第16話 次の依頼までは休ませてもらう
「例の部隊の残党でしたか……」
ゴールグが着ていた鎧を見ながらサリィンが言う。
ここは街にある王国軍東方司令部の支所。
部隊を殲滅した報奨金を受け取るついでに、
「神殿内部に残されていた指令書の解読が終わったのですが、そこにも
「薬草の採取は巨人に丸投げして、定期的に回収、輸送していたみたいだ。足跡から推察して、週に2~3回くらいか」
「その通りです。やはり、ガル殿は聡明ですね」
サリィンはニッコリと笑うが、すぐに顔を曇らせた。
「しかし残念ながら、残党の巨人の討伐では、報奨金の増額にはならないと思います……」
「いや、増額をお願いしに来たわけじゃないんだ。ただの報告だ。この巨人の討伐をもって、
「大変助かりました。巨人の死体は?」
「村の近くだったからな。街まで持ってくる訳にもいかなかったから、山中に埋めた。代わりに鎧をもって来たって訳だ」
「承知しました。後日、村への聴取に向かいます」
「あぁ、よろしく頼む」
話がひと段落した所で、コフィーヌが奥からやってきた。
「ガル殿、お待たせしました」
手には金貨が入っているであろう袋を携えていた。
「こちらが、今回の報奨金です。少額ですが、お納めください」
「いやいや、思ってた以上に多い。ありがとよ」
「ご協力、ありがとうございました」
2人が胸の前で右手を握り締める。
王国軍の敬礼だ。
「どこの馬の骨とも分からん俺らに、丁寧に対応してもらって助かったよ。機会があれば、また会おう」
俺は背中越しに軽く手を振り、支所を後にした。
「報奨金はいくら出たんだ?」
外で待っていたグローが、早速袋を開けて、金貨の枚数を数え始めた。
「なんじゃい、これっぽちか……」
グローがあからさまに肩を落とす。
「オメェは酒飲んで寝てただけだろ」
「なんだと!ワシもしっかり働いたではないか!」
「あぁ、はいはい……」
正直、めんどくさくなった。
とりあえず軍への報告も終わったし、その前にギルドへの報告も済ませている。
輸送隊の護衛と巨人討伐の報酬も入り、2ヶ月程は暮らせるくらいになった。
「よし、今晩はこれで飲むぞ!」
グローが意気揚々と歩き出したが、俺がそれを引き留める。
「待て」
「なんだ!文句でもあるのか!」
「あるに決まってんだろ。その金は貯蓄に回す。飲みたいならもう1件依頼をこなせ」
「えーーーー」
グローが不満の声を上げる。
「折角飲めると思って、楽しみにしておったのに……」
「村でもたらふく飲んだじゃねーか」
「あれはあれ、これはこれだ」
「屁理屈言うな」
俺はグローから金貨の入った袋を奪い取る。
「ガルはケチだのー」
「うるせぇ。お前に持たせたら一瞬で消えるからだろ」
「ワシの血となり肉となるんだ。無駄ではないわい」
「無駄だ!」
「ガル殿!」
言い合う俺達を、後ろから呼び止める声がした。
「ん?サリィンか、どうした」
「いえ、ちょうど今、報告書が上がってきましたので、ガル殿にお知らせしようかと。グロー殿もいらっしゃったとは、ちょうど良かった」
「報告書?」
「エルウィン殿の事です」
そう言って、サリィンは一枚の羊皮紙を俺に渡してくれた。
そこには、エルウィンが王国民として認められた事、週明けからは考古学研究所の特別職員として働き始める事が記載されており、貴重な人材の発見、保護をしてくれた事への感謝が書かれていた。
「これで、エルウィン殿も安心して暮らせる筈です」
「アンタらのお陰だ、ありがとう」
「いえいえ、我々は送り届けただけです。保護して下さったのはガル殿とグロー殿ですから」
「今の時代の暮らしに慣れればよいがの」
「既に日常会話が出来るようになってきているようですよ。かなり聡明な方のようで」
「あとは王国が面倒見てくれるだろう、心配ない」
その後しばらく3人で立ち話をした後、サリィンは業務に戻って行った。
「グロー」
俺は袋の中から金貨を1枚取出し、グローへ投げた。
「お?なんじゃい」
金貨を受け取りながらグローが俺を見る。
「今日はそれで飲め。またいい
そう言って俺は背中越しに手を振り、家路についた。
「ッケ、ガルの奴……。これだから手を切りたくても切れないんだ……」
グローはブツブツと言いながら繁華街の方へと歩いて行った。
「はぁ、手入れでもするか……」
自宅に着いた俺は、今回の1件で稼いだ金貨を、鍵付きの箱に仕舞い、いつも使ってる装備の手入れをする事にした。
作業台を引っ張り出し、その上に剣や
まずは剣を手に取った。
この剣は、幼い頃から世話になった人に貰ったものだ。
冒険者が使う剣とは造りからして違う。
片刃で緩やかな反りのある刃渡り。
これを譲ってくれた人は『カタナ』と呼んでいた。
『ソハヤ』という名前らしいが、よく分からない。
柔らかい
まぁ、本当によく分からないが、手入れをしないとすぐに使い物にならなくなる。
まずは柄に巻いた革紐を解いていく。
この革紐の巻き方も特殊で、『
革紐を解き終わり、柄に巻かれた
木製の柄の真ん中、柄に刀身を固定している
左手で柄頭を握り、剣を斜めに立て、右手の拳で軽く左手首を打つ。
適当に抜けてきたところで、柄から刀身を取り出す。
「はぁ、コイツの手入れが一番面倒だよな……」
そうぼやきながら、俺は次の依頼の為に黙々と手入れを続けた。
『
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