第14話 俺抜きで話を進めないでくれ

「とりあえず、お前と話がしたいんだ、巨人トロル。見た通り、武器も外してる。お前に危害を加える気はない」


 両手を広げ、丸腰である事をもう一度確認させる。


「オデト、話?」

「そう、お前とだ。ついでに、この人たちも一緒に話をさせてくれると嬉しいんだが」


 俺は村長達を親指で刺しながら言う。


「オ前ヲ、イジメナイ?」

「大丈夫だ。この人たちは俺の知り合いだ」


 巨人は俺と老人たちを交互に見る。


「分カッタ。コッチ。日向ボッコシナガラ、話スル」

「お、いいね。村長たちも、武器を置いて来てくれ」

「お、おう……」


 老人たちはオドオドしていた。

 どうなっているのか理解が追い付いていないのだろう。

 とりあえずは農具を一カ所に集め、俺と同じように丸腰のまま巨人に付いていく。


「ココ、オデノオ気ニ入リ」

「気持ちいい所だなぁ」


 そこは日光が燦々と降り注ぎ、心地いい風が吹く場所だった。

 俺は大きく伸びをする。

 不意に、ズキリと痛む。

 先程、鋤で刺された所だろう。

 硬革ハードレザーの鎧の下には、薄手だが鎖帷子を着込んでいる。

 刺された鋤の先は鎖帷子で止まり、血も出ていないが、流石に打撲にはなっているだろう。


「痛イ?」

「いや、軽い打撲だろう。自然と治る」

「待ッテテ……」


 巨人は少し離れた場所の草を摘み取り、それを手で揉みながら戻ってきた。


「コデ、痛イ所ニ付ケル。治リ、早クナル」

「それは……!」


 老人の一人が声を上げた。


「なんだ?」

「それは、アニキリか!お主、薬草の知識もあるのか!」

「全部、ジイチャンニ、教ワッタ。耳長人エルフノ言葉モ、草ノ使イ方モ」

「賢いな、お前」


 そう言って、俺はトロルからすりつぶしたアニキリを受け取り、上半身裸になった。

 鋤を受けた場所は赤くなっていた。

 アニキリを患部に塗り、血拭い用の布を当て、布で作った紐で固定する。


「さて、話なんだが……。まずは、トロル」

「オデ、ゴールグ。人間ヒューム、名前ハ?」

「俺か?俺はガルだ」

「ガル、覚エタ」

「ゴールグ、お前、『森の巨人』だな?」


 老人たちはポカンとしていた。

 あまり知られていないが、巨人にもいくつかの種類がいる。

 ちなみに、一般的なイメージの巨人は『里の巨人』と呼ばれ、個体数が一番多い。

 ゴールグの様な『森の巨人』は、『深緑の巨人』や『苔生す巨人』とも呼ばれ、森の奥深くに住むと言われる。

 その背中や肩には苔が生え、じっとしていると大きな岩にしか見えない。


「オデ、良ク分カラナイ……」

「森の巨人とは、聞いた事がない……」


 老人の一人が頭を傾げた。


「アンタら、森の中に住んでて知らないのか?山の巨人と呼ぶ所もあるぞ」

「ガル殿、それはもしや『森人もりびと』の事ですかな?」


 村長が言った。


「森人?初めて聞いた」

「ワシも祖父から聞いた話しか知らないのですが、『森人がいる森は豊かになる。絶対に傷付けてはならん』と」

「あぁ、恐らくその森人が森のトロルの事だ」


 俺は村長達に詳しく説明した。


「森の巨人は深い森の奥に住み。身体には苔が生えている。ゴールグ、すまないが鎧を脱いでくれないか?」

「鎧?分カッタ」


 そう言ってゴールグは籠手を外し、兜を取る。

 つぶらな瞳の優しい顔つきだ。

 そして、やはり幼い。

 年齢的にはまだまだ子供だ。


「コレ、取レナイ……」


 ゴールグは胴とタレを外そうとするが、外し方が分からないらしい。


「ゴールグ、外してやるよ」


 俺はゴールグの背中に回り、胴と垂の固定具を外した。


「取レタ!」


 ゴールグは布の腰巻き一枚だけの姿になった。

 その身体は深緑の色。

 苔も生えているが、鎧を着込んでいたせいか、多くが剥がれ落ち所々にしか残っていない。


「こんなに剥がれ落ちて……、大変だったな」

「脱グナッテ、言ワレタカラ。ア、脱イジャッタ……」

「大丈夫だ。その姿の方が、お前も楽だろ?」

「ウン、気持チイイ」

「村長が言った通り、森の巨人は住んでいる森を豊かにする。コイツが伸び伸び暮らせると、コイツの身体から特殊な魔力マナが溢れ出してくる。その魔力が森を豊かにするんだ。草木は生い茂り、虫や動物も増える」

「魔王軍との戦争が始まる前、この森にも森人がいたと聞きました。しかし、もう100年以上前の話です。そうですか、貴方は森人なのですね」


 村長は進み出て、嬉しそうにゴールグの手をさすった。


「ガル殿、討伐依頼は取り下げてよろしいですか?彼には、ここに住んで貰いたい。勿論、彼の食事などは我々が用意します。依頼の報酬も払います」

「村長!」


 村長の発言に老人たちが慌てた。


「報酬まで払う必要はないでしょう!」

「そうじゃ!何もしておらんではないか!」


 この老人たちはケチだな。

 まぁ実際、討伐していないから報酬ももらえないのが筋だろう。


「オデ、ココ二住ンデ良イノ?」

「勿論!是非とも住んで貰いたい!」

「オデ、家、モウナイ。ココ、ジイチャンノ家ト、同ジ匂イ。ダカラ、ココ、好キ」


 だいたいの話はまとまった。

 鋤を受けた俺を抜きでだ。

 まぁ、その甲斐もあった様だが。

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