第22話 数的不利
「もう少し!」
あと5メートルで外に出れる。
やっとここまで辿り着いた。
しかし、未だに追手は付いて来ている。
外に出られたとしてもどうしようもない。
このまま
どれだけの規模かも把握できていないのだ。
1人で迎え撃つのは自殺行為以外の何物でもない。
「クソ!」
出口まであと2メートル。
そこで妙な音がした。
よく見ると、出口が幾分狭くなっている。
坑道の両脇に大量の石が積み上げてある。
グローの仕業だ。
俺が振り向くと、その石達が追手の狗鬼へ襲い掛かっていた。
「
しかし、グローの姿はない。
どうやら設置型らしい。
俺が通過した後に発動するように設定されているのだろう。
「助かったぜ、グロー……」
坑道の外に出た俺は息も絶え絶えで、その場に倒れる。
こんなに走ったのはいつ以来だろうか。
足がまともに動かない。
「ギルドに……、知らせないと……」
フラフラと立ち上がった所で、馬の蹄の音がした。
「ガルさん!?大丈夫ですか!?」
役所の女性が馬を引きながら、走り寄って来る。
「なんだ、来てたのか……」
「グローさんが馬を連れて坑道まで迎えに行くようにって……」
気が利く
今回はグローのお陰で命拾いした。
「それは助かった。その馬、借りていいか?」
「勿論!軍馬程ではありませんが、村の中でも脚の早い馬を選びました!」
「助かる……。それと、この坑道だけじゃなく、全坑道に近付くな。魔王軍の残党が巣食ってるみたいだ。可能なら村の人たちを全員他の街へ避難させろ。デカい戦闘になる筈だ」
「え!?分かりました!すぐに手配します!」
「俺はこのまま街に戻る。アンタも出来るだけ早く村から離れろ」
そう言って、俺は馬に跨る。
「気を付けて!村民の避難を確認してから、私も避難します」
「出来るだけ急げ!」
馬の腹を蹴って走り出す。
今頃、グローが王国軍にも連絡しているだろう。
結局、規模までは分からなかった。
ただ、
木こりの町の大きさを考えれば1個大隊くらいは余裕で入る。
これはかなりヤバい。
とにかく俺は馬を走らせた。
†
「すぐに部隊を編成せい!敵拠点はここだ!この大きさなら300くらいは余裕で入る!」
グローは地図を指差しながら言った。
「東方司令部には早馬を出しました。しかし、返答が来るまでに2日は掛かります。それまでにこちらで部隊を編成し、先遣隊として村へ派遣します」
「それでどれくらいの数が揃えられる?」
「多くて50……。大規模な殲滅戦を中央軍が展開中で、そちらに兵力が割かれているんです」
「全く足りんな……。相手は少なく見積もっても300を下らん……」
2人は頭を抱えていた。
魔王が倒されたからと言って、すぐに平和にはならない。
残党が各地で暴れているのが現状で、それを全て王国軍で抑えるなど不可能な状態なのだ。
大規模な動きから、小規模なものまで。
王国軍のみでは手が足りないため、一部の小規模なものはギルドに外注している状態だ。
「何より、位置が悪い。この村を抑えられたら、この街まで一瞬で攻めてくるぞい」
「狙いはこの街なのでしょう。交通の要所で王都への街道もある」
「穴を掘るなど、頭を使いよって……」
グローは忌々しく舌打ちをする。
「ガル殿は?」
「
「無事なんですか!?」
「分からん。見付かれば一巻の終わりだ。帰って来ることを願うしかない」
「伍長!」
事務所の奥からコフィーヌが現れた。
「どうした!」
「非番を含め、今集められるだけの兵を集めていますが、数にして42名。文官を含めても53名にしかなりません」
「文官は4名だけ連れて行く。他は司令部との連絡役としてここに残せ。非常事態だ、馬を多く用意しろ」
「了解!それと、ギルドの方がお見えになるそうです」
「分かった、私が対応する。それが終わり次第村に向けて出発だ。隊長は私、副長はお前とラルースを任命、指揮系統を構築しておけ」
「はっ!」
コフィーヌが敬礼をして出て行く。
テキパキと段取りを済ませるサリィンに、グローは感心していた。
グローも元軍人だ。
訳あって退役し、今は賞金稼ぎをやっているのだが、戦場経験もある。
そのグローから見てもサリィンの指示は的確だった。
魔王軍との戦争が終結した後に軍人となり配属された、いわゆる『戦後配属組』のサリィンだが、仕官としての素質は有り余るほどだ。
少し安心したと言うのが正直なところだった。
「グロー殿、お疲れでしょうが、しばし私と行動を共にして頂けますか?」
「お安い御用だ。お主、
「いえ、そんな事は!緊張で心臓がバクバク言っておりますよ」
サリィンは胸に手を当てて笑った。
「うむ、笑える時点で一端の軍人よ!ワシも元は軍人だ。力になるぞ」
「何よりも心強いお言葉。ありがとうございます」
玄関のドアが開く音が聞こえた。
1人の
「遅くなりました。ギルドの事務長をしているブリジットです」
「お待ちしておりました、王国軍伍長のサリィンです。こちらはグロー殿」
「いつも世話になっとるの」
「こちらこそ。それで、王国軍はどれだけ派遣できそうですか?」
「先遣隊として50弱。あとは東方司令部からの援軍次第です」
「しかし、中央の方で大規模な殲滅戦がおありですよね?それだけでなく、中規模以上の派兵が既に7件ほど」
「よくご存じで……」
「軍とギルドは連携していますので。正直、東方司令部からの援軍は余り期待できそうにないのではありませんか?」
ブリジットの言葉にサリィンは何も言えなかった。
正直、援軍の見込みなどほぼ皆無なのだ。
何とも言えない沈黙が3人を包んだ。
「サリィン!!」
雪崩れ込むようにしてその沈黙をぶち壊したのは、他でもない俺だった。
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