第13話 余計な手間を取らせんでくれ

「あそこにいるのが巨人トロルです……」


 茂みの中でガーランが言った。

 その場所は村からそんなに離れていなかった。

 山を少し登った先に、大きく拓けた場所があり、そこには様々な草花が生い茂っている。

 その草原の真ん中辺りに、大きなが影がポツンと座ったいた。


「確かに、3メートルもなさそうだな」


 遠目に確認しただけだが、やはりあまり大きいという印象はない。

 恐らく、まだ幼い巨人だろう。

 金属製の腰巻きと胸当てという軽装の鎧を着ているが、武器らしきものは持っていない。

 何とも中度半端な武装だ。


「あれは武装って言えるのか……?」

「何を言ってるんですか!鎧を着てるじゃないですか!」

「鎧つっても、あれじゃ服着てるのとそんなに変わらんぞ?脚や腕、何より頭が丸出しだ。武器だって持ってないだろ」

「相手は巨人ですよ!?武器なんてなくても、岩を投げてくるかもしれない!」


 まぁ、圃矮人ハーフリングから見れば、2メートルでも充分大きいか。

 とりあえず、場所は分かったので、一度村に戻る事にした。


「グロー、起きてるかー?」


 昨夜は遅くまでどんちゃん騒ぎをしていたグローは、例に漏れず惰眠を貪っていた。


「……、まだ寝る」

「滅茶苦茶仕事に支障が出てますけどー?」

「うるさい、今日くらい良いだろ……」


 ベッドでゴロゴロするこの鉱矮人ドワーフにたまに殺意が沸く。


「で、巨人はおったのか?」

「あぁ、見て来た。俺の見解だが、聞いてくれ。上手くいけば戦わずに済む」


 そう言って、俺はグローに話をした。


「なるほどの。そうであったら誰も傷付かずに済むの」

「だから、今日の内に巨人の方を片付けて、村長に打診してみる」

「お、頑張ってくれ」


 グローは横になったまま手を振る。


「お前も来るんだよ!」

「嫌だ!もう少し寝かせろ!」


 髭面の酒臭いオッサンに駄々をこねられても不快でしかない。

 俺は溜息を吐いて、1人で行く事にした。

 山道を少し歩くとすぐにその場所に着く。

 俺は巨人のいる場所を中心に周辺を隈なく調べ回った。

 調べた結果から、俺は自分が立てた仮説が正しいと確信した。


「うん、これでいい」


 俺は装備していた剣を外し、荷物と一緒に草原の手前に置いた。

 戦う意思がない事を示す為だ。

 そして、そのまま巨人へと近付こうとした時だった。


「ガル殿ぉ!」


 それは村長をはじめとした村議会の議員たちだった。

 皆、手には鎌や鋤などの農具を持っている。

 恐らく、自分たちなりの武装なのだろう。


「村長?」

「小さいとは言え、相手は巨人!ワシらも加勢しますぞ!」


 既に興奮状態だ。

 これは非常にまずい。


「皆さん、武器を捨ててください!戦うために来たんじゃないんです!」

「事は早い方が良い!今の内に倒しましょうぞ!」

「そうじゃそうじゃ!夜には祝杯じゃ!」


 やいのやいのと声を上げる老人たち。

 これでは巨人にいつ気付かれてもおかしくない。

 このような状況だと戦闘になる。

 そうならないための策だったのだが、全てが台無しになりかねない。


「皆さん、一度落ち着いて!」

「なに、ワシらだって無駄に歳を取っとる訳ではありませんぞ!」

「村を守るためなら、命だって惜しゅうない!」


 何なんだ、こいつらは……。

 そんだけの覚悟があるなら依頼など出さずに自分たちで解決出来たのではないだろうか。

 まぁ、そんな事は置いておこう。


「ガル殿、申し訳ありません!」


 村長たちから遅れて、ピュートが走ってきた。


「どういう事だ、ピュート!」

「止めようとしたのですが、この有様で……。グロー殿に止めてもらおうとも思ったのですが、全く起きてもらえず……」


 あのバカはどうしようもない、全くの役立たずじゃないか。


「とにかく、静かにしろ!」


 ブチギレた俺の一言に全員が黙った。

 いや、圃矮人達は俺を見ていない。

 最悪だ。

 この老い耄れどものお陰で、全てがパーだ。

 剣も置いてまま、丸腰の状態で、俺は恐る恐る後ろを振り返る。


「ダレ……?」


 そこには、見上げるくらいの大きさの影が。

 クリクリとしたつぶらな瞳で、俺を不思議そうに見下ろしていた。


「でっ、出た!」

られる前にるしない!」


 半狂乱になる老人たち。

 かなりヤバい状況だ。

 現状のコイツらだと、巨人を嬲り殺しにしかねない。


「辞めろと言っている!」

「なんじゃ!お主はワシら味方じゃなかったのか!」

「敵じゃ敵じゃ!」

「邪魔をするでない!」


 一人が4つ股の鋤を突き出し、俺の胸元を刺した。


「辞めろと、言っているのが、分からんのか」


 俺は殺気を放ちながら凄んだ。

 老人たちは俺の雰囲気に押され、手にしていた農具を捨てた。


「イタイ?大丈夫?」


 頭の上から低く優しい声が響く。


「お前、耳長人エルフ語喋れるのか」

「オデ、耳長人ノ言葉、喋レル。黒醜人オークノ言葉、喋レナイ」


 そう言って、トロルはゆっくりと俺の前に立った。


「イジメ、ヨクナイ。コノ人間ヒューム、武器ナイ。オデ、人間、助ケル」


 予想外の展開に、俺は少し笑ってしまった。

 とにかく、コイツは耳長人語が喋れるのってのは手っ取り早い。

 老人たちも大人しくなった事だ、話をするにはちょうどいいだろう。

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