険者と王国軍が共同戦線を張ると言うものだ。


「なるほど……。しかし、ギルドで人を募ってどれくらい集まるかだぞい?」

「現在、我がギルド支部に登録し、この街を拠点に活動している冒険者の数は200弱です」

「合わせても300にはならんか……」

「しかし、それならまだ戦える」


 俺は力強く頷いた。


「ブリジットさん、すぐに依頼を貼り出すんだ!報酬は後で東方司令部に払ってもらおう!」

「参加費も出さないとすぐには集まらないでしょうね。必要になった経費は全て王国軍に払ってもらいましょう」


 それを聞いてサリィンの顔が引き攣る。

 王国軍は金を出し惜しみするきらいがあるからだ。


「サリィン!これは王国の存亡にも係わる一大事だぞ!軍が動けないならギルドが動く!それだけの事だ!」

「……、分かりました。領収書は全て私の名前にしてください。私が責任を持ちます!」


 見上げた根性だ、発破をかけた甲斐がある。

 サリィンのその言葉を合図に、全てが動き出した。


「では、すぐに依頼書を貼り出します。作戦の開始はいつにしますか?」

「グロー、あの罠はいつまで持つ?」

「長く見積もって5日。坑道から村に出ようとする数が多ければ3日かの……」

「では、開始は3日後に設定しますが、よろしいですね。この依頼を最優先とし、冒険者を出来るだけ集めてみます」

「よろしくお願いします。私は先遣隊と共に今から村へ向かいます。グロー殿、ご一緒願えますか?」

「うむ、あの鉱山についても調べたいしの。ワシは先に村へ行く。ガルはまず左手を医者に診せろ」

「言われなくても。それが終わったらすぐに俺も向かう」


 3日ある。

 その間に出来る事は全てやる。

 数的な不利は覆せる筈だ。

 それは俺の確信だった。



示指じしの基節骨骨折、中指ちゅうし及び薬指やくしの基節骨にヒビ。こりゃ3ヶ月は掛かるかの」


 街の医者に左手を診てもらった。

 やはり折れているらしい。


「しかし、よくこんな所を折ったのぉ」


 眼鏡をかけた老耳長人エルフだが、腕はいい。

 数十年前までは軍医として働いていたらしく、処置も的確で早い。

 折れた部分を前後から挟む様に金属をあてがい、包帯が巻いていく。


「攻撃を受け流したら折れた」

「どんな攻撃を受けたんじゃか……」

「単眼鬼だよ」

「単眼鬼!?はよ逃げればええものを……」

「逃げれる状態じゃなかった。むしろ受け流せたから逃げられたんだぞ」

「逆に、よくこれくらいで済んだの……」


 この医者とも長い付き合いだ。

 なんだかんだで、命を救われたのも1度や2度じゃない。

 俺以上に俺の身体を理解してくれている。


「これじゃまともに戦えないな……」


 包帯が巻かれ、二回り程大きくなった左手を見ながら溜息を吐く。


「大馬鹿者が。治るまで安静にしておれ」

「それが出来れば苦労しない。俺も戦わないと、この街すら危ういんだ」

「ふむ……。痛み止を出しておく。右手は使っても良いが、激しい運動は避けよ。血流が増えると薬も効かんぞ」

「分かったよ……」


 俺は荷物をまとめた。


「ガル」


 医者が俺を呼び止める。


「なんだ?」

「……、ワシも連れて行け」

「は!?」


 何とも突拍子もない申し出だ。


「あんた分かってんのか!?」

「分かっておる。だから言っておるんじゃ。いくさ紛いの事が起きるんじゃろ?」

「……、何故分かる」

「元軍医を舐めるな。雰囲気で分かる。野戦病棟の設営だって慣れとる。怪我人すら出さずに終われるような作戦ではないじゃろ?」

「……、3日ある。先生は医者と看護師を集めてくれ。戦闘が大規模になる可能性もある」

「任せろ。歳を取ってもまだ現役じゃ。それと、補給の事も考えておけ。食糧だけでなく、医薬品から予備の武具も必要になるじゃろ」


 盲点だった。

 ただの依頼ならば、短期間で片が付く上に、人数も少ない。

 その辺りは現地調達で問題がない。

 しかし、今回は既に戦争の体を成してきている。

 陣を敷き、部隊を編成し、補給路を確保する必要がある。

 サリィン率いる50弱の王国軍だけではとてもではないが、そこまで手が回らないだろう。


「ありがとよ、先生。補給に関してはツテがある」

「うむ。誰も死なせんようにするぞ」


 俺はその足でフィロー商会へ向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る