第15話 使えるものは全て使わせてもらう
「じゃあ、村長。ゴールグはこの薬草畑の管理人になるって事でいいか?」
「えぇ、勿論ですとも。森人ならば、拒む理由はありません」
とりあえず、第一段階は完了だ。
俺は第二段階を進める事にした。
「ところで、依頼はそのまま取り下げずに、討伐完了って事にしていいかな?」
「はぁ?」
老人達から間抜けな声が出た。
「いや、だから、アンタらが出したトロル討伐の依頼は、俺が
俺の言っている意味が理解できないのだろう、老人達はしばらく目を白黒させた後、文句を言いだした。
「倒してもおらんのに討伐完了じゃと!」
「ふざけるなこの
「詐欺じゃ!」
まぁ、当然の反応だろうが、俺だって引き下がる気はない。
俺はゴールグがくれたアニキリを塗った患部を指差しながら言う。
「依頼を受注した冒険者に依頼主が危害を加えた場合、依頼を餌に人を釣り、人身売買等の犯罪行為を行っている可能性を疑われ、処罰されるのは知ってるか?」
その言葉に、老人達の顔はみるみる青くなった。
「魔王が倒されて間もない今、こういう事故にはギルドも敏感で、精査の対象になる。この場にいるアンタら全員が王国軍の憲兵の尋問を受ける事になるぞ?魔王軍との繋がりなくとも、冒険者を傷付けた罰金は依頼の手数料の何十倍も高い」
ちょっと言い過ぎた気もするが、まぁいい。
老人達がだんまりを決め込んだ所で、今まで一言も発していなかったピュートが口を開いた。
「ガル殿。取り下げた場合、ガル殿がギルドに我々を突き出す事は分かりました。しかし、討伐が出来ていない以上、依頼を完遂したと報告するのには無理がありませんか?」
まぁ、普通に考えればそうだ。
しかし、俺も何の策も無しにこんな事を言い出したりはしない。
「良い質問だ、ピュート。依頼書の内容を思い出してみろ。討伐対象は『武装した巨人』だ。今ここに武装した巨人はいるか?いるのは、優しい幼い巨人だ。討伐対象じゃない」
「いやいや、どんなトンチですか?」
「トンチを言ってるつもりはない。その代わり、この鎧は貰うぞ、ゴールグ」
「エ?イイヨ?」
「鎧を何に使うんですか?」
「これを戦利品として、討伐した事にする」
その場にいる全員がポカンとした。
「そんなのでギルドが納得するんですか!?」
流石にピュートが取り乱した。
「まぁ、通常なら信用しない。必ず見聞が行われるからな。だがこれは、ギルドから王国軍の案件になる。討伐対象がただのトロルではなく、魔王軍の巨人だからだ」
そこでやっと老人たちは、ゴールグが魔王軍に所属していた事を知った。
「ここに来る前、俺とグローで潰した
そう言って、ゴールグが着ていた鎧の右肩をピュートに見せる。
「確かに、同じ
「
「任務?」
「ゴールグは恐らく、ココで
「ウン、草集メテ、袋二入レル。ソレヲ、矮鬼ガ取リニ来テタ」
「既に部隊は殲滅した。その残党である巨人を俺が倒した。見聞が必要だが、死体を持って帰る訳にもいかないので、鎧だけ剝ぎ取り、埋めた。部隊殲滅の功績が既にある俺だから、疑われることもない」
そこまで言うと、ピュートも黙り込んだ。
「本当にうまくいくんですか……?」
「大丈夫だ。アンタらに迷惑は掛からん。もし軍が見聞に来ても、ゴールグは昔からいると言えばいい」
誰も一言も発しないが、疑いの目で俺を見てくる。
「だったら、他にいい案があるのか?」
老人達は押し黙り、目を見合わせるだけだ。
最終的に結論を出したのは、やはり村長だった。
「分かりました、ガル殿。この件は全てお任せします」
「助かるよ、村長。さて、話はついた。解散だ」
俺はゴールグの鎧を集める。
「手伝いますよ、ガル殿!」
ピュートが籠手を拾う。
兜も拾うとするが、巨人用の大きい籠手で既に手がいっぱいだ。
「森人殿」
村長がゴールグに近付く。
「歓迎の宴をしたいのですが、ご参加頂けますかな?」
「ウタゲ……?」
「お前も今日からこの村の一員だ。歓迎のパーティをしてくれるってよ」
「オデ、行ッテイイノ?」
「貴方が来ないと始まりませんよ」
村長はニッコリと笑う。
「行ク!」
飛び上がるように喜ぶゴールグ。
そうして、ゴールグを含めた俺達は村へと戻った。
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