第12話 まずは情報収集だ

 その後は何の問題もなく、翌日の夕方には無事に村へ到着した。

 ゴブリンの殲滅で予定より1日遅れになったが、圃矮人ハーフリング達は街道の安全が確保された事に喜んでいた。


「護衛、ありがとうございました!」


 満面の笑みでピュートがお礼を言う。


「まだ気が早いぞ、ピュート。本命はトロルだろ?」

「その件なのですが、詳しい話を村の者達が話したいと申していまして……」

「こちらとしても情報が欲しかったところだ」

「では、今晩は村長むらおさの家にお出で下さい。情報提供を兼ねて、宴の用意をしているとの事です」

「宴?」

「ほっほ~、そいつはええのう!」


 グローの頬が緩む。

 まぁ、晩飯をご馳走してくれるのはありがたい。

 しかし、明日から動こうと思っているので、酒は無しの方向でお願いしたい。


「ピュート、宴はありがたいが、明日から任務に就くつもりなんだ。酒は無しで……」

「何だと!?」


 グローが案の定、大声を上げた。


「折角用意してくれた酒を断ると言うのか!」

「いや、だから……。仕事に支障が出るだろうが……」

「酒を飲まん方が支障が出るわ!」

「ふざけんな!二日酔いで初日爆睡してたのは誰だよ!」

「何の話は分からんのぉ~」

「てんめぇ~!」

「まぁまぁ、お二方、その辺で……」


 何とか仲裁しようとピュートが間に入ろうとするが、如何せんグローよりも背が小さいので全く効果がない。


「ガルが飲まんでも、ワシは飲むからの!酒樽を用意させとけ!」


 それだけ言い捨てて、グローはピュートが用意してくれた宿に向かった。


「アイツが飲む酒は水多めで割ってやれ!」


 酒が絡むと鉱矮人ドワーフはめんどくさい。

 みんなも覚えておいた方が良い。



 村長の家には大きな広間があった。

 村議会もあるらしく、普段はこの広間で村に関する会議を行っているらしい。

 村民は全員圃矮人。

 長閑な生活を送っているようだが、この村で作られた農作物や特産の水薬ポーションは商団が買い付けに来るお陰で、村自体はかなり裕福なようだ。


「よくぞ来てくださいました。心より歓迎致しますぞ」


 村長が深々と俺達に頭を下げる。


「いえいえ、依頼をこなしに来ただけですので、ここまでの歓迎には及びません」

「ガハハ!ここの酒は旨いのぉ~」


 俺と村長が挨拶をしているのもそっちのけで、グローは既に酒を浴びるように飲んでいた。

 もう溜息しか出ない。


「ほっほっほ、お連れの方は陽気な方ですなぁ」

「ただの馬鹿な酒好きです……。それより、件のトロルの話をお願い出来ますか?」

「分かりました。巨人トロルを目撃した者を数名呼んでおります」


 村長が手を上げると、3人の圃矮人が俺の前にやってきた。


「右からポー、ガーラン、エドです」

「アンタ達が目撃者か」

「ガーランと言います。最初に見たのは僕です。その後、友人のポーとエドを連れて、もう一度見に行ったんです」

「なるほど……」

「詳しくは夕餉を召し上がりながらでも」


 村長に進められ俺もテーブルにつき、3人から詳しく話を聞いた。

 最初の目撃は3週間ほど前らしい。

 薬草を取りに行ったガーランが大きな影を見たという。

 初めは全く気が付かずに、かなり近付いてしまったらしく、咄嗟に必死で逃げたためにその時の事はよく覚えていないとの事。

 その後、ポーとエドを連れ再び戻り、それがトロルだと視認したとの事だった。


「大きさは?」

「凄く大きかったです。2メートルくらい?」

「2メートル?」


 俺は首を傾げた。

 トロルも何種類かいるが、その大きさは2~5メートル、平均は3メートルくらいだ。

 2メートルと言うのは、圃矮人から見ればかなり大きいかもしれないが、巨人としては少々小さい。

 その癖、武装しているらいしい。

 どうも腑に落ちない。


「とりあえず明日、巨人がいるって場所に案内してもらえるか?」

「えっ……」


 アラン達の顔が曇った。


「ハハハ、安心しろ。明日は様子を伺うだけだ。戦闘にはならない」

「それなら……」

「戦いとなったら、ワシらも行きますぞ!」


 声を上げたのは村議会の議員をしている老年の圃矮人達だった。

 完全に出来上がっている。


「ワシらの薬草園を荒しおって、許せん!」

「そうじゃそうじゃ!楽に死ねると思うなよ、でくの坊の巨人め!」


 この村の老人たちはかなり過激なようだ。


「そうだそうだ!ワシに任せておけ!」


 それに拍車をかけているのが、これまた見事に出来上がったグローだった。

 俺はうんざりと頭を抱える。

 出来上がるにしても早過ぎる。


「水で割れって言っただろ、ピュート……」


 隣に座ったピュートにそう言うと、ピュートも困った顔をした。


「ガル殿、ダメです。この村の酒は通称『火酒ひざけ』、滅茶苦茶に強い酒なんです……。割ろうとしたら、あの老人たちに妨害されました……」

「ちょっと待て。じゃあ、何か?その火酒を全く割らずに飲んでんのか、アイツら……」

「そうです……。圃矮人も鉱矮人も酒には目がない種族なので……」

「はぁ……」


 より一層頭を抱える俺の元へ、村議員の一人が酒を持ってきた。


「ささ、ガル殿もどうぞ!この村の酒は旨いですぞ~。エールなんて馬のションベンみたいなモンです!」

「いえ、俺はいいです……。明日に支障が出るといけませんので……」

「ウチの酒が飲めないって言うんですか?」


 急に不機嫌になる酔っ払い。


「ソイツは付き合いが悪いからほっとけ!それより、こっちで飲もうぜ、議員殿ぉ!」


 酔っ払いが酔っ払いを呼び戻してくれた。

 まぁ、こういう時は有り難いが、コイツは本当は酔ってないんじゃないかと思う事がたまにある。

 とりあえず、酒を飲む奴はグローに任せておこう。


「ピュートは飲まないのか?」


 先程からお茶ばかり飲んでいるピュート。

 圃矮人も酒が好きだと、ピュート自身が言ったのだが。


「それが、私は下戸でして……」

「そうなのか?」

「エールでさえ、一口でも飲んだら記憶が飛びます」

「珍しいな。飲みに誘われたりもするだろう?」

「たまにあるんですよね、取引先の方に誘われる事。その時は酒の強い同僚を代わりに行かせてます」

「それがいい。アンタも色々大変だな」

「命を取られるような現場じゃないですから、ガル殿よりも楽ですよ」

「お2人とも、お酒を飲まれないのでしたら、どうぞ、料理をご堪能下さい。森の村ですので、山菜やキノコが美味しいですよ」


 村長が目の前に並べられたご馳走を小皿に山盛りで渡してくれた。


「うん、これは旨そうだ」


 キノコとヤギのチーズをたっぷり使ったグラタン、山菜などがてんこ盛りのシシ鍋、カラッと揚がった山菜の天ぷらに塩焼きされた川魚。

 それ以外にも様々な料理が所狭しと並べられていた。

 勿体ないくらいの豪華な料理に舌鼓を打つ俺とピュートだった。

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